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ICEの白いSUVが、朝の街を静かに進んでいた。
トラックや営業車の列に混じって、ベンはアクセルを何度も緩める。
ラジオから流れてくる陽気なMCの声だけが、車内の静けさをかき混ぜていた。
「労働者の街って感じですね」
メイジーが周辺の倉庫街を観ながら切り出した。
鉄骨フレームの倉庫前では、作業着の男たちが缶コーヒーを手に立ち話している。
パレットを積み込むフォークリフトのそばでは、若い作業員が汗を拭いながら荷を誘導していた。
「成立以来な。結果としてこの街には移民も多い、二階の連中も忙しいってわけだ」
駐車違反を取り締まっていた市警の警官がにこやかに片手を挙げる。
ベンも軽く手を振り返しながらそう答えた。
「そういった職務の割には……みんな、にこやかですね」
ビーリンが後席から身を乗り出し、首を傾げる。
ベンは小さく肩をすくめた。
「まぁ、ICEの車両が傷一つなく走れる街はオレゴンじゃ珍しいな」
「労働者の街では工会なども強かったのでは?」
「何?」
「組合です。労働組合」
ベンが聞き返すが、メイジーが補足するように英語で答えた。
「昔はあったらしいな、地場の運送系の組合が。でも赤狩りの時代に解体されて、ポートランドかユーマティラまで逃げたらしい。物流の骨格だけが残って、魂は抜けちまったって話だ。もっとも、俺が生まれるずっと前の話だけどな」
「ネットにも出てました。オレゴンでは珍しい保守派が強い街なんですよね?」
「ああ。今残ってるのは、企業と一緒に入ってきたお行儀のいい組合だけだ。おかげさまでうちのビルがアンチファにブッシュウィックにされることもないし、愉快な集会場になってない」
ベンは肩を揺らして笑いながら、ウィンカーを点け、大きな交差点をゆるやかに右折する。
倉庫街を抜けた途端、街はにわかに色を取り戻したかのようだった。
乗用車や観光バスが行き交い、メインストリートの両側には飲食店や土産物屋の看板が並んでいる。
「大体の店はこの通りに固まってる。程々の飯に飽きたってんなら、もう少し郊外に出ればどう走ってもトラックストップのダイナーにぶち当たる。アメリカで一番安くてまずいものは大抵揃ってる」
「そういうのは、FBI時代に飽きるほど……」
「主任。スパイスが手に入る店はありますか?」
メイジーが苦笑しながら言いかけたところに、ビーリンの声が割って入る。
「あー、ネパール人の店が3ブロック先にあるぞ。もちろん労働ビザ持ちだ」
「いいえ、カレーではなく。スパイスです、花椒、五香粉」
「ああ、それなら昨日の華僑街を当たったほうがいい。ただ、正直いまは観光地って雰囲気じゃないな。一人歩きは避けたほうがいい」
ベンはそう言いながらビーリンに片手を振り、インターチェンジの分岐に車を進めていく。
「これ、どこに向かってるんです?」
「ルーズベルト・ドライブだ。あのデカい橋の北岸。ワシントン州側だな」




