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「謝謝」
「休日の昼から呼び出したにしちゃマシなデートだったろ?」
ハイウェイのネオンがアビエーターのレンズを不規則に跨ぎ、街の明かりを背に、古びたアパートの駐車場へ車を滑り込ませた。
「道具に頼るのは感心しません、美国人の悪い癖です」
「テクノロジーは人の力だろ」
ベンは答えの代わりに鼻を鳴らし、EVPリーダーをグローブボックスにほうり込む。
「謝謝。 では、月曜日に」
ビーリンは助手席のドアを閉めると、ベンはひらひらと手を振って見せ、日本車は夜の街へと消えるように去っていった。
静まり返ったアパートの階段を上り、鍵を開けて部屋に入ると、濃厚な生活の気配が彼女を迎える。
「お帰り……」
「……我回來了」
僵屍のような顔でソファーに横たわる同居人に挨拶し、スーパーの袋をテーブルに広げる。
「……何それ、すっごいいい匂い」
ソファーの主が、這いずるようにしてテーブルへ這い寄ってきた。
ビーリンが買ってきた馬告の袋を開けると、柑橘めいた爽やかな辛みが、殺風景な
部屋の空気を一瞬で塗り替える。
「その袋が陳皮と桂皮、良姜、丁香、五香粉ではどうしても香りがコントロールできませんから……そちらは……」
ビーリンがメイジーに視線を向けて眉をひそめた。
「獣の臭いですね」
「わかる?」
メイジーは真顔で言った後、ドサッとソファーに帰った。
「……夕食を準備します。簡単なものですが」
「ルンバは?」
「誰にでも休日は必要です」
「あっ、そ……」
天井を見つめたままそう言ったメイジーをしり目に、ビーリンは冷蔵庫を開いた。
「招魂師ですか」
「あたり」
包丁の音を聞きながら、メイジーは魂が抜けたように一日を振り返っていた。




