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Enjoy your stay.  作者: ゆう
case.5
39/52

5-5

 舗装されていることを除けば、まるで西部劇のワンシーンのような光景。

 夜明け前のグレートベイン・ハイウェイを、二台のバイクが絡み合うように疾走していく。

 薄明の空を切り裂くその姿は、地を這う流星のようだった。


「……? 新しいエアサポート?」


 風を切るエンジン音と、スキール音の高周波に混じって、別種の爆音が耳を打つ。

 それに気づいたメイジーが顔を上げた。


「……あれ、軍用ヘリじゃない?」


 低く唸るような音が、遠くの空に浮かぶ機影と共に迫ってくる。


『州をまたいだんでエアサポートをオハイオ支局から飢餓が引き継いだ。ビーリン、視認できるか?』

「見えます。美国のAH-64D、ロングボウ・アパッチです」

「攻撃ヘリ? 馬鹿じゃないの?!」


 彼女の視線の先、アパッチがまるで護衛機のように二台と並走し、荒野を低空でなぞっていた。

 しかし隣で、ビーリンは冷静に周囲を見回していた。

 風景はどこまでも続く大地。赤茶けた丘、サボテン、驚いて飛び起きる家畜。

 まさにアメリカの象徴のような光景。


「アメリカらしい光景、ですね……次、右折です」

「ヘリまで含めてらしさ全開ね!」


 朝焼けに照らされたネヴァダの地平は、確かに映画のような美しさを湛えていた。

 だが、メイジーはそれどころではない。荒れ気味の運転で州政府事務所前を駆け抜ける。

 二台のバイクは、時に身を寄せ、時にすれ違いながら、マッギル、イーリと次々に小さな町を突き抜けていった。

 道路標識はやがてUS-6から州道318号線へと切り替わっていく。


「あー、もう! あいつまったく止まらな……って、ちょっと!?」


 サニーサイドの休憩所脇を通過したその瞬間、苛立ちまじりに叫んでいたメイジーの声が裏返る。

 彼女は腰に回していた手を、反射的に胸元、ホルスターへと伸ばした。


「そのままの進路を維持してください」

「ちょっと、こんな時にどこ触って……あっ、私の銃!?」


 ビーリンは無言で、メイジーのチェストホルスターからリボルバーを抜き取っていた。

 冷たい金属の重みが手のひらに伝わる。彼女の目は前方の一点を捉えて離さない。


『あー……法的には、ビーリンには執行時の銃使用の許可がないんだが……記録映像が乱れてる。今持ってるのはどっちだ?』

「メイジーです」


 しれっと即答するビーリン。

 メイジーは「あんたねぇ……!」と叫びながらも、バイクの制御に集中している。


『了解。そう記録する』


 通信が途絶え、空の彼方には、依然としてアパッチのローター音が響いていた。


「次の国道93号との再合流で仕留めます。恐らく最後の好機です」

「……OK、チキンレースなら得意なの、ブリー相手にいくら巻き上げたか」


 メイジーは、目前に迫る国道93号との直角交差を前にスロットルを最大まで開く。

 ここを逃せば、後はもう追いつけるポイントがない。

 ビーリンは足を延ばし、メイジーの頭上からリボルバーを両手で構える。 

 メイジーがハンドルを細かく操作して進路を安定させ、ビーリンはゆっくりハンマーをコックし……スッと大きなかわいらしい目がバイザーの下で細くなる。

 空気を切り裂く暴風の音、エンジン音、スキール音、おそらく彼女の中には何も聞こえていないのだろう。

 バイカーは狙いを散らすように蛇行していたが右折するため、予測可能な動きで小さく体を左に振った。


「大獎」


 瞬間、うっすらと丘を乗り越えようとする朝日の下に銃声が鳴り響いた。 


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