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「あの……」
オレゴン州ウェストブリッジ。
人口数万人の小さな町。
州間高速道路84号線沿いでコロンビア川の乾いた川風を受ける礼拝堂の駐車場に、ICEの白いSUVが音もなく滑り込んだ。
「……あの、大使館って。ポートランドの領事館のことですよね?」
「いや、ここだ」
困惑を隠しきれないメイジーを伴いながら、ベンは古びた正面扉を押し開けた。
平日の昼下がりで礼拝のない礼拝堂には、人の気配がなく、かえってその静けさが荘厳さを引き立てている。
白い壁、木製の長椅子、ステンドグラス越しに差し込む穏やかな光。
まるで時間がゆっくりと流れているかのような空間だ。
その奥から、静かに人影が近づいてくる。
「お待ちしておりました。マイルズ捜査官は……?」
初老の牧師が穏やかに問いかけると、メイジーは思わず小さく頭を下げた。
「引退だ。ハウスダスト・アレルギーで」
「それは……お気の毒に」
牧師の顔に、どこか事務的な慣れと哀悼が浮かんだ。
「奥の部屋を使わせて貰うぞ」
「ええ、どうぞ。私がお聞きいたします」
牧師が先導するように歩き出す。
向かった先は、装飾の施された、電話ボックスにも似た木製の小部屋が二つ並んだ場所。
「……懺悔室? ここ、プロテスタント教会ですよね?」
「オレゴン州だからな」
ベンは牧師が入ったブースとは反対側を指し示し、メイジーに促す。
「二人で入るんですか? 一体……」
「早くしろ。誰かに見られると面倒だ」
そう言うや否や、ベンはメイジーの背を軽く押し、懺悔室に押し込んでカーテンを閉める。
中は狭く、暗く、外の静けさが一層際立った。
「確認します。DHS捜査官二名、ご用向きは?」
スピーカーのような古びた穴から、事務的な声が響く。
「聖人からの呼び出し。アポは取ってある」
「お話は伺っております。それでは……」
「何の話……ひゃっ!」
ガコンッ。
歴史を感じさせる重い音が室内に響き、懺悔室全体がわずかに振動する。
しばしの後、何事もなかったかのように神父側の扉がゆっくり開き……
牧師は人の良さそうな微笑を浮かべながら、モップを手に礼拝堂の掃除を再開するのだった。




