ペイン・ハウス -First-
入学して数週間。いつものように、教室の窓際の隅に固まる2人。
「なぁ、俺達って、どんだけ通用すんのかな?」
「確かになぁ~、皆未知数だもんな」
入学してからというもの、透と創矢は常に一緒に居た。2人とも、過去が似ている分、気が合う所があるらしい。
「この学校、人の"異能"は、聞かないと分かんねぇもんなぁ」
「1人ずつ締めてくしかねぇか」
「創矢と一緒に居れるのも時間の問題だな」
「冗談だわ!俺だって昔ほど暴れてやろう何て思ってねぇよ!折角入ったのに、ここで退学になったら本当に人生詰んじまう。俺の人生が懸かってるんだから」
「おっ、少し変わったね」
「あんな生活はもう送らねぇよ。その為に、ダルくても毎日来てんだから」
2人は入学してから、そこまで時間をかけずに、冗談を交えられるくらいに、打ち解けられた。過去に喧嘩していようとも、やはり似た者同士と言ったところか。
「けど、気になるよなぁ」
「だろ?やり合うしか無くねぇか?」
「普通に聞くって事は出来ないの?」
「教える奴居ねぇだろ。ただでさえ、もう周りから浮いてるって言うのに」
「まぁ、ずっと2人で連るんでりゃ、誰も寄って来ないよなぁ。昔の雰囲気抜けて無いのかもな」
2人は暫し考えた。
「思ったんだけど、俺たちが最強になったらいいんじゃね?」
沈黙の中、創矢が切り出す。
「そうすると?」
「みんなが俺らを認めたら、人が集まるし、能力は知れるし、学校での実力も分かる。それに、ずっと思ってた事があんだよ」
「何?」
「そもそも、ランクで決めるっておかしくねぇか?」
「どういう事?」
「例えば、お前のランクがBだとする。けど、今俺とお前がやり合ったら俺が勝つかもしれない。そうしたら、ランクなんて意味ねぇじゃん?そもそも、ランクが対戦じゃなくて、試験官と1対1で密室っておかしいだろ?なんで学校が決めるんだよ、相性もあるだろ?」
「まぁ、それはあるな。俺も思ってた所はある」
「だから、俺らが強くなって、周りが俺らを認めるしか無いようにするって訳」
「なるほどね。因みにどうやるの?」
「俺らでチーム組まねぇ?」
「それは面白そうだな!今までは、連るんでる奴が居たとしても、結構一匹狼な所はあったしな」
「だろ?んで、チームを学校で知らしめる。何なら、学校の外でも知らしめる。そうすれば、俺らは強くなるし、チームにも強い奴が集まってくるし、そしたら、俺たちが最強だろ?」
「浮き者には丁度いいやり方かもな」
「だろ?やろうぜ!?」
「OK、乗っかった。強くなって俺たちの力を知らしめよう」
この瞬間、はみ出し者2人によって学校にチームが結成された。勿論、ヒールチームだが。
「そうと決まれば、まずはチーム名だな」
「何か案ある?」
「まぁ、俺とお前だから、ギブ・ペイン・スティールってのはどう?」
「いや、長いしそのままじゃん!」
透は、すかさずツッコミを入れる。
「今後、人も増えることだし、もう少し何か、こうチーム感出るような奴がいいよなぁ」
「じゃあ、何か案出してくれよ」
2人に、また沈黙が訪れる。
「あ、ペイン・ハウスってのはどう?」
透が切り出す。
「どういう意味?」
「俺達って喧嘩上りじゃん?日常には喧嘩があって、喧嘩だけじゃなくて、周りにも冷たくされたり、居場所が無かったり。常に"痛み"と一緒、"痛み"の中で生きてきた。言わば、俺達の第二の家は"痛み"みたいな?後、創矢の"異能"にも絡んでるし」
「おぉ!それかっこいいな!!けど、お前の要素無ぇじゃん」
「俺の要素はいいよ。提案したのは創矢で、俺は乗っかっただけだから。」
