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"痛み"と”耳"

 ペイン・ハウスが5人になってから1週間前後。


「創矢最近元気だね。それは良い事だと思うんだけど、少しは周りの事考えてくれない?日に日に看過できないくらいに騒がしくなってる気がするんだけど?」


 和歌が、こちらに静かに近づきながら言う。


「そうかぁ?まぁ、活気あっていいんじゃねぇか?それに、過去の俺はこんなに人と関わる事無かったからさ。少しくらいは騒いでも罰(ばち)は当たらなねぇだろ?」


 創矢は少し、ご機嫌に返す。実際、過去の創矢には、今の状況は考えられなかった。透と関わる事も、チームが出来て、仲間が増える事も。周りに言いはしないものの、今の状況が、創矢は嬉しく楽しかった。周囲も、創矢の今までに見せた事がない明るい雰囲気が、薄っすらとだが窺(うかが)える程だった。


「そうだね。少(・)し(・)く(・)ら(・)い(・)な(・)ら(・)ね?毎日そんなに騒いでても、少(・)し(・)なんだね?」


 少しぶっきらぼうで、少し威圧的な言い方で返す和歌。


「まぁ、確かに少しは騒がしかったかも知れねぇけど、少しは多めに見てくれてもよくねぇか?」


 内心、少しの焦りを感じながらも、表面上は明るく軽く返す創矢。


「ずっと多めに見てきてて、今言ってるの」


 先程よりも、少し強めに返す和歌。


「分かったよ!離れりゃ良いんだろ、離れりゃ。行くぞ」


 そう言うと、ばつが悪そうに、率先して教室を後にする創矢。その光景を見て、少し唖然と疑問を持ちながら創矢を追っていく4人。何故、彼女の言うことを聞くのか。それがメンバー全員の疑問だった。少なからず、俺達が同じ事したら、間違いなく殺される、のにと。そして、このやり取りが行われる度に、和歌は周りの人に感謝される。創矢絡みで対処出来るのは、理由こそ分からないが、和歌しか居ない、と。入学してから時間が経つに連れ、みんなが自然と、そう思うようになり頼るようになった。勝手に、みんながクラスのまとめ役のように感じていた。過去に、別の女子生徒が創矢に何かを言った時は、男子生徒程では無いが、強い当たりで返されただけで、変化は無かった。それを見た和歌が、話に加わったり、注意をしたりすると創矢は動く。それ以降、創矢絡みで何かあれば、みんなが和歌に頼るようになった。実際、今では和歌自らの創矢への働きかけは3割程度だ。残りは、周りに頼まれて、渋々と言う感じだった。


 率先して教室を後にしたはいいものの、行き先は当然決まっていない。勢いで出ただけである。そして、決まっていないと言えど、行き先は1つしか無い。校舎裏だ。誰も何も語ってはいないが、みんな分かっていた。行き先の当てが1つしか無い事に。


「結局、俺達の居場所は狭くて人気の無い所しか無ぇって事か」


 少し苛立ちながら、吐き捨てるように創矢が言う。


「て事らしいな」

「結局な」


 透と錬也が続く。本当は、この流れで和歌の事を聞きたいが、身の安全を確保するために、みんな心に押し留める。そもそも、勇気を出して聞いた所で、答えてくれる保証は何処にも無い。最悪は、骨折り損のくたびれ儲け、いや、満身創痍損の致命傷儲けとなって終わりだ。となれば、わざわざ天秤に掛けて考える必要も無い。聞かない1択である。


