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シャッ、と金属音を立ててカーテンが開く。
寝室に朝の光がなだれ込み、メイジーは思わず眉をしかめた。眩しさと眠気が入り混じる中、シーツに頬をうずめ、小さく唸る。
しかし、気配を感じてうっすらと目を開けたその瞬間……
「ひゃっ!?」
目の前に、こちらを覗き込むように屈んだビーリンの顔があった。
大きなブラウンの瞳が、まるで宝石のように朝の光を受けて輝いている。メイジーは本能的にシーツを豊かな胸元まで引き寄せた。
寝起きの頭が瞬時に覚醒する。
「おはようございます」
ビーリンはさらりと挨拶して微笑んだ。
シャワーを浴びたばかりなのか、濡れた黒髪が首筋に沿って黒曜石の様にしっとりと光を帯びている。
着ているのは白地のふわふわとした厚手のバスローブ。
明らかに高級品とわかるそれをどこから持ち込んだのか検討もつかないが、ビーリンがそれを纏う姿は、まるでホテルのスイートルームで朝食を待つVIP客のように自然だった。
異質なはずの光景が、なぜかやけに馴染んでいるのが腹立たしい。
「朝食のご用意はできてますよ」
そう一言だけ残して、ビーリンは軽やかな足取りでベッドルームを出て行った。
ドライヤーでも乾かしきれなかった髪をタオルで拭きながら、まるでこの部屋が彼女の持ち物であるかのように。
……何なんだ、あの子は。
残された朝の空気の中で完全に覚醒した頭で記憶をたぐる。昨夜、仕事終わりの不可思議な晩餐。麻婆豆腐、ベンのメッセージ、そして触法気味のルームシェアの通達。
そこまでは覚えている。が、それ以降の記憶はふわりと曖昧だ。
疲労と香辛料、それに満腹感に任せてベッドに担ぎ込まれたような気がする。
「……何もなかったわよね?」
呟くように言ってから、しばらく間を置いて、今度はやや大きな声で呼びかける。
「昨夜、何もなかったわよね!?」
「何の話ですか?」
すぐさま壁越しからビーリンの声が返ってくる。
あくまで平然としていて、その無邪気さに一瞬よぎった不安が拍子抜けする。
「……妄言よ。忘れて」
言ってから、メイジーはうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
ひとつ深いため息をついた。
……本当にこのままルームシェアするの?
窓の外には、夜明けの西海岸特有の青空が広がっていた。
星ひとつなかった昨夜の曇天とは違い、今朝はやけに空気が澄んでいる。
観念したようにベッドから起き上がり、背筋をぐっと伸ばす。
寝汗の張りついたシャツを摘んで顔をしかめ、クローゼットを開けて下着を引き出すと、大きく欠伸をしながらシャワールームへと向かう。
途中、視界の隅に昨夜脱ぎ捨てていたらしい彼女のスーツを自身の体の二~三倍はありそうなアイロンで器用にプレスしている浮遊する人型の紙を見かけた気がしたが……まぁ、見なかったことにしよう。
メイジーは無理やり視界から追い出すようにして、足を止めることなく歩き続けた。
十数分後……
彼女はドライヤーの熱が残る髪を掻きながら、リビングに向かうとテーブルの上には色とりどりの具材のはみ出したクレープのようなものと香ばしい香りの揚げパンが並べられており、ポットにはミルクがなみなみと入っていた。
「また朝から随分と……なにこれ、豆乳? ビーリン?」
ポットからカップに注いで匂いを嗅ぎ、怪訝そうな顔をしてから奇妙な同居人を探す。
ふと、バルコニーから差し込む朝の風を感じ、メイジーはカップを手にしたままゆっくりと歩み寄ると勢いよくカーテンを開いた。
「……朝食なら、テーブルに」
「ええ、おはよう。何してるの?」
洗濯物を干せるかも怪しい細いバルコニーの手すりの上に立ち、ビーリンは腰の高さで両手を広げたまま、静かに雲を見つめていた。
それこそ、まるで瞑想でもしているかのように。
メイジーが呆れたように声をかけると、ビーリンはまるで重力など存在しないかのようにふわりと手すりから飛び降りる。
「朝雲に今日の吉凶を見ていました」
当然の事のように言うと、ビーリンは先だってテーブルに向かう。
「それと、それは豆漿です」
「ああ、甘いやつ?」
そう言いながら口を付けたメイジーが眉を顰め、ビーリンは優雅にテーブルの椅子を引きながら答える。
「いいえ、無糖です。私の好みなので……ふふっ、明日からは調整しましょう」




