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荷川取 透 "窃取"

 入学式。


「あれ?お前もここに来たの?てか、"異能"あったの!?」


 創矢が驚きながら、興味ありげに声をかける。


「創矢!?お前こそ何でここに!?!?」


 お互いがお互いに、同じ一能に来ているとは知らなかったし、来るとは思っていなかった。と言うより、互い社会から離れた生活を送っていた者どうし。周りからは、進学が奇跡に近いと思われる存在だ。努力したと言え、自分達自身が、今ここに居る事がまず驚き。その上、お互い素性を知っている。それも勉強なんて無縁の2人が。事実は小説よりも奇なり、とはまさに、この事を言うのだろう。あるいは、晴天の霹靂(へきれき)か。そして内心、2人は思っていた。これで周りの奴らを見返せた、と。勿論、口には出さないが、優越感にどっぷり浸かっていた。


「久しぶりだな!お前"異能"何て使えたっけ?」

「実はさ、自分でもよく分かってなかったけど、創矢の"異能"の話を聞いてもしかして?と思ったら実際そうだったらしいって感じかな」

「お前もあったんだな~、なら今度は"異能"使ってやろうぜ?」

「創矢には勝てる気がしないよ。それに俺の"異能"は少し特殊だから。」


 過去の喧嘩を思い出しながら言った。喧嘩と言っても、一方的にやられていた、だけだが。



 --約1年前--


「創矢が"異能"を手に入れた??」


 こいつは何を急に言っているんだ?と思いながら半分呆れた感じで聞き返す透。


「いや、マジなんだって。マジで、俺も見た。ただのはったり、だと思ってたんだけど本当に使えるんだって!」


 興奮気味に連れの一人が言う。


「確かに、俺はそこまで強くない。それは認める。俺は盗み専門だからな。だからって、お前人の事舐め過ぎだろ?」


 一銭も持っていない透が、缶のコーラを片手に、馬鹿にされた事を少し不快に思いながらも、事実だからと飲み込みながら返す。時折、不快感をも一緒に流し込むかのように、コーラを流し込む。透は確かに強くは無い。だが、喧嘩が出来ない訳でなければ、全く勝てない訳でもない。売られたらやる、必要があればやる、その程度。むしろ、あまり目立とうとはしない。盗みが上手く行かなくなるからだ。集団に居ても、比較的大人しくしている方だ。それでも、全くプライドが無い訳でもない。


「違うんだって!マ(・)ジ(・)で(・)!」


 再度、訴えかける。


「そこまで言われると、確かに確かめたくはなる。ただ、これで違ってたら、お前ただじゃすまさねぇよ?」

「いいぜ、マジだから」

「それと、仮に本当だったとしても、死ぬ覚悟はしておけよ?」

「どっちみち死ぬのかよ...」

「この話を持ち出したお前が悪い」

「...だな。いいぜ、覚悟はできてる」

「んじゃ、準備するぞ。俺も、ただでやられる為に、あいつとやり合うのはごめんだ」

「俺も。俺に鉄パイプ用意してくれない?」

「いいよ。丁度スパナ取りに行こうと思ってたから。不意を突いてでも勝てたら勝ちだからな」

「ま、勝っても、お互い報復までの命と言う事で」

「じゃ、とりあえず、取ってくるわ」


 お互い覚悟は決まった。何故、ここまで念入りに準備をするのか。それは、みんな創矢の性格を知っているからだ。素直に教えてくれと頼んで、教えてもらえる訳がない。必ず、じゃあ試してみるか?などと必ずと言っていいほど、99.8%くらいは喧嘩に発展するからだ。勿論、断っても意味が無い。喧嘩売っておいてそれは無いだろ、など適当な因縁を付けられて喧嘩になる、か一方的にやられるかの二択。みんな、それを知っている。創矢との喧嘩は、ゲームで避けられない必ず発生する確定イベントと同じなのだ。やれる事と言えば、ゲームと同様、イベント前にレベルを上げたり、武器を揃えたりするくらいだ。今回は後者の選択でゲームに挑む。どの道、ほぼ負け確定イベントな事に変わりは無いが。

