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時速200マイルを優に超える、まるでカタパルトのようなバイクから空中へと放り出されたメイジーは、咄嗟に背後のビーリンを抱き寄せた。
視界がスローモーションに変わる。脳が、生存のためにギアを最大まで上げていた。
冷静に考えれば、無意味な行動かもしれない。
だが、せめてもの抵抗として、彼女は自身の身体を盾にしようとした。
衝突に備えて目をぎゅっと閉じる。
……その瞬間。
腕の中のビーリンが、きゅうくつそうに身体をひねると、翡翠色の短棒を空中へ伸ばした。
すると、見えないジップラインでも掴むように、二人の落下軌道がピタリと安定し、重力を嘲笑うように、そのままゆるやかに減速しながら滑空していく。
「……あれ?」
「……もう安全です」
衝撃がいつまでたっても訪れず、不思議に思って目を開けたメイジーは、ようやく足元の現実を確認した。
ゆっくりとハイウェイのコンクリートの上に立ちあがり……大きく足を滑らせてしたたかに腰を打ち付けた。
「いっっった!!!!」
情けない悲鳴を上げながら尻を押さえるメイジーを横目に、ビーリンはしゃがみこみ、コンクリートに触れて指先を小さく練る。
「……オイルですね、やられました」
「クソッ、あの〇〇〇(Fワード)野郎!」
ヘルメットを乱暴に脱ぎ捨て、今にもそれを叩きつけそうになる。
だが、ぐっとこらえたメイジーは深く息をつき、代わりにヘルメットをそっと膝の上に置いた。
「何で生きてるの、私たち?」
「如意で符の間に張った域を掴みました。あとは肩が外れない程度にブレーキを」
あっけらかんと答えるビーリンに、メイジーは呆然とする。
「なんか、もうちょっと早く教えてほしかったんだけど……?」
「教えても止まれなかったでしょう? あの速度では」
まるで天気でも語るかのようなビーリンの口調に、メイジーはしばらく口を開けたまま固まった。
が、すぐに思い直したように頭を抱えると、ヘルメットをかぶりなおして立ち上がる。
「そうだ、バイクは?」
「立っています」
ビーリンが指さす先に視線をやると、100メートルほど先で、今にも走り出しそうに炎の尾を引きながら、何事もなかったかのようにバイクが直立していた。
「タイヤについたオイルは、摩擦熱で発火して燃え尽きたようです。グリップには、影響ないと思います」
「……あのバイク、どこまでイカれてんのよ……」
メイジーは腰をさすりながら、慎重に乾いた路肩の土を踏みしめ、暗いハイウェイの脇を歩いていく。
そのとき、無線がノイズ混じりに応答した。
『生きてるか?』
「ええ、おかげさまで」
ヘルメット越しに軽口を返しながら、メイジーとビーリンは道路脇のゴミを軽く蹴飛ばし、夜風の中を歩き出す。
『そいつは何よりだ。今、再出発すれば恐らくアイダホ州内で追いつける』
「彼ら逮捕されてたんですよね?」
『ああ、後から参入した大手にケツを蹴りだされてな』
「それならよかった」
メイジーが薄ら笑いを浮かべながら答え、街明りをバックに薄っすらと火の尾を引くバイクにまたがった。
「なら、州境を跨いだ時点で仮釈放条件違反で逮捕してやります」
「……霊に同情したのは子供の時以来です」
ビーリンが溜息をつきながらメイジーの腰に抱き着くと、バイクは再び、とんでもない加速とともに光の尾を引き、夜の彼方へと飛び出していった。