「定期的にここに戻って来るよな、俺達って」


 深也がぼやく。


「まるで、ゲームのセーブポイントみたいに」


 響平が続ける。しっくり来る例えに、軽い笑いが起こる。良い感じに場が和み、暫し、雑談に小さな花が咲く。


 そこから数分経過した頃。


「俺らのセーブポイントに、誰か上書きセーブしに来たかな?」


 少し離れた場所から、数人の女子生徒の声が聞こえて、響平が反応する。


「それは困るなぁ」


 透が言う。声はすぐ近くまで近づいてきている。


「またこんな所に居るんだ。暇だね」


 1人の女子生徒が言う。


「ちょっとぉ~、言い方キツくない?ごめんねぇ~、通りたいから道空けてくれない?」


 別の女子生徒が言う。


「しかも、1年に絡んでんの?居場所作りご苦労様」


 先程の女子生徒が言う。そう、この冷たい言い方をしているのが音波、明るい言い方をしているのが瞬である。当然、翼も居る。


「違げぇよ。今は仲間だ」


 錬也が強めに答える。


「あっそう。ま、興味無いから退(ど)いてくれない?通れない」

「音波ちゃ~ん...」

「なぁ?それが道空けて欲しいって奴の頼み方か?」


 音波と瞬のやり取りに、特に音波の態度が癇(かん)に障(さわ)った創矢が苛立ちながら言う。


「お前1年だよな?こっちは先輩だぞ?しかも邪魔なのお前らだよな?」

「だったら何言っても良いってのか?どういう教育受けてんだ2年は。それとも、特別お前の頭がおかしいだけか?」

「こんな所に屯してるお前らよりはましだ。お前こそ、先輩への口の聞き方知らねぇらしいな。教えてやろうか?」


 音波も段々苛立ちが強くなってく。


「音波、もういいよ。行こ?」

「そうだよ!行こ行こ!!」


 翼と瞬が止めに入る。


「翼(つば)と瞬(まじ)は黙ってて」


 音波が、またに使うあだ名だ。あだ名を使う時は大体2パターンしか無い。1つは、暇で怠そうにしている時。もう1つは、余裕が無くなったり、急いだりしている時。今回は完全に後者である。2人も、あだ名を聞いて、すぐに悟った。こうなると、中々引かないのが音波。

 そして、当然創矢も引くはずが無い。


「おいおい、2人が止めてくれてるんだぜ?今のうちに手を引いたらどうだ?第一、女が男に勝てるわけ無いだろ?止めとけよ、怪我じゃ終わらねぇかもよ?」


 少し舐めた、からかうような言い方で挑発する創矢。


「今から病院の予約入れとけ」


 音波は完全に怒り心頭だ。表情も殺意に満ち溢れている。


「おー、怖い怖い」


 自分が負けるわけが無い。そう確信しているかのような、舐めているような、強者のような余裕を見せ続ける創矢。


「この3人が、この前話した3人だ」


 錬也が少し心配そうに伝える。


「あー、こいつらが。てことは、さっきの翼(つば)ってのが翼で、瞬(まじ)ってのが瞬。じゃあ、お前は音波か。わざわざ出向いてくれるなら話は早い。とっとと叩いて、実力分からせてやるよ」


 少しだけ戦闘体勢に入る創矢。未だに、余裕を見せてはいるものの、表情は少し真剣がかった。


「そのつもりだ鶏冠(とさか)野郎」

「だと糞ピアス」


 このやり取りを皮切りに、創矢も完全に戦闘体勢に入る。と言うより、2人とも殺戮体勢と言った方が正確だろう。2人の周りには、殺意に満ち溢れた雰囲気が広がっている。透は久しぶりに、創矢のこの光景を見た。が、他のメンバー3人は、当然初めて見る光景。見たことも感じたことも無い殺気や雰囲気に完全に呑み込まれている。ただ、呆然と立ち尽くし、意識がはっきりしているのか、していないのか、その狭間のような感覚で見ている。それが精一杯。そんな圧倒されたような状況だ。そして、そんな中でも思う事がある。それは音波の強さ。創矢の凄みに対して、全く引かない、引けを取らない。それどころか、自ら圧を掛けていく。自分だったら、とっくに恐怖で動けないだろう、と。


「オトハチャーン、ヤリスギハダメダヨー」


 瞬が、静かに、そーっと伝える。しかし、当然それを音波は聞いていない。

 暫くにらみ合いが続く。


「対した度胸だ。1発受けてやるよ」


 と言う創矢。当然、これは誘い水。1発受けたら、そこからボコボコにしてやろうという魂胆だ。

 が、音波はそれを、とっくに見抜いている。創矢に対面してからは、創矢に一点集中で、心を読み取っている。当然一撃で仕留めるつもりだ。


「それで充分だ」


 そう言うと、音波の目がうっすらと赤みがかる。


「やってみろよ」

「"自己洗脳(オーバーライド)"」


 そう言うと、音波は頭の中で1度イメージをする。


(私の打撃は銃のように速く、銃弾のような固さがある)


