↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/11

保科 安寧 "養生" -First-

 "自己洗脳(オーバーライド)"。音波の得意芸。人の心を読めたり、心に語りかけられるのを応用した技である。自分の脳内で、イメージした言葉だけを何度も復唱する事により、脳に信じ込ませる、錯覚させる技。プラシーボ効果の上位互換と言った所か。

 ちなみに、相手にも一応この技は、かけられるらしい。が、基本上手く行かない。と言うのも、自分だけなら、思考を止めて、1つのイメージに集中するのは可能たが、相手の思考を止める事は出来ないからだ。あくまで、語りかけられる、だけである。


「音波ちゃん、何イメージしたの?」


 創矢達から少し離れた所で、瞬が聞く。


「銃弾」


 一瞬、瞬と翼の時が止まる。


「えっ?じゅ、銃弾??」

「音波...」


 一瞬で心配が伝わるような確認を、瞬と翼から交互にされる。


「だから大丈だって!浅く打ったし。確かに、加減したと言え、少しめり込み過ぎはしたけど、殺してないから!てか、息あったよな?!」

「まぁ、なら良いんだけど?本当、気を付けなよ?見てるこっちが怖いもん」

「本当だよ~。いつ音波ちゃんがニュースとか新聞に出るかビクビクしてるもん」


 そう言うと、瞬は自分の体を抱きしめて、左右に小刻みに震わす。


「あのなぁ。これでも一応、警察か弁護士志望何だよこっちは」

「暴力で何でも解決って奴?」

「ま(・)じ(・)ろ(・)ぎ(・)?」

「嘘だよ~。怒らないでよ~。怖いよ~。悪かったって~」

「分かれば宜しい」


 3人に笑いが起きる。


「でもさ?あそこまでしなくても良かったんじゃない?それとも、そんなに強い人だったの?」


 2人が疑問に思っていた事を、瞬が聞く。


「あいつ、結構厄介な"異能"持ってやがったんだよ」

「どんな?」


 音波は、心を読んで知った、創矢の"異能"について話した。


「なるほどね。確かに、半端に手を出したら、こっちがやられるかもね。逆に音波だったから良かったのかも。私の"型(モード)"で適当に攻撃してたら、やられてたかも」

「なんだかんだ翼ちゃん優しいもんねぇ~。音波ちゃんで正解だったかも!」

「それ、どういう意味?」

「どうしたって褒めてるでしょ!もうっ、今日深読みし過ぎ!」


 また笑いが起こる。


「え、てか、時間は?」

「ヤバい...12時過ぎてる...」

「嘘でしょ!?」


 音波が時間を聞いて、瞬が時間を確認する。時間を聞いて、翼も驚きを隠せない。全員が一瞬にして絶望に苛(さいな)まれる。


「あの鶏冠野郎......」

「メロンパン.........」


 音波は怒りが、徐々に込み上げる。瞬と翼は悲しみに打ちひしがれる。


「ねぇ、これで3週連続だよ......」


 瞬は、この世が終わったかのような表情をしている。基本、いつでも明るくて、にこやかな瞬だが、この時だけは、しっかりと絶望の淵に立たされる。


「今日は時間に余裕持ったのに...」

「鶏冠野郎さえ居なければ......」


 怒りと絶望が混ざった、混沌とした空気が3人を包み込む。


「また来週だね...」


 翼が空気を変えようと、前向きに語ろうとするが、翼も流石にショックが大きい。


 そして、無言のまま、3人は教室に引き返す。

 3人がこれ程までに、怒りや絶望に駆られたのには、当然圧倒的な理由がある。それはパン屋だ。最近、学校から徒歩5分くらいの所に新しくできたパン屋がある。初めは、学校の帰りに店の前を歩くと、いい匂いがする、今度行ってみたいね、くらいであった。しかし、どうやら毎週水曜日限定で販売するメロンパンがあるらしい、と学校で噂が広まった。まもなくして、テレビの取材が入り、SNSで大バズり。それからというもの、連日パン屋は大盛況。特に、水曜日は開店前から行列が出来る程の込み具合。いつか行きたい、から、いつか行こう、早く行きたい、メロンパン食べたい、に変わったのだ。それが丁度3週間前。

