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保科 安寧 "養生" -Last-

 安寧は医療従事者の両親の元に生まれた。父は"異能"が使え、母には"異能"が無い。"異能"の遺伝は確率的な物だった。そして、安寧が生まれた時に"異能"は見られなかった。両親は、それに安心した。確かに"異能"は、正しく使えると、人生を豊かに出来る1つのツール、能力のような物だ。父も例外では無い。しかし反面、力に溺れたり、虐められたり、悪影響を及ぼす事もある。本人次第で、どうにかなる部分もあるが、周りの環境にも当然左右される。と言うより、環境要因の方が大きいだろう。虐めなど、マイナスな出来事が原因で、闇堕ちのような形で、敢えて力に任せて生きる者も多い。

 安寧は、物心が付く頃には、自分も両親のように医療従事者になるのだと思っていたし、なりたいとも思っていた。2人とも医療従事者という事で、ちょくちょく家の中を2人が留守にする事があった。緊急という事もあり、両親には避ける事が出来なかった。しかし、それも安寧にとっては追い風となった。両親は罪悪感を持っていたが、安寧は、緊急で駆けつけて人を助ける所が、かっこよく思えた。少し寂しい所もあったが、いつか2人のようになりたい。そう思う様になっていった。そんな事があってか両親は、やりたい事をやりたいようにやらせてくれる。そんな子供にとって、とても良い環境を与えるように努めていた。安寧にとって、それも嬉しかった。だから、尚更両親に憧れを持っていた。

 そんな訳で、安寧は子供の頃から医療従事者を目指していた。高校生くらいまでは、成績優秀で学年トップまでは行かないものの、上位には必ず食い込んでいた。比較的、勉強の出来るタイプだった。本人も、物凄く勉強に時間を割いて、努力をしていた訳では無かったため、周りからは天才扱いされていた。医者になるのも時間の問題だろうと。しかし、医療専門学校に行くようになってから、一気に状況は一変した。高校生くらいまでで、薄々実感はしていたが、それが顕著に現れた。それは、物理的な物覚えが悪い事だ。安寧は昔から、唯一体育など、自分の体を使って覚える事が苦手だった。聞く、書く事での理解は簡単に出来るのに、それを体と上手く連動させる事が出来ない。言わば、運動音痴、不器用という奴だった。医療専門学校でも、学科は難無くこなせたが、どうしても実技が上手く行かなかった。特に、細かい作業が軒並み駄目で、思うように出来なかった。その上、周りには自分の、かなり上位互換のような"異能"を持った人が多く居た。と言うよりも、自分の"異能"は、ほぼほぼ最低値に近かった。どれだけイメージや知識を増やして所で、どうしても体が追い付かない。そんな自分に、日に日に、引け目を感じるようになっていった。友達や両親は、本人からの悩みを聞いて、励ましたり、親身に相談に乗ってくれた。しかし、そんな自分にも嫌気が差す。どれだけ、周りが尽くしてくれても、それを全て無に返しているようにしか思えないからだ。実際、実力も着いて行くことは無かった。そして、とうとう決心した。医療従事者にはならない、という事を。普通に就職して、普通に生きる事を。

 が、そこで両親から打診があった。医療従事者など、命に直結するような所で無ければ、やれるのでは、と。当然、安寧は迷う。何故なら、医療従事者にはならないと決心したものの、やはり長年の夢であり、憧れ。簡単には捨てられない。しかし、どうせ無理なのでは、という思考が頭から離れない。医療従事者を目指すも、その他の似た職業に就くにも、高嶺の花を仰ぎ見るような気分だった。そんな中、この事を学校で相談してみると、意外にも前向きな回答が返ってきた。今の安寧の実力では、確かに医療従事者には向かない。それでも例えば、何処かの保健所で補佐的な事をしたり、学校で保健室に就いたりする分には実力は充分だと。この相談が、安寧の背中を押した。そして今に至るそうだ。


