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登り切った朝日が、乾いたネヴァダの空を染め上げる。
陽光の下、小さな土産物屋の駐車場はすでに警察の封鎖線に囲まれていた。
ラスベガス都市警察の警官たちが、交通規制と現場保全に追われ、消防の赤い車両がその間を縫うように立ち回っている。
そんな現場に、封鎖が解除されて込み合う州道からゆっくりとピックアップトラックが入ってきた。
粉塵を巻き上げて車を停めたベンが、窓を開けて声をかける。
「おはよう。ようこそ、週末のネヴァダへ」
ライダースーツの上半身を脱ぎ、腰で結んでいたビーリンが、日陰から静かに頭を下げる。
「おはようございます」
その隣、同じ格好でタオルを顔にかけて仰向けに寝転がっていたメイジーが、わずかに手を動かした。
「……これ、休出ですよね?」
声に力はない。乾いた喉で絞り出すような一言だった。
「いや、月曜が代休になって、通常出勤扱いだ」
「ああ、シット……」
顔をタオルに埋めたまま、メイジーが力なくうめく。
ベンは肩をすくめながらトラックを降り、ゆっくりと交差点のほうへ歩き出す。現場は騒がしくも、どこか乾いた静けさが支配していた。
バイクが突っ込んだ跡は生々しく、土産物屋の入り口付近に大きく残されていた。ひび割れたコンクリート、焦げ跡、そしてガラス片の煌めき。
「馬鹿どものバイクは?」
ベンが現場検証中の警官の間をすり抜けながら、近くにいた同僚に問いかける。
「あっちだ」
指さされた先には、瓦礫の隙間に無造作に横たわるバイク。いや、その原型をとどめていないスクラップの塊があった。
だが、バイクはすでに鑑識によって照明が当てられ、まるで何かの展示品のようにカメラに収められていた。
「容疑者は?」
「飢餓が、直接連行するとよ」
顎でさした先には数台のタンカラーのハンヴィーに囲まれたストライカー装甲車が停まっており、周囲にはOCP迷彩のボディーアーマーとヘルメット姿でライフルを携えた集団がうろついていた。
「そいつはまた手間が省けてけっこうなこった」
「手ぶらで天界に帰らせるのもなんだからな、土産代わりにいんじゃないか? お前の後席の連中も?」
「ああ、そうするさ」
二人が軽く手を振って別れると、ネヴァダの乾いた風が、その間をすり抜けた。
かろうじてぶら下がっている土産屋の看板がギシ、と軋む音が、まるで誰かの吐息のように空気を震わせた。
「ヘイ」
「やあ、ベン。この間ぶりだ。縁があるな」
ベンが迷彩服の部隊に歩み寄り、片手を挙げる。何人かの隊員が反応しかけたところで、スーツ姿の男が一歩、前に出た。
「聖ケファ、俺が途中で拾った分を引き渡すよ」
「……確保した場所はネヴァダ州かな?」
「まぁ……ここはネヴァダだよな?」
「……ハレルヤ。 サムエル、何人か連れてついてきてくれ」
ケファが声をかけると指揮官と部下の隊員二人がベンに続いて駐車してあったピックアップトラックに向かい、荷台を覗き込む。
「三名、情報通りですね」
道中、二人に撃破されたバイカーが手錠をはめられ、足を縛り上げられて荷物のように荷台に転がるのを確認した指揮官が生真面目に頷き、背後の部下に指示を出すのを横目で見ながら、ベンは日向を避けるようにビーリンとメイジーの横に腰かけた。
「バイクはどうした?」
「警察より早くうちの人間が来て持っていかれました」
「だろうな」
力なく答えたメイジーに軽く頷き、ベンは横のビーリンに視線を向ける。
「アメリカには慣れたか?」
「とても……ユニークです」
「だろう?」
ベンは小さく笑いながら、ストライカーに運び込まれていくもごもごと動く遺体袋を見やった。
「あいつら、ヘヴンエンジェルスカルに縄張りを追い出されたあげく、抗争でぼこぼこに負けて市警に捕まって拘置所で殺され、外で忠義建てたやつは川に沈んだ。ウェストブリッジ地産のクソは、そんなふうにして壊滅したらしい」
「悲惨ですね。小規模な組織が乱立しているところに、大手が参入してくるのはよくある話です」
「ああ、それに市民の同情を買うような連中でもなかったしな。まあ、そんな霊なんてこの国には掃いて捨てるほどいるが……一度に吐き出されたもんだから、寄り集まっちまった」
「それで、この地区の“敵本部”がある都市へ?」
「ああ。せっかくだ、寄っていくか? 素晴らしき欲望の街、ベガス……」
「冗談じゃない! 帰りましょう、今すぐ!」
芝居がかって言いかけたベンのセリフへ、つっぷしていたメイジーが鋭く割って入る。
ベンとビーリン、そして飲み物を持ってきていたケファは顔を見合わせ、誰からともなく微笑んだのだった。