 ちなみに、取ってくるとは"盗む"、盗ってくる、という事。それだけ、盗みの才能があり、それが普通、日常だった。今飲んでいるコーラも、近場のスーパーで調達した物だ。始めは、周りから面白がられたり、盗みの成功をかけて、ギャンブルなどをしていたが、次第に無くなった。何故なら、透に限っては、何故かバレないからだ。誰よりも盗み、何を盗んでも、何故かバレないのだ。周りも、それが普通の認識になって行った。だから、今では誰も何も言わない。むしろ、欲しいものがあれば、ついでに頼むくらいだ。勿論、いくらか、お金は取られるが、実際に買うよりは安いので、誰も文句は無い。むしろ感謝している。今回もそうだ。そして、少ないながらも、これが透の収入源になっている。物は基本な(・)ん(・)で(・)も(・)手に入るので、お金はゲームセンターで使うようにしている。


 透は基本、学生服の上に薄くて黒いウインドブレーカーを着ている。一応本人なりの目立たない服装らしい。髪型もストレート気質で、いかにも普通の人に見える髪型だ。前髪は眉が隠れるくらいの長さで、耳は出ている。襟足も長くは伸ばしてはいない。身長は168cmと平均的である。全てが、普通の人を装う感じである。その上、盗みを働く店は毎回変えている。同じ店では月に1,2回くらいしか働かない。しかも、カモフラージュとして、希にだが普通に買い物もする。自分なりに徹底はしている。それが功をなしてか、バレにくい、というかバレたことが無い。本人もそれだと思っていた。創矢に"異能"の話を聞くまでは。


「はいよ」

「どーも。で、いくら?」

「300円後払いでいいよ、取られるかもしれないし」

「おっけー」

「じゃ、行くか」


 道具を揃えて創矢を探しに行く。場所は明確に分かっている訳ではないが、大体検討はつく。細い裏路地辺りや人の居ないような、要は"不良が屯しそうな所"を歩いていれば、遭遇する確率が高い。もしくは、川岸で黄昏ている。

 数分歩いていると、早速見つける。不良の勘、蛇の道は蛇、と言ったところか。


「創矢」

「?珍しいな、お前らが話しかけて来るなんて。やんの?」

「ちげーよ、ちょっと聞きたいことあって」


 2人とも、内心やっぱりそう来たか、と思いながら、道具を揃えてきて良かったと思った。


「何を聞くつもり?」

「噂によると"異能"があるって聞いてさ。本当かどうか確かめに来た」

「確かめる?なら、やれば分かる」

「やっぱ、ただじゃ無理か。代わりに、何か欲しいもの取って来ようか?」

「なんもねぇよ」

「そうか、じゃあ仕方ないか...覚悟は出来てる」

「"異能"知りたいんだよな?殴ってこいよ、受けてやる」

(!??)


 2人とも拍子抜けだった。普段なら、もうとっくに殴りかかって来ている。今回はそこを狙って、道具で返り討ちにする作戦だった。


「いいから来いよ。ビビってんの?」

「後悔してもしらねぇよ?」

「やれるもんならやってみろ」


 そう聞くと、ゆっくり2人は近づいていく。そして、腕1本も無い距離まで間を詰める。瞬間、2人とも、ほぼ同時に服の下に、ズボンで挟んで隠していた道具を素早く取り出して、創矢の顔めがけて振り抜く。何かで殴られる事を取り出す直前で直感的に気づいた創矢。流石に2人から、まともに喰らったら不味い。そう感じて、体を後ろに反らして、首を少し傾ける。が、"異能"を使うには、1発もらうしか無い。なので、敢えて透の方に、もらってもいいような角度で顔を傾ける。それに、鉄パイプとスパナである。断然後者の方がましである。

 すぐに、軽い鈍い音と共に、創矢の右頬から顎にかけて、強く少し重めの痛みが走る。すかさず、数歩後退して距離を取る。


「痛ってなぁ、てめぇら仕込みするとはいい度胸だな」


 かなり苛立った様子で、2人に圧をかける。少し、圧に押されそうになった2人。しかし、それ以上に疑問が上回った。"異能"が感じられない。


「"異能"は?」


 少しの間を空けて、少しの恐れと共に透が聞く。


「準備はできた。次の攻撃は手の平だけでやってやる」

(??)