 安寧は数分かけて、少し細かく自分の過去について語った。


「へぇー。"異能"あっても挫折とかあんだな」


 "異能"さえあれば、どうにかなる。過去から今にかけて、そう思ってきたし、実際そうしてきた創矢は意外という感じで話を聞いていた。


「てことは、手術とかは出来ないけど怪我の手当てくらいなら出来るって感じですか?」


 透が聞く。


「そんな感じ。一応知識はあるから、"異能"でその人の状態を確認して、可能な範囲で手当てをする感じかな。勿論、重傷ならすぐに病院だけどね」

「早期発見的な感じですかね?」

「そうだね、そんな感じ」


 2人とも感心した様子で話を続ける。


「"異能"使って治せる怪我はあんの?」

「それがねぇ、基本無いんだよね。だからこそ、ここに居るって所かな」


 創矢の質問に対して、少し残念そうに返事をする安寧。


「で、結局俺は大丈夫そうなの?」


 さっきまでの会話の流れと雰囲気は?と思ってしまうくらい別の話を振る創矢。透は、ある意味これにも感心を示す。安寧も一瞬調子を崩しそうになった。


「問題無いよ。それだけ話せるなら、もう出てっていいよ」

「つっても痛てぇけどな」

「湿布あるけど持ってく?」

「いや、いいや」


 そう言うと、少し痛そうな顔をしながらベットからゆっくり降りだす。


「もう動けるの?」


 透が少し心配そうな顔をしながら聞く。


「余裕だな」

「それなら良かった。創矢が倒れるの初めて見るから、てっきりヤバいかと思ったよ」

「確かにあれはヤバかった。受けたこと無いくらいの強さだった。けど、もう大丈夫」


 立ち上がると、早々に出ていこうとする創矢。


「じゃぁ、これで出ます」


 またもや、透が安寧に言う。


「君、何かあっても良いんじゃない?」


 安寧が創矢に向けて言う。


「サンキューな」


 少し後ろを振り返りながら、片手を挙げて適当に言う創矢。


「全く。彼、本当にいつもあんな感じ?」

「まぁ、そうですね...」


 透は、苦笑いを見せながら答える。


「礼儀が無いと言うか、素直じゃ無いと言うか...」

「そこら辺は無視しておいて下さい」

「あれを無視ね~」

「まぁ、悪気は無いんで。きっと」

「ま、そんなに気にしてないからいいよ。あそこまで酷いのは見たこと無いけど」


 2人に軽い笑いが起こる。


「じゃ、行きますね」

「またね」


 少し遅れて、創矢を追いかける形で出ていく透。それを見ながら、軽く手を振って見送る安寧。


「ふぅ、さてと」


 軽く息を吐くと、ベットを整え始める。整理を始めて少しすると、また扉の開く音がした。


「安寧っちやっほー」

「お邪魔しまーす!」

「こんにちはー」


 音波が入って、瞬、翼と続く。


「あら、またお客さん?」


 分かった素振りで、3人に返事を返す。


「また?」


 瞬が聞き返す。


「今、誰ともすれ違わなかった?」

「誰も居ませんでしたよ?」

「じゃあ、偶然...あ、ひょっとして、また飛んできたでしょ!?」

「せいか~い!」


 明るく答える瞬と、腑に落ちて納得したような表情を見せる安寧。


「今日はどうしたの?」


 いつものように安寧が聞く。3人は、よくここに通う。特に、休憩時間が終わりに近づくと、時間潰しに遊びに来る。


「聞いてよ~。今日ね、またパン屋さん逃したの」

「あら、また行けなかったの?」

「そうなんだよ~。今日は音波ちゃんが~...」

「違う!うちじゃない!あの鶏冠野郎が悪い!!」

「鶏冠ってあの1年生の?」

「そう!あいつが道塞ぐから行けなかったの!てか、安寧っち知ってるの?」

「知ってるも何も、さっきすれ違わなかったって聞いたのが、その子なの。さっきまで、ここで寝てたんだよね」

「あいつ、ここで寝てたの?もう少し早く来ればもう1発...」

「もう、駄目だよ音波ちゃん?あまり人を虐めたら」

「安寧っちまでそんな事言うの!?私悪く無いから!!」

「分かったから」


 音波が必死に弁明している姿を見て、周りに笑いが起こる。


「でも、みんな元気そうだね。前まではパン屋さん行けないと、この世の終わりのような顔してここに来てたのに」

「今日も時間見た時は皆死んでましたよ?けど、音波ちゃんが虐めたのもあって、少し気が紛れてると言うか何と言うか?」

「瞬(まじ)?もう虐めたって言わないって話しなかったっけ?」


 音波が少し威圧気味に言う。


「冗談だよ~。ジョークジョーク!」

「音波、今度は瞬を虐めるの?」


 翼が突っ込む。それを聞いて皆笑い出す。メロンパンを買えなかった事は、皆何とか乗りきれたようだ。


「にしても、音波ちゃんとあの子、少し似てるよね?」

「はっ!?あいつと??何処が!?!?」


 少し食い気味に音波が聞き返す。


「そう言う所」

「あ、確かに2人とも口悪いもんね!」


 瞬が、すかさず共通点を口にする。


「今日の瞬(まじ)は私に喧嘩売ってるの?」


 苦笑いのような、威圧のような薄笑いで瞬に言う音波。


「ねぇ~、怖いって~、音波ちゃ~ん。もう言わないから許してよ~。約束するから~」


 まるで、駄々を捏(こ)ねる子供のように謝る瞬。


「約束だよ?」

「約束する!」


 少し威圧気味に言う音波に対して、明るく、もう許されたと言う感じで答える瞬。


「全く瞬は...」


 音波がため息混じりに言葉を吐く。


「おっ、そろそろ時間だよ?」


 丁度時間を見た安寧が言う。残り時間2分前後だった。


「じゃ、帰りますか!」

「瞬って本当に切り替え早いよね?羨ましいよ」

「そうなんだよね!そこが私の長所だから!」


 嫌味なのか分からない言い方をする音波に対して、それを気にしていないのか、気づいていないのか、底抜けに明るい返事をする瞬。


「じゃあ、またね」

「また来ます!」

「ばいびー、安寧っち」

「お邪魔しましたー」


 翼が言い終わると、3人は消えた。


「今日は騒々しいなぁ」


 うっすらと、はにかみながら安寧は呟く。そして、整理の続きを始める。

《Sランク》3年 天羽(あまは) 翼(つばさ)/163cm "異能":羽(フェザー)


《Aランク》3年 兎耳山(とみやま) 音波(おとは)/161cm "異能":地獄耳(ヘル・イヤー)


《Aランク》3年 時雨(しぐれ) 瞬(まじろぎ)159cm "異能":?


《-ランク》3年 岩筋(いわすじ) 錬也(れんや)/172cm "異能":増強(アナボリック)


《-ランク》3年 丹下(たんげ) 深也(しんや)/166cm "異能":抑圧(ダウン)


《-ランク》3年 咽原(のどはら) 響平(きょうへい)/170cm "異能":喝破(シャウト)


《-ランク》2年 虎杖(いたどり) 創矢(そうや)/175cm "異能":痛み分け(ギブ・ペイン)


《Sランク》2年 本田(ほんだ) 和歌(わか)/-cm "異能":本(ブック)


《-ランク》2年 荷川取(にかどり) 透(とおる)/168cm "異能":窃取(スティール)


《保健室教員》保科(ほしな) 安寧(やすね)/165cm "異能":養生(ケア)

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