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「二人とも起きろ、仕事の時間だ」
州間高速の路肩。
いつもの白いSUVではなく、黒のピックアップトラックが静かに停まっている。
「おはようございます……コーヒー、あります?」
荷台と運転席を隔てる小窓をコンコンと叩かれ、荷台に寝ていたメイジーが体を起こす。
頭を押さえながら運転席側を覗くと、そこにはベンの顔があった。
「ああ、夕方に買ったのならな。よく冷えてるぞ」
ベンが手を伸ばしてホットコーヒーの紙コップをドリンクホルダーから持ち上げた。
「おはようございます」
もう一人、荷台で横になったまま声がする。
アニメ調の大きな目がプリントされたアイマスクを付けたビーリンが、ビニールシートに横たわった体はそのままに返事だけ返した。
「いいか。HVTはおおよそ30分後に、このポイントを通過する予定だ」
「HVT?」
「ハイバリューターゲットの略よ」
「高価値目標……なるほど、覚えました」
ビーリンがアイマスクを外し、よっとばかりに荷台から飛び降りる。
「でもあまり、法執行機関で聞く用語じゃないですね。出身、軍ですか?」
「詮索屋は嫌われるぞ」
「他人の詮索が私の仕事ですから」
メイジーは固い荷台で寝ていた体を伸ばし、軋む背中に苦笑しながらゆっくりと地面に降り立つ。
「仕事熱心で結構なこった。……よし、カバーを外して準備だ」
ベンの声に、二人は荷台を覆っていたビニールシートを左右からめくり上げた。
その下から現れ、高速脇の照明に照らし出されたのは、昼間目にしたあのシリウス星人のバイクだった。
「ああ、最っ高!」
「……この場合のクレイジーとはどういう意味です?」
「最高か最低のどっちかだ。文脈で判断しろ」
ベンが運転席の窓から顔を出して補足し、二人にフルフェイスヘルメットを差し出す。
「州警察にノーヘルで文句言われる事はないだろうが、通信と位置情報も兼ねてるし、HUDもついてる最新型だ」
「なによりライダーの命を守るためですよ」
「そいつの速度域で転んだら、ヘルメットの有無なんて誤差だろうよ」
ベンは苦笑しながら助手席の通信機に手を伸ばし、スイッチを入れた。
「いいか、目標を追跡停車させ逮捕する。間違っても消滅させるな」
「消滅するとどうなるんです?」
メイジーの疑問に応えるように、ヘルメットをかぶったビーリンが静かに口を開いた。
「魂の消滅は、文字通りの消滅を意味します」
「東洋的な転生から外れるってこと?」
「いえ。輪廻から外れるのではなく、存在そのものが消える。解脱とも違う、根本的な断絶です」
底冷えするようなビーリンの言葉に、メイジーは一瞬身を震わせる。
だがすぐに、夜風を肩に感じながら気を取り直すと、躊躇いなくジャケットを脱ぎ捨てた。
「目標が通過したらそいつでケツをつつけ、プレジデントを叩けばチャンスが生まれる」
ベンが通信機越しに、バックミラーに映るメイジーへと呼びかける。
ライトに照らされたライダースジャケット姿が、不気味なほど静かに浮かんでいた。
「この子の諸元をもう一度聞いてもいいですか?」
「またか? ……いいか、0-100で0.5秒。不明な重力制御装置が載ってて、戦車でも積んでるようなグリップに、戦闘機並みの加速性能を担保してるらしい」
「最大瞬間加速度は?」
「単純計算約6Gだが、その重力制御ってのが乗員保護にも働いて、カタログスペック上は人体への負荷は3から4G程だ。安全試験はシリウス星でシリウス星人がやったらしいから条件は知らん。NASAに問い合わせてくれ」
「それは……大丈夫なんですか?」
同じくライダースーツ姿のビーリンがヘルメットごと小首をかしげて見せる。
ベンはシートに身体をうずめながら、小さく肩をすくめた。
「計算上は、な。振り落とされるなよ」
「ああ、クレイジー……!」
メイジーが呟きながらバイクにまたがると、彼女の持っていたキーに反応したのか、動力が自動で起動する。
「……今のは、どっちの意味です?」
「……両方だろうな」




