5-4
アイダホ州のどこまでも続く耕作地。
静かに眠る深夜の大地を荒々しいエンジン音が引き裂く。
二人組の首無しバイカーが、人気のない173番出口からハイウェイを降りた。
合図一つなく、しかし息を合わせるようにフォーメーションを保ったまま、彼らはスムーズにUS-93へと合流し、ツインフォールズ方面へ進路を取った。
だが……
「追いついたぁっ!」
背後から、猛烈な勢いで一台のバイクが迫る。
首無したちは身体を捻って見合わせた。
もし首があったなら信じられないものを見るような表情を浮かべていたことだろう。
「法執行機関がこれでいいんですか?」
ビーリンがしがみつきながら呟くが、メイジーは応える代わりにシフトを叩き込み、交差点を塞いでいたツインフォールズ市警のバリケードを豪快になぎ倒して突っ切った。
その時。
前方、スネーク川に掛かる橋の上でバイカーの手元がライトに反射してきらりと光った。
「何か仕掛けてきます!」
「何度も、同じ手を……!」
メイジーは素早くシフトダウンすると、バイクを急制動させ歩道に飛び上がる。
「くらうわけないでしょう!!」
欄干と車道を隔てるコンクリートの隙間、わずか1メートル足らずの歩道で、火花を散らしながら、器用にバイクを操る。
むしろスロットルをひねり、強引に追撃を続けた。
『……映像がブレすぎて何が何だか分からん。いまどこ走ってる?』
「歩道です!」
『……市街地に進入するのを忘れるなよ。橋を過ぎたらツインフォールズだ』
「了解!!」
メイジーが叫ぶように応じ、前方の街の明かりへと向けて再加速。
マジックバレーモールを通過し、ツインフォールズ北端を狂った速度で突き抜けていく。
「気の毒に。ツインフォールズの清掃課が泣きますね」
三台のバイクが高速で道端のゴミ箱を派手に巻き上げて通過し、背後に座るビーリンが他人事のようにぼそりと呟いた。
「街を抜けたらジャンクションを左折です」
『その先のジャックポットはもうネヴァダ州だ。うちのロードブロック、つまりタイムリミットはアッシュスプリングス。それまでには終わらせろ』
「わかってます!」
円形農場が点在する地帯を切り裂くように疾走し、ついに首なし二台の背中が射程に入る。
「銃を?」
「当たるわけないわよ、この速度で!」
メイジーは胸元のホルスターに手を伸ばすことなく、スロットルをさらに開く。
バイクはベベベベとSFチックな雄たけびを上げてなお加速し続けた。
気づけば周囲の風景は、どこまでも続く枯れ草の平原。
ネヴァダ州の象徴ともいえる、乾いた大地だった。
やがて、近づいてくる小さな街の灯りに急接近しながら、メイジーとビーリン、そして首無し二台は、もつれるように新たなフォーメーションに入っていた。
「わっ!」
バイカーの片割れが、並走するメイジーに鉈のようなナイフを振るう。
刃がかすめる寸前、メイジーは紙一重でバイクを蛇行させ、回避。
そしてそのまま……
「こンの……!!」
異様な安定性を持つバイクを利用し、蛇行した勢いのまま前輪を持ち上げ、フロントタイヤをクルーザーバイクの側面へ叩き込む。
バイカーは衝撃でバランスを崩し、大きく道路を逸脱。
そのまま、明かりの消えた街の入り口にある酒屋のガラス戸をぶち破って、入店し…… 直後、町名を記した看板が音を立てて落下する。
「ジャックポット!!」
コインの払い出しの様に砕け散る無数のガラスの音と、けたたましく鳴り響く警報の中。
メイジーはガッツポーズをつきつけ、勝ち誇るように叫んだ。




