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再び懺悔室から地上に戻る。
懺悔室の質素な扉を開けると、仕事帰りの地元の信者たちが笑みを浮かべて会釈をしてきた。
外はすでに夕暮れ。
西海岸特有の赤い陽が傾き、駐車場の白いICEのSUVを深紅に染めている中、ベンはポケットからキーを取り出し、オープンのボタンを軽く押した。
「オフィスに戻る前に、食事でもしていくか?」
乗り込んで扉を閉めると、メイジーは鉛のように重い身体をシートに沈め、シートベルトをかちりと締め……長く吐息を漏らす。
「……ご遠慮させていただきます。なんだか、どっと疲れて。あんなのを見たあとでは……」
ベンは短く頷きながら、SUVを静かに発進させると、車内には沈黙と疲労の気配が漂う。
夕焼けが側面の窓を照らし、流れていく景色の中で街のビルや標識の影が引き延ばされていく。
「FBIのXファイルから来たんだろ?」
ベンが不意に口を開いた。
「オカルト話は慣れっこじゃないか?」
「まぁ……宇宙人にさらわれたって調書だの、呪いの人形のせいで人が死んでるだのは、20世紀FOXに売るほどありましたけど……」
メイジーは小さく笑ってみせたが、その笑みはすぐに消えた。
視線は、フロントガラスの向こう……沈みかけた太陽が、遠くの送電線を黒く切り取っている。
「でも、あれは信じてる人がいる馬鹿な話って前提で処理できたんです。どこか他人事でした。……まさか、現実でなんて」
「信仰より現実が上回る時代だ。逆もまた然りさ」
ベンの声はあくまで平坦だった。
ハンドルを握る手に、無駄な緊張は見えない。
「でも、あの人……生きてるつもりだったんですよね」
メイジーの声が、夕焼けの中でわずかに震えた。
「そのつもりだったな。だが、審判は来る。辞任がようがいまいが関係ない」
答えるベンの声音には、どこか諦めにも似た静けさがあった。
まるで、何百回も同じ場面を見てきたようだった。
「……こんなの、日常になるんですか?」
「日常ってのは、繰り返されることを言うんだ。慣れるかどうかは、まぁ、別問題だな」
その一言に、メイジーは黙り込んだ。
SUVは赤信号に減速し、交差点の前で停止する。車内には、夕暮れと疲労だけが流れていた。
疲労を押し流すようにベンが、カーラジオのスイッチを押しこむと中国語の曲が流れ始めた。
「今どきジャッキー・チェンもないだろうにな」
「誰です、それ?」
「嘘だろ?」
ベンが驚愕の表情を浮かべ、メイジーが小さく肩をすくめる。
「香港映画とハリウッドの大スターだぞ?」
「そんなに有名なんですか? ユーチューバーみたいな?」
「馬鹿いえ人類の歴史においてだな、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、そして……それ以降は退屈な現代だ」
「へぇ。私が生まれた頃にはもう……」
「言うな。こっちはまだ現役でアクションできると思ってんだから」
そう言ってウインカーを出すと、ベンは車線をひとつ左に移した。
メイジーは助手席で目を閉じ、そっと額に手を当てる。
灰色の顔をした男の瞳が、脳裏に焼きついていた。
あれが「死者」なら、自分はどこに立っているのだろう。
「ラジオ消すか?」
ベンの声に、彼女は目を開けた。
「……いえ。音がないと眠ってしまいそうで」
「眠れるうちは大丈夫だ」
その一言が、妙に頼もしく響いた。
SUVはハイウェイの出口を下り、夜の街に入っていく。
礼拝堂の鐘が遠くで鳴った気がしたが、それが現実か遠い記憶か、ゆっくりと舟をこぐメイジーには判断がつかなかった。




