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Enjoy your stay.  作者: ゆう
case.4
33/52

4-9

 車線に割り込んできたライダーが、スッと身体をずらすようにしてバイクの陰から何かを取り出した。

 それは鈍く光を反射する金属。しかし銃ではなかった。


「何?」


 ヘルメット越しに目を細めたメイジーが、瞬時に警戒心を募らせる。


「趴下(伏せて)!」


 ビーリンの鋭い叫びとほぼ同時に、ライダーが驚くほど滑らかな動きでバイクごと身をひるがえした。

 その刹那……

 ビーリンは背後からメイジーの肩を強引に引き、半ば抱き込むようにして身体を伏せさせた。

 咄嗟の動きにハンドルがぶれたが、シリウス星人製の異様な安定性を誇るバイクは、まるで磁石のように路面に吸いついたまま、地面に対して水平に近い角度で踏みとどまる。

 直後、空気を裂くような金属音が耳を刺した。


「ひっ!?」


 空気を裂く金属音と共に、目の前を一閃がかすめた。

 ライダーが振りかぶったのはナイフだった。いや、ナイフというには長い湾曲した刀。

 超高速ですれ違うハイウェイ、その相対速度はおよそ時速300マイル。

 メイジーのヘルメットのバイザーに火花が弾け、衝撃で視界がぐらりと揺れる。

 あと数センチずれていれば、首が飛んでいてもおかしくなかった。


「な、何今の!?」


 呼吸が乱れて叫び声が裏返り、ハンドルを握る手がぶるぶると震える。

 それでもメイジーは、必死に車体を制御し続けた。


「八斬刀です」


 ビーリンはまるで、風景の一部を指さすような口調でそう言った。

 落ち着いているというよりも、感情を切り離しているような響きだった。

 だが、すれ違ったまま勢いのまま体勢を立て直すライダーを睨みつけるその顔には、次の一撃を見越す緊張がにじんでいた。


「は? 中国の?」


 メイジーは咄嗟に聞き返したが、何よりまずその質問をしている自分が、まだ生きていることに驚いていた。


「対処します。そのまま進路を維持してください」

「は? なんて?」


 ビーリンは新しく符を空中にバラまくと、メイジーとつないでいたハーネスのカラビナを取り外した。


「ちょっと何する気!?」


 そのまま時速200マイル以上のバイクに立ち上がると……ビーリンはまるで木の葉のように宙に舞った。

 メイジーは思わず手を伸ばすが、あっ、というまに小さくなってしまう。


『どうした?』

「ビーリンが落ちました! 救急車を…」


 叫んだ直後、慌ててバックミラーに目をやる。

 だがそこに映っていたのは、信じられない光景だった。


「は……?」


 ビーリンが、高速で走る後方のバイクのまわりを……

 まるで妖精か、カンフー映画のワイヤーアクションのように、軽やかに舞っていた。


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