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「ここは?」
昼時で多少交通量の減ったウェストブリッジを渡り、市内に戻ってきたSUVは、物流会社の看板が並ぶ倉庫街へと入っていった。
舗装の粗い道にタイヤがわずかに振動を伝える。低い灰色の建物が、初夏の陽に長い影を落としていた。
その中の一つ、コンクリ壁の倉庫の前で車はゆっくりと減速し、アイドリングを残して止まった。
「押収品保管倉庫。うちじゃなくて、CBP(アメリカ税関・国境警備局)の管轄だな」
ベンがハンドルに肘をかけたまま淡々と言った。
「ウェストブリッジ市内に? こういうのって普通は……」
メイジーは身を乗り出してフロントガラス越しに、金属製のシャッターを見上げた。
番号札こそ褪せてしまっているが、そこかしこに見える監視装置や明りのついた詰所が現役で稼働状態の倉庫であることを示していた。
「もちろん、ポートランドにはもっとでかいのがある。ここは一時保管用だ」
ベンは視線を前に向けたまま短く答えると、そのまま車を滑らせるように敷地内へ進入し、無造作にハンドルを切って停車した。
エンジンを切らぬまま、彼はポケットからスマートフォンを取り出し、何かを入力しようと親指を動かしかけた。が、そのとき、窓の外から軽くノックの音が響く。
「よう、うちで使ってる警備会社に不法移民はいねぇぜ? 書類請求しようか?」
ウィンドウを降ろすと、だらしなくスーツを着崩した中年太りの男が車内を覗き込み、にやにやと笑みを浮かべながら軽口を叩いてきた。
「直近で必要な書類はお前の勤務態度調査表だな」
ベンは即座に返しながらも、特に笑いもせず、ただ窓越しに目線を合わせた。
「だろうな、賞与が楽しみだ。 来いよ」
男は肩をすくめるように笑ってから、親指で倉庫を指し示し、そのまま歩き出す。
ベンも車を降り、何も言わずにその背中を追う。ビーリンとメイジーも、あわててドアを開けて彼の後を追いかけた。
「彼は?」
ビーリンが小走りで追いつき、首をかしげながら問いかける。
「まあ、メン・イン・ブラックだな」
距離があるはずなのに、まるで隣で聞いていたかのように、男が振り返らずに答える。
かと思うと豪快に笑い声をあげ、倉庫の影へと姿を消していった。
「CBPの押収品管理担当官だ」
ベンが苦笑を漏らしつつ、そのまま倉庫脇の鉄扉を押し開けた。
中は空調の効いた空間で、様々な内容物票の貼られた段ボールや木箱が整然とラックに並んでいた。
コンクリ壁が反響する足音が、どこか潜水艦の内部のような閉鎖感を漂わせる。
黙ったまま進んだ先、自動ロックの付いた扉が荷物で強引に押し開けられており、その向こうには地下へと続く階段が待ち受けていた。
「搬入用のエレベーターでくりゃ良かったじゃねぇか」
階段下で壁にもたれかかっていた先ほどの男が、からかうように言う。
「あんたが先に行ってなきゃ、そうしたさ」
ベンは軽く肩をすくめて返すと、男は面白そうに笑い、CBPのバッジをくるくると指先で回した。
「で、今日はどんな厄介ごとだ? ベニー」
「足がいる。速いやつだ」
「足か。それならこの間ちょうどいいのが入庫したぜ」
男は階段脇のスキャナにバッジを翳す。
低く電子音が鳴り、重厚な扉が沈んだ空気を割って開いた。
「うわ……」
メイジーが小さく息を呑んだ。
扉を抜けた先に広がっていたのは、LEDライトに照らされた近代的な地下倉庫だった。
温度と湿度が管理された静寂の空間に、棚やパレットが整然と並び、その上に積まれた木箱や段ボールのすべてにTOPSECRETの焼き印やステンシルが刻まれていた。
「こいつだ」
男がパレットにかかっていた防水シートを乱暴に引きはがす。
その瞬間、LEDの光を受けて現れたのは、一台のスポーツタイプのバイクだった。
漆黒のカウルが鏡のように周囲の光を反射し、ボディには軍用を思わせる無機質なナンバーが刻まれている。
タイヤは未使用に近く、シートにも埃ひとつない。
だが、その姿はまるで、「走り出せ」という命令を待っているかのような気配すら漂わせていた。




