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Enjoy your stay.  作者: ゆう
case.6
43/52

6-3

「それ食べたい!」


 廟を離れた美鈴についてきた少女が屋台を指さし、美鈴は小さくため息をついた。


「……1つ」

「ハイよ、20ドル!」

「20? ……敲竹槓(ぼったくりですね)」


 QRコードを読み込み、差し出されたパックを受け取った瞬間、油と醤油の香ばしい匂いが立ちのぼる。炒めた麺と焦げ目のついた野菜、大ぶりのチャーシューが顔をのぞかせていた。

 湯気の向こうで、少女の輪郭が古い写真のように淡く揺らめいた。

 まるで記憶から抜け落ちた何かが、そこに形を保っているかのように。


「どうぞ」


 少女は猫のように光る瞳で美鈴を見上げ、無邪気に笑った。


「ありがとう!」


 その声は路地の空気をうきうきと跳ねさせた。


「それで、なにか未練が?」


 少女は麺を頬張る。その仕草は現世の子どもそのもの。だが、美鈴には背後に滲む別の気配がはっきり視えていた。静かに問いを投げる。


「未練?」


 少女は麺をくわえたまま、きょとんとした顔で美鈴を見返した。


「ううん、別に?」


 その反応に、美鈴は小さく首を振る。視線を戻し、問いを変える。


「では、なぜとどまっているんです? 移り気な民を……滅ぼすつもりとか」


 美鈴の眼差しは、少女のまとう異質な空気を見抜いていた。

 だが同時に、それは人間らしい温かみも帯びていた。思わず口をついて出た言葉だった。


「滅ぼす……? そんなこと、考えたこともないよ。私はただ、ここにいるだけ。気づいてくれる人も、ほとんどいなくなったけど」


 少女の一言に、美鈴は少し思案しながら狭い空を見上げる。


「祠を建立……いえ、この場合は正式にお帰りいただくのが筋でしょうか。少なくとも、職務上は」

「帰る? そうだね?」


 少女が首をかしげ、美鈴は曖昧に笑って視線を落とす。

 路地の隅、闇に溶けた毛並みのあいだから、幾つもの瞳がじっと覗いていた。

 彼らはきっと、かつて船乗りに連れられてこの大陸へ渡ってきた猫たちの末裔。

 今は、ひっそりと見守っているのか、あるいは、見守られているのか……


「ハァ……風を看ながら舵を切るしかなさそうですね」


 少女に気づかれぬようスマホを操作しながら、小さくため息を漏らした。


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