 2人は完全に疑問だった。手加減なのか、それとも"異能"に関係する何かなのか。そもそも準備とは?皆目検討もつかない。


「おいおい、手の平でも俺が怖いか?」


 殴られていない方の口角を少し上げて、うっすらと不気味な半笑いを浮かべる。


「な訳ねぇだろ。"異能"が有るかと思って期待してたら何も無くて少しが(・)っ(・)か(・)り(・)、しただけだ」


 はったりを入れて返答する透。


「安心しろ、今から見せてやる。大人しく立ってろよ?」


 今度は、創矢からじわじわ近づいて行く。


「顔貸せよ」

(?)


 そう言うと、ゆっくり右の手の平を透の左頬に添える。瞬間、先ほど恐らく、創矢が受けたであろう痛みが、透の頬を襲う。しかも、完全に油断をしていた分、創矢に殴った力の2倍くらいで殴られたような痛みを味わった。何とか後退しながらも立っていたが、立っているのがやっとだった。あまりの急な重い一撃で、気が飛びかけていた。が、それを感じているのも束の間、すぐに左フックが透の逆の頬にめり込む。その後は、透は理解が追いつかないまま、ただ、一方的にやられる。言葉通りボコボコに、サンドバッグに。その後、当然連れも同じ運命を辿る。


「分かったか?俺の"異能"」


 2人を納得行くまで殴り付けた後に、少し勝ち誇った感じで2人に問う。が、当然分かる訳が無い。


「分からねぇよ。教えてくれ」

「しょうがねぇなぁ」


 創矢は、少し呆れた感じで言う。本人は伝わったと思っていた。そこから、創矢の"異能"についてや、習得した方法等を教えてもらった。勿論、和歌の説明で覚えている事を復唱しているのが殆どだが。聞いていて、2人とも心に誓った。もう喧嘩は売らない、と。まるで神に誓うかの如く。

 その後、暫くして透は、自分の盗みがバレないのは、"異能"だと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 --



「特殊?」

「そう。知っての通り、俺は喧嘩専門と言うよりは盗み専門だっただろ?それが"異能"と絡んでたって訳」


 そう言うと、透は自分の"異能"について語り始める。透の"異能"は窃取(スティール)。中学時代は、指先から肘までの大きさの物なら、触った瞬間に自分の物に出来たらしい。周りも透の物、という認識に変わる。が、理屈は分からない。盗みを意識し出してから、いつの日にか体得していたらしい。かなりのプロ意識と執念だ。が、時間は約5分前後。その後は、皆元の認識に戻る。なので、盗んでその場に5分前後居ると、普通に捕まるらしい。が、当然、そんなに長居する事は無い。故にバレなかったらしい。盗みを働いてから、たまに言われる


「それお前の物じゃん」


 が、冗談では無くて本当に思われていた事を知って気づいたらしい。なので、周りは盗みをするまでは、"お礼"に、実際渡される時は、"透の物"を譲ってもらって買い取っている、という感覚だったらしい。しかも、5分前後で皆、真逆の事を言い出す。今回も上手く盗んできた、と。この圧倒的矛盾が、"異能"の正体だったらしい。今では、一能に入るべく、他にも能力を習得しているらしい。

《Sランク》3年 天羽(あまは) 翼(つばさ) "異能":羽(フェザー)


《Aランク》3年 兎耳山(とみやま) 音波(おとは) "異能":地獄耳(ヘル・イヤー)


《Aランク》3年 時雨(しぐれ) 瞬(まじろぎ) "異能":?


《-ランク》2年 虎杖(いたどり) 創矢(そうや) "異能":痛み分け(ギブ・ペイン)


《Sランク》2年 本田(ほんだ) 和歌(わか) "異能":本(ブック)


《-ランク》2年 荷川取(にかどり) 透(とおる) "異能":窃取(スティール)

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