 初回は、学校の昼休みに行こうと言う話になった。一能の昼休みは長い。"異能"の鍛錬は疲労が激しいので、11時30分から13時30分と長めに設定されている。当然、バテて疲労困憊の生徒から3人のように元気な生徒と、まちまちだ。元気な生徒にとっては最高の昼休みとなる。社会人ですら、2時間あれば色々な事が出来る。だが、これは学生の話。2時間もあったら、かなり遊べてしまう。そして、パン屋の開店時間は12時からと少し遅め。だが、時間に余裕があるので、行くことにした3人。並ぶくらいならと、12時に学校を出て満を持して行列に並んだ。が、途中で売り切れてしまった。

 そして2回目。この日は、学校などどうでもいい、そんな強い覚悟が、心に硬く宿っていた。当然、午後から学校に行くことにして、午前は3人で遊んで過ごす事に。遊ぶと言っても、行く当てが無いし、そんなに遠くまでは行けない。なので、近くにあるゲームセンターに行くことにした。しかし、これが失敗だった。あまりにもゲームに夢中になり、気付いたら、12時を少し過ぎてしまったのだ。1番の要因は音波の負けず嫌い。ゲームに負けると、もう1回、次こそは、と勝つまでやり続ける。それを見ているのも、ゲームも楽しいので、つい2人も乗ってしまう。時間をちょくちょく確認していたと言っても、遊んでいる時の少しは経過が早い物だ

 そして3回目の今日。同じ失敗はしまいと、今回は真面目に学校に通う。そして、休み時間になった瞬間に、3人は教室を颯爽(さっそう)と足早に出る。そして、少しでも早く行く、人混みを避けるつもりで、校舎裏から学校を出ようとしたのだ。そしたら、そこに居たのが創矢達だった。そして、今回の結果であり今である。またもや、逃す結果となったのだ。一度あることは二度ある、二度あることは三度ある、とはよく言った物だ。

 ちなみに偶然か、これを狙ってか、メロンパンの名前は、さも買える事が幸運かのような名前が付けられている。名前は"ラッキーメロンパン"である。外はカリッとはしているものの、サクッと言う感触が8割を占めている。中はふんわり、もちっとしている。まるで、焼きたてのクロワッサンで作ったかのようなメロンパンである。その目新しさと美味しさに、人々は熱狂している。3人も例外ではない。しかし、あくまで3人は、食べた人の感想を見聞きしたに過ぎない。



 (ここは...)


 どうやらベットの上らしい。丁寧に白い掛け布団がかけられている。辺りは1面カーテンに覆われている。少しして、創矢は何となく状況が掴めてきた。


(確か、ピアス野郎に殴られて、そのまま気絶。その後に、病院に運ばれたって所かな?意識戻ってから、殴られた部分が痛くて、寝返りすら痛てぇから重傷だったのかな?)


 そんなことを、色々考えているとカーテンが開いた。


「起きた?」


 透だった。


「ここは?」

「保健室」

「病院かと思ったよ」

「気絶して起きそうに無いから運んできた。と言っても運んだのは錬也だけどな」

「助かった。他は?」

「皆居ても仕方無いから俺だけ残った」

「なるほどな」


 2人が状況確認のやり取りをしていると、別の人が入ってきた。


「もう元気そうだね」


 保健室の先生だった。名前は保科(ほしな) 安寧(やすね)。30半ばくらいの女性である。肩を少し越すくらいの前髪を作らない黒髪に白衣。見た目からして、まさに保健室の先生と言った感じだ。身長は165cmと少し高めである。