 そうイメージすると、その言葉が頭の中で反響するかのように、何度も繰り返される。そして、ゆっくりと創矢に近づいていく。


「おいおい、まだかよ?」

「覚悟しろ」


 そう言った瞬間、創矢の腹に1発右手で正拳を打ち込む。と同時に創矢の体が九の字に折れ曲がる。一瞬の出来事だった。周りには、創矢の体が急に九の字に折れ曲がったようにしか見えていない。翼と瞬だけは、何が起きたのかは分からないものの、音波の"異能"を知っているため、何をしたかは理解出来ていた。が、他の人は、理解が追い付かないまま、置いていかれている。


「ぐぅっっ......」


 創矢は腹部に、今までに経験した事の無い、衝撃や痛みを受ける。それも、錬也の"増強(アナボリック)"が比にならないくらいの衝撃と痛みだ。それもそのはず。音波のイメージした通りの打撃が、イメージした通りに創矢を襲ったからである。更に、打撃の瞬間が読めずに、受ける準備が出来ていなかったのが、追い討ちとなった。創矢の場合、喧嘩経験が豊富なため、大体相手の動きで攻撃が来る瞬間や、何処が動くかなどが予測出来るので身構える事が出来る。が、今回は速すぎる。速すぎると言うよりも、見えないが正しい。まさか人から、それも女子生徒から、銃弾の速さで打撃が来るなんて、誰も予想しない。完全に不意を打たれた。創矢を含め、チームメンバー全員が、寝耳に水といった具合だ。そして、創矢はすぐに、声にならない声のような物を漏らすと共に、その場に膝から崩れる。これには、透も驚いた。何が起きたか分からない上に、あの創矢が膝から崩れる何て事は、あり得ないからだ。まさに、盲亀の浮木と言った所だ。


「創矢?!」


 創矢が倒れて1秒前後。我に返った透が、創矢の元に駆けつける。が、既に気絶している。


「音波ちゃん...これ、大丈夫?」


 流石に心配になった瞬が、音波に聞く。


「死なない程度に、浅く打ったから大丈っしょ」


 あまりにも軽い返しに、瞬は少し拍子抜けした。


「まぁ、音波ちゃんが言うなら大丈夫、かな?」


 半信半疑ながら、納得を見せる瞬。


「さ、道空いたし行こうぜ?」


 まるで、何も無かったかのように、軽い足取りで歩き出す音波。やれやれ、という感じで瞬と翼が後ろを付いて歩く。


「みんなごめんね?音波ちゃんも悪気ある訳じゃ無いから許してね??」


 少し歩くペースを落として、軽く手を合わせながら、愛想を振り撒くかのように、透達に声をかける。言い終わると、また元のペースで歩き出す。


「創矢大丈夫そうか?」


 錬也が透に訊ねる。


「まぁ、呼吸はあるし、一旦は大丈夫じゃないかな?取り敢えずは、保健室にでも連れて行った方が良さそうだな」

「なら俺が運ぶ」


 そう言うと、錬也はボディービルダーのような体型に変化して創矢を背負う。


「じゃ、行くか」


 透が言うと、みんなで保健室に向かって歩き出した。その間、透は先程の出来事をずっと思い返していた。一体、あの女は何をしたのか。どんな"異能"を持っているのか、と。

《Sランク》3年 天羽(あまは) 翼(つばさ)/163cm "異能":羽(フェザー)


《Aランク》3年 兎耳山(とみやま) 音波(おとは)/161cm "異能":地獄耳(ヘル・イヤー)


《Aランク》3年 時雨(しぐれ) 瞬(まじろぎ)159cm "異能":?


《-ランク》3年 岩筋(いわすじ) 錬也(れんや)/172cm "異能":増強(アナボリック)


《-ランク》3年 丹下(たんげ) 深也(しんや)/166cm "異能":抑圧(ダウン)


《-ランク》3年 咽原(のどはら) 響平(きょうへい)/170cm "異能":喝破(シャウト)


《-ランク》2年 虎杖(いたどり) 創矢(そうや)/175cm "異能":痛み分け(ギブ・ペイン)


《Sランク》2年 本田(ほんだ) 和歌(わか)/-cm "異能":本(ブック)


《-ランク》2年 荷川取(にかどり) 透(とおる)/168cm "異能":窃取(スティール)

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