「そうか。ま、そう言うならいいや。じゃあ、今日から俺らはペイン・ハウスって事で!」
創矢が右手の拳を透に突き出す。その拳に透も右手の拳で合わせる。
「で、これから何してくか決まってるの?」
「そこなんだよなぁ、正直こんな事したことねぇし、あまり決まってねぇんだよなぁ」
「だよなぁ」
「ま、取り敢えずは仲間探しじゃね?そこから勢力を伸ばしていく」
「だな。そんな感じだな」
2人は自然と教室内を見渡す。皆各々、友達や話せる人を何人か作り、楽しく過ごせるようになっていた。中には、1人で静かに過ごす人も居るが、何となく、自分の学校での過ごし方が決まってきた頃だった。隅で固まって、周りとの関係を持たないような、異質な存在は2人だけだった。
「無理ありそうじゃね?」
「俺らみてぇな奴は居ねぇか。つか、そもそもこんなとこ普通来ねぇしな」
「だよなぁ。俺達がここに居るのは、まぐれだからなぁ。」
何となく、諦めた雰囲気を自然と醸し出す2人。
「2年当たってみるか?」
「えっ?」
「しょうがねぇじゃん。ここ居ねぇんだもん」
「だからって2年?別に外の人探すでも良くね?」
「それもやる。けど、学校に2人だけじゃ少ないだろ。しかも、今年進級したって事は、後輩出来て調子乗ってる奴絶対居るだろ?そいつ叩いたら良くね?人増えるし、2年に勝った事にもなるし」
「強引に入れて活動してくれるかな?裏切りそうじゃね?」
「そしたら、そいつを徹底的に潰す。つか、始めにボコボコにして軽く脅し入れておけば、簡単には裏切らねぇだろ?」
「まっ、しょうがねぇか。それしか無さそうだし。あんま選んでもられなそうだし」
「だろ?そうと決まったら2年狩りに行こうぜ!」
既に嬉しそうな創矢。仲間を増やせることに喜んでいると言うよりは、単純に久しぶりに強そうな奴と喧嘩出来ることに興奮したような、血が滾っているような危険な喜び方を見せている。どこか狂喜じみて、実力を測れる機会に喜びを見せている。久しぶりに、危険ではあるが、喜びを見せている創矢を見て、透も少しテンションが上がっていた。
「で、当てはあるの?」
「そりゃ、まぁ、同族ならって感じだな」
「なるほどな」
どうやら、ここでもやはり、蛇の道は蛇らしい。学校なら校舎裏などが該当すると言った所か。2人は屯出来そうな場所を、次々に当たってみる。が、やはり結局は校舎裏だった。
「おっ!居んじゃん」
ヤンキー座りをして、屯している3人の2年男子生徒を見つける。少し悪い笑みを、うっすらと浮かべる創矢。
「やっぱり、ここになるよなぁ」
分かりきったような言い方で返す透。
「んじゃ、久しぶりにやるか」
「だな」
早速、戦闘体制に切り替える2人。創矢を先頭に、ゆっくりと歩いて3人に近づいていく。すれ違える距離に近づくと、創矢は通り過ぎざま、足元にある砂利の石を、偶然当たったかのように装って軽く蹴って、1人の背中に当てた。
「おい、1年。背中に石当たったんだけど」
すぐさまに反応を見せる2年男子生徒。内心、案の定釣れたと喜んだ2人。
「わざとじゃないんすよ、先輩」
謝らない所か、反省している色を一切見せず、軽く返す創矢。
「何その言い方?悪いと思ってねぇの?」
「まぁ、わざとじゃないんで」
「舐めてんなお前。入学出来たからって、あまり調子乗んなよ?」
「先輩こそ、進級して浮かれてんじゃないすか?後輩には優しくして欲しいもんすね」