「つっても、意識戻ってから殴られたとこ、ずっと痛てぇけどな」

「まぁ、打撲してるからね」

「打撲でこんなに痛てぇの?」

「一応強打撲だから、普通の打撲よりは痛いと思うよ?治りも遅いだろうし」

「どのくらい?」

「遅くても1ヶ月前後じゃないかな?けど、若いから数週間で治っちゃうんじゃないかな?」

「結構長いな」

「女の子に絡んだからでしょ?しかも、女の子に負けちゃうし」

「違げぇよ!あれは油断してただけだ!次あったら、マジでぶっ潰してやる」

「やめなさい?それに音波ちゃんでしょ?止(や)めときな」

「なんで?」

「あの子、少し気が強いでしょ?だから、たまに喧嘩になるんだけど、この学校は特殊だから、すぐに皆手を出しちゃうでしょ?けど、あの子強いから皆ここに来るんだよね」


 それを聞いて、2人は少し驚くと同時に、創矢がやられた事に、本人も含めて少し腑に落ちた。


「あいつそんなに強いの?」

「あいつって言わないの。先輩でしょ?強いよ、音波ちゃんは」

「どんな"異能"持ってるの?」

「それは言えないな。音波ちゃんに怒られちゃうから」

「俺に勝ち目は無いの?」

「君の"異能"だと相性悪いかなぁ?だって、攻撃受けて起きてないといけないんでしょ?」

「何で知ってんの?」

「彼から聞いた」


 そう言って透を指差す。


「お前バラしたの?」

「バラしたって言うか、運んで来た時に聞かれたから答えただけ。診察に関係あるかもって思って」

「診察には関係ないよ、興味本位だから!」

「無いのかよ!!」


 2人のツッコミが被る。無駄に喋った透と無駄にバラされた創矢は同じ事を同時に思ったらしい。


「ここに居ると、いろんな人が来るからねぇ。気になって聞いちゃうんだよね」

「あんたも"異能"あるの?」

「君、口悪いね。口の利き方知らないの?」

「すみません...」


 何故か透が申し訳なさそうに謝る。対して、創矢は特に何も感じていない。と言うよりも、昔から他人に対して、碌(ろく)な態度を取った事が無ければ、まともな態度も知らない。仕方無いと言えば仕方無いのだ。少なくとも、透はそう思っている。だから、まるで保護者かのように、代わりに謝ったのだ。


「まぁ、いいけどね。私の"異能"は"養生(ケア)"。相手の体に触れば、大体の体温が分かったり、風邪とか君の打撲とかが、すぐに分かるの。原因までは分からないけどね」


「えっ!凄!」

「それで、話しても無いのに、創矢をここに連れて来た時に、触っただけで、怪我とか位置が分かったんですね」

「そう言うこと。けど、別に私の"異能"は珍しくも何とも無いよ?何なら、医者ともなれば、もっと正確に分かるから」


 少し、何処か寂しげな悲しげな表情で安寧は話す。


「そうなの?」


 それを察してか偶然か、創矢も少し戸惑ったような表情で聞く。


「"異能"を使って医者やってる人は多いからね。それに、こういう所で働いてる人って、大体医者になれなかった人が来るんだよね。勿論、普通に手術とか出来れば関係無いけど、私は"異能"しか無いから」


 段々と、話の内容が暗く重くなっていくように2人は感じていた。これ以上聞いて良いのか否か、気にはなるが、どことなく、勘違いかも分からないが、安寧の表情や気分も下がっているように思える。


「てことは、医者を目指してたの?」


 が、こういう状況で聞けてしまうのが創矢だ。気が使えない訳でもないが、気になったら、様子を伺いながらも行動してしまう。長所と言うか短所と言うか、周りはこの行動力に、たまに肝を冷やす。透は当然、この質問に内心少しハラハラしていた。しかし半面、いや、それ以上に聞いてくれた事に喜んでいた。


「聞いてくれるの?私の話」


 ところが、思っていた以上に、意外と素っ気無く、さらっと答えてくれた。何処か、言い慣れたような言い方で。


「勿論」


 創矢も即答する。透も内心喜んでいた。ここに残っていて良かったと感じていた。表情こそ、空気を読んでか、ずっと無表情を貫いていたが、内心は少し騒がしい。

《Sランク》3年 天羽(あまは) 翼(つばさ)/163cm "異能":羽(フェザー)


《Aランク》3年 兎耳山(とみやま) 音波(おとは)/161cm "異能":地獄耳(ヘル・イヤー)


《Aランク》3年 時雨(しぐれ) 瞬(まじろぎ)159cm "異能":?


《-ランク》3年 岩筋(いわすじ) 錬也(れんや)/172cm "異能":増強(アナボリック)


《-ランク》3年 丹下(たんげ) 深也(しんや)/166cm "異能":抑圧(ダウン)


《-ランク》3年 咽原(のどはら) 響平(きょうへい)/170cm "異能":喝破(シャウト)


《-ランク》2年 虎杖(いたどり) 創矢(そうや)/175cm "異能":痛み分け(ギブ・ペイン)


《Sランク》2年 本田(ほんだ) 和歌(わか)/-cm "異能":本(ブック)


《-ランク》2年 荷川取(にかどり) 透(とおる)/168cm "異能":窃取(スティール)


《保健室教員》保科(ほしな) 安寧(やすね)/165cm "異能":養生(ケア)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。