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Enjoy your stay.  作者: ゆう
case.6
46/52

6-6

 バックミラーに映る賑わいが、遠くで西海岸の昼の日差しに溶けていくのが見える。

 異郷の地で、かつて誰かが建てた小さな廟。

 そういった小さなの光がこの国ではひっそりと消え去っていく。


「……领班(ボス) 、どこに向かっているんですか?」

「せっかくだ、昼飯、食ってくだろ?」

「この辺に旨い広東料理屋があるんだ、食は広州にありだろ?」

「正しくは生在蘇州、穿在杭州、食在広州、死在柳州。です……寄り道するのであれば遠回りを。食後に99 Ranch Market に寄っていただけますか」

「冷凍餃子でも買うのか?」


 ベンがアビエーター越しにルームミラーを見つめると、美鈴は窓の外の退屈なファストフードの看板を見つめたまま応じる。


「香辛料を買います。馬告の取り扱いがあるようですので」

「そいつは重畳だな。想像もつかないが、食い物か?」

「マーコウ?」


 少女がビーリンに無邪気な好奇心丸出しの声で尋ねた。


「マーコウって……山椒のこと? あの、すごいスパイシーでピリッとするやつ?」

「……四川山椒は花椒、台湾のものは馬告。どちらも料理に使えば美味です」

「うわぁ、私も食べたい! どんな味がするの? チリペッパーみたいに辛い? それとも麻なの?」

「……味よりまずは香りですよ」

「嗅いでみたい!」


 ビーリンが苦笑しながら首を振ると、少女は身を乗り出すと座席の上でぷんぷんと頬を膨らませ、ベンは軽く笑った。


「ガキがまたひとり増えたな」

「そう言わないでください、領班。もう一人の子供は恐らくまだ夢の中です」

「ははっ、言うねぇ」


 ベンは笑いながらウィンカーを点灯させる。


「生憎、四川料理じゃないが、似たようなもんだろ」


 ベンは片手で器用にハンドルを回し、国道から寂れた商業区画へと車を滑り込ませた。

  色あせたグリーンのオーニングに、大きく『香江酒家』と書かれた文字が、昼の強い光に晒されている。

  車が停まると、少女は窓にぴったりと顔を寄せ、物珍しそうにプラスチック製のチープな看板を見つめた。

 ビーリンはチラリと視線をやり、ルームミラー越しにベンと視線を合わせた。

 その横顔は、ただの幼い子供のようでもある。


「……領班、その認識は改めた方が良いと思います。『素人』判断は危険ですので」


 空気を切るように捨て台詞のように言ったビーリンに続いて少女が降りてから、ベンはアビエーターを少し下げ、ダッシュボードのEVPリーダーの電源を落としながら、ただ肩をすくめてみせる。


「まぁ、プロがそういうなら任せるさ」

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