完全に舐めきっている態度を出す創矢。創矢と透は、もう楽しくて仕方ない。人をからかって、それも年上を弄んでいる。更に、創矢の見た目が、より一層、事態を悪化させている。創矢は、長めのモヒカン刈りで髪を真っ赤に染めている。入学する前も髪型は同じだったが、今よりかは、少し短く、当然黒色だった。目つきは少し鋭い。身長は175cmと少し高め。服装は鳶職を彷彿させるような、少しダボついたズボンを履いて、上は、少しオーバーサイズのTシャツを着ている。靴は黒ベースに白くて細いラインの入ったハイカットスニーカーを履いている。
「お前やんなきゃ分かんねぇか」
「と言うと?」
喧嘩が始まる事が確定して尚、煽り続ける創矢。完全に舐めきった上で、相手の反応を楽しんでいる。喧嘩慣れしている証拠だ。
「明日から学校じゃなくて病院通わせてやるよ」
そう言うと、石を当てられた男子生徒は、肉体が急激に変化して、ボディービルダー顔負けの体格へと変わった。更に、右腕だけを1.5倍近く太くした。先程までは、細身の体格で、少し大きめのタンクトップを着ていたが、今ではタンクトップがサイズダウンしたかのように張っている。
「通ったこと無いんで気になるっすね」
と言いつつ、創矢の顔も少しずつ真剣になっていく。
「分からせてやるよ」
そう言うと、ボディービルダーの1.5倍くらいある右腕で、腰を捻ってフックを放つ。創矢は、左腕を顔の左側に立てて、その腕を右腕で押さえる形でガードをする。が、威力は尋常じゃない。創矢は、これまで受けたことの無い痛みを左腕に受ける。少し鈍い音と共に拳が腕にめり込み、骨に響く。そこから、ガード体勢のまま右側に数歩飛ばされる。飛ばされた先で、すぐさま構えようとしたが、左腕が痛みで上がらない。
「おいおい、まさか骨行った訳じゃ無いよな?あれだけ言っておいて、もう終わりって事は無いよな??」
周りの連れと失笑気味に笑いながら男子生徒が言う。
「正直、過去で1番痛てぇすわ。けど、ここからが本番。と言うより覚悟して下さいね?先輩」
創矢の顔は獲物を仕留めに行く、狩りに行く獰猛な動物のような顔つきに変わっていた。
「口じゃなくて体動かせよ」
「んじゃ、次は俺の番ってことで。そこ立ってて下さいね?」
そう言うと、ゆっくりと威圧的に近づいていく。普通の人なら、恐怖で動けない程の威圧感を放っている。
「来いよ。この体に効かせられるならやってみろ」
「じゃ、遠慮無く」
そう言うと、男子生徒の異常に発達した硬く割れた腹筋の中心辺りに左手の平を添える。
「くたばれ」
そう言った瞬間、男子生徒の腹に、先程のフックと同等の痛みが襲う。しかも、油断していた分、内部に痛みが浸透して行く。まるで胃を直接何かで圧迫されたかのような衝撃を受けて、その場に膝から崩れる。
「まだやるか?もう1発入れてやってもいいが...」
そう創矢が言いかけた時、既に男子生徒の体格は元に戻っていた。
「こっちの台詞だな。もう終わりかよ」
諦めて吐き捨てるような言い方をする創矢。
男子生徒の連れは何が起きたか理解出来ないまま、唖然として立ち尽くしている。
「つかさぁ、お前らもさっき笑ってやがったよなぁ?次はお前らか?」
完全に嘘でも敬語を使う気すら無くなっている。圧倒的に格下に判断したようだ。
創矢が1歩近づくと、連れの2人は同時に1歩後退した。
「それが答えだな」
2人は何も言わない。と言うより、喋れないに近い。圧倒的な強さ、何が起きたか分からない攻撃、創矢やこの場の雰囲気への恐怖、全てに呑み込まれていた。
《Sランク》3年 天羽 翼 "異能":羽
《Aランク》3年 兎耳山 音波 "異能":地獄耳
《Aランク》3年 時雨 瞬 "異能":?
《-ランク》2年 虎杖 創矢 "異能":痛み分け
《Sランク》2年 本田 和歌 "異能":本
《-ランク》2年 荷川取 透 "異能":窃取




