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首無しライダーが器用に、素早く刀を振る。
ビーリンは空中で身を捻り、その刃を紙一重でかわした。
「なかなかの功夫ですね……」
妖精のように宙を舞いながら、ビーリンがぽつりと呟く。
「アメリカ人の詠春拳にしては、ですが」
風の抵抗など存在しないかのように、次々と繰り出される斬撃。
その合間を縫って、ビーリンはライダーの腕を軸にくるりと身体を反転させ……風を斬るような、鈍く重いズボッと言う打撃音と共に、革ジャンのわき腹に押し込むような一撃を叩き込んだ。
すると、ライダーの動きが一瞬だけ鈍る。
だが、すぐさま、太い腕を大きく振り払ってビーリンを吹き飛ばした。
「……渉外担当、でしょうか?」
コンクリートに叩きつけられるかに見えたビーリンは、空中の何かを掴むようかのようにふわりと姿勢を立て直し、独りごとのように呟いた。
よく見ると、彼女の周囲には、高速で追従する紙片が宙に浮かんでいる。
ビーリンはそれらを次々と蹴り、まるで足場にでもしているかのように、空中を自在に舞っていた。
『状況を報告しろ、救急車は必要に見えるか?』
『あー、それが、なんというか、言葉にしにくくて……』
「不需要」
ビーリンは短く言葉にして再びライダーに飛び掛かった。
馬に跨る武将のようにライダーが八斬刀を振るい、ビーリンは並走しながら、連撃を受け止め、いなし、受け流す。
まるで、三国志や春秋戦国の絵巻から飛び出したような光景。
だが背景では、現代のハイウェイが相変わらず狂気じみた速度で流れていた。
ビーリンは捌きながらも、ふと遥か前方へ視線をやり、ヘルメットのバイザーの下で小さく息を吐く。
そして次の瞬間、一瞬だけ足を滑らせたように身体を逸らせた。
ライダーはその隙を逃さず、鋭く刀を振るう。 が、命を刈り取るはずだった一閃はヘルメットを掠め、火花を散らした。
ビーリンはそのままバク転のように身体を翻し、ライダーの刃が
翻るより早く超高速で浮遊する符の一枚に足を乗せ、その勢いのまま……クルーザータイプのバイクをへこませるほどの威力で、渾身の蹴りを叩き込んだ。
ライダーは慌てて体勢を立て直そうとする。 が、時すでに遅く、目前には『EXIT209』の標識が迫っていた。
存在しない頭を庇う様に両手を掲げ、看板をなぎ倒しながら、水の詰まったオレンジのバレルに前輪をめり込ませ、バイカーは哀れにもつんのめるように吹き飛んだ。
「Bye-bye」
ビーリンは小さく手をふり、再び符を蹴って空中を舞う。
まるで弾かれるように飛び回りながら、速度を上げて手を伸ばし……メイジーのハーネスから伸びていた命綱とカラビナを掴んで引き寄せると当たり前のように彼女の後ろに飛び乗った。
「お、おかえり」
カラビナを再びハーネスに接続しながら、ビーリンがため息まじりに答える。
「回來了」
「ねぇ、あんなことできるならこのバイクって必要あった?」
「ギリアム郡からラスベガスまでの1470キロを短距離走と見なせるなら、必要なかったかと……」
「あぁー……まあ、お疲れ様?」
無線越しでも息の荒さが伝わるビーリンに、メイジーは苦笑しながらスロットルを握り込んだ。
二人を乗せたバイクは狂気じみた速度でペンドルトンを通過し、有名なカジノを横目に、なだらかな斜面へと疾走していく。




