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第七章 居場所なき者たちの集う場所

 「常識から外れ、世間に行き場を失った者たちが、ありのままに生きられる場所がある」 そんな怪説めいた噂が風に乗って大陸全土へと広がるのに、そう多くの時間はかからなかった。 一般的な社会や種族のステレオタイプから見れば、明白な「欠陥品」であり「落ちこぼれ」と蔑まれてきた異質なる者たち。彼らは己の不器用さに肩を落とし、追われるようにしてこの小さな村の門を叩き始めていた。



 最初にやってきたのは、見上げるような巨躯と強靭な筋骨を備えたオークの青年、ゴルックであった。 凶暴で野蛮の代名詞たるオーク族でありながら、彼は村の入口に立つなり、熊のような巨体を縮こまらせてシクシクと涙を流していた。 「戦うのが……争いごとが怖くてたまらないんだゴル……。武器を握ると手が震えて、相手の痛みを想像するだけで泣けてくるんだゴル……」 同族からは「軟弱者」「オークの面汚し」と罵られ、追放されたのだという。村人たちが困惑する中、ゴルックの鼻がひくひくと蠢いた。 「……ん? このスープ、塩加減がほんのわずかに強すぎるゴル。隠し味に野草の根をほんの一片刻み込めば、出汁の深みが劇的に引き立つゴルに……」 なんとゴルックは、戦う恐怖と引き換えに、食材の微細な変化や調味料のミリ単位の狂いを即座に見抜く、あまりにも繊細で天賦の舌と味覚を有していたのである。 すぐさま村の食堂の厨房へと案内されたゴルックは、大きな包丁を優しく丁寧に握りしめ、繊細極まりない手つきで極上の料理を次々と生み出していった。 「う、美味い……! こんなに優しく味わい深い料理、食べたことがないぞ!」 「あんなに泣き虫だったオークが、今や村人みんなの胃袋を掴む最高の料理長だなんて……!」 ゴルックは目元を拭い、照れくさそうに笑った。自分が生きていることを、初めて肯定された瞬間であった。



 続いてやってきたのは、身軽な身のこなしと鋭い目つきを持つ人間の青年、ルークであった。 かつて盗賊ギルドに所属していたという彼は、頭を抱えて深いため息をついていた。 「俺は盗賊失格なんだ……。盗みを働こうとしても、強い罪悪感で吐き気がして、絶対に嘘がつけない。挙句の果てに、夜中に忍び込んで盗み出した財布を、翌朝には罪悪感に耐えかねて持ち主の家にコッソリ返しに行ってしまうんだ……」 盗賊の仲間からは「お前のようなバカな正直者は見たことがない」と袋叩きに遭い、ギルドを叩き出されたのだという。 しかし、その「嘘をつくことが絶対にできず、盗まれたものを元あった場所へ戻さずにはいられない」という奇癖は、この村において思いもよらぬ最高の適性となった。 「嘘がつけず、他人の財物を勝手に持ち去ることを何より嫌う……? これ以上、治安維持に向いている人材がいるだろうか!」 ルークは即座に村の治安維持兼警備隊長に抜擢された。彼の目ざとさと素早い身のこなしは、村の不審者を逃さず見つけ出し、その恐ろしいまでの正直さは、村人たちから絶対の信頼を獲得することとなったのである。



 村の異質化は、留まることを知らなかった。 次に山の彼方から飛来したのは、一国の軍隊すら破滅せしめる伝説の超巨大種族――ドラゴンであった。 金銀財宝を貪欲に集め、強欲の象徴とされるドラゴンであるが、この黄金竜ドランは、山のような体躯を所在なげに揺らしながら呟いた。 「わしは……光る石コロや金貨というものに、何の興味も惹かれんのじゃ。あんな冷たくて硬いものよりも、静かな木陰で風の音を聞いている方が遥かに価値があると思わんか?」 同族からは「財宝を集めぬドラゴンなど破戒僧以下だ」と呆れ果てられ、住処を追い出されたドラン。しかし、金銭に対する欲望が完全にゼロであるという事実は、村の管理層にとって喉から手が出るほど欲しい人材(龍材)であった。 「汚職や着服の心配が……完璧にゼロの金庫番兼財務大臣だ!!」 ドランはその絶大な威圧感と無欲な性格を買われ、村の金庫と大金庫の番人、並びに予算管理役に就任した。どれほど巨額の金貨が目の前に積まれようと、ドランは「ふぁあ……邪魔じゃな」とあくび噛み殺すのみ。村の財政は歴史上最も健全に保たれることとなった。



 さらに村を驚かせたのは、真夜中ではなく、真昼の太陽の下でガタガタと震えながらやってきた吸血鬼の青年、シルヴァンであった。 「助けてくれ……! 暗闇が……夜が怖くてたまらないんだ! 夜になると影が伸びて、おばけが出そうで生きた心地がしないんだよ……!」 闇の王たる吸血鬼でありながら、夜の暗闇に恐怖して半狂乱になるシルヴァン。彼は陽光を遮る重厚な日傘と厚手の防光服を身に纏い、眩しい日中だけ元気いっぱいに活動するという、天地がひっくり返ったような生態を持っていた。 「夜がダメなら、昼間専門で働けばいいじゃないか!」 吸血鬼特有の圧倒的な腕力と疲労を知らぬ頑丈な体力は、昼間の屋外作業において遺憾なく発揮された。太陽の光を浴びながら(日焼け対策を完璧にした状態で)、シルヴァンは一気に広大な畑を耕し、巨木を軽々と運んで建築作業に精を出した。 「お日様の下で流す汗は最高だね! 夜は怖いからすぐ寝ちゃうけど!」 明るい笑顔で鍬を振るう彼の姿に、かつての吸血鬼の恐ろしい面影は微塵もなかった。



 そして、もっとも劇的な変化を遂げたのは、紅蓮の鱗を持つ火竜の子供、ファルであった。 「ひやあぁぁぁっ!? 火だ! 火が出たぁぁぁっ!!」 火を吐くはずの火竜でありながら、ファルは小さな火種やマッチの火を見ただけで白目を剥いて失神してしまう、極度の火恐怖症であった。 「火を見るだけで怖くてたまらないのなら……水と仲良くなればいいのよ」 村人たちの温かい助言を受けたファルは、己の恐怖を克服するため、徹底的に「水」の性質を学び始めた。火を恐れるがあまり、誰よりも水の挙動や治水技術に詳しくなったファルは、その強靭な足腰と穴掘り能力を駆使して、村中に完璧な水路網を張り巡らせた。 やがてファルは、村の「水道局長」として尊敬を集めるようになった。山からの清流を効率よく引き込み、水源を管理する彼の姿は、もはや火を恐れて泣き叫んでいた頃の弱虫ではなかった。

世間では「役立たず」「狂っている」「落ちこぼれ」と烙印を押され、居場所を奪われていた者たち。 しかし、押し付けられた「普通」や「ステレオタイプ」を捨て去り、その個性をそのまま受け入れる場所を得たとき、彼らの抱えていた不器用さは、他者には決して真似できない眩しい才能へと姿を変えた。



 夕暮れ時、ゴルックの作った絶品料理が並ぶ広場で、ルークが静かに治安を見守り、ドランが静かに横たわり、シルヴァンが爽やかに汗を拭い、ファルが水路の点検を終えて笑顔で駆け寄ってくる。 かつて居場所を失い、孤独に怯えていた住人たちの顔には、弾けるような心からの笑顔が咲き誇っていた。 常識から外れた者たちが集うこの村は、今日も賑やかな笑い声と温かな熱気に包まれながら、世界で一番優しい日常を刻んでいくのだった。


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