本田 和歌 "本"
不良の七不思議。そう言われている。話しかけたら最後、喧嘩が始まる。周りからは、そう思われている。しかし、彼女だけは特別。他の女子生徒にすら言い返すのに、彼女にだけは反抗心を見せない。みんなが不思議に思っている。今回もそうだ。
(あ、これは...)
みんなが悟った。鶴ならぬ和歌の一声。これで、創矢が止まる。正直、困った時は言いはしないものの、みんな和歌を待っている、鶴の助けを。今回の教室での騒ぎも、これで一件落着。
しかし、分からない。何故、和歌の一声だけは受け入れるのか?誰にも分からない。それもそのはず、創矢は敢えてでは無いものの、和歌との関係性を話したことが無いからだ。そして、下手に質問して暴れだしたら命が危ない。だから、誰も聞けない。みんな思い思いに考えてはみるが、さっぱり思い付かない。確かに和歌はSランク。だが、翼には攻撃を仕掛けようとしている。第一、こんな身近に、目と鼻の先にSランクが居たら、とっくに大暴れしているはずだ。しかし、当然だが、それも過去1度として無い。みんなは理解が出来ない。今の所、1番有力とされている説は、和歌の"異能"が創矢の"異能"を遥かに上待っている、と言う説だ。だが、それも、あまりピンとこない。何故なら、和歌の"異能"を知っている人が、創矢の周囲には居ないからだ。それに、創矢は周囲や不良の間では最強と謳われている。では、それを越える"異能"とは一体......
こんな調子で、誰も答えに辿り着くことが出来ない。唯一、手がかりになり得るランク試験は個人試験。試験官と1対1で密室である。
--ある日の公園--
「1回でいいから"異能"使って、俺と喧嘩してくれない?」
一瞬戸惑い、すぐさま聞き返す。
「喧嘩?」
「喧嘩って言うか、その、俺の"異能"がどれだけ強いか試したい。そこら辺の奴らじゃ相手にならねぇからさ」
「まさか、"異能"使えない人に"異能"使って虐めてるの?!」
和歌が少し驚き焦っている。
「違う、そうじゃない!てか、虐めてねぇし。もっと言うと、俺の"異能"は1人じゃ使えないんだよ。」
「どう言うこと?」
理解が出来ない、と言う表情を和歌が見せる。
「俺の"異能"は喧嘩専門なんだよ。受けた痛みを相手に返す、名付けて"痛み分け"!どう!?カッコよくない??しかも今、新技練習中!!」
段々と創矢のテンションが上がっていく。
「てことは、人から攻撃されないと使えないってこと?」
「そう言うこと。だから、殴ってくれない?」
「嫌だよ、何で殴らないといけないのよ。そもそも、私喧嘩したくないし。」
当たり前である。が、創矢は少し残念そうな、不思議に感じているような反応をする。自分の感覚が世間一般とズレている感覚がないのだ。言えば殴ってもらえる、そう思っていたのだ。夜寝れば、翌日には目が覚める、そのくらいの認識であった。
「じゃあ、"異能"で攻撃とかは?軽くでいいからさ、いや本当に。勝ちたいとかじゃなくて、取り敢えず"異能"を体感してほしいんだよ。分かった、じゃあ、軽く腕を叩いてくれない?」
軽く、ならと和歌は承諾した。言われた通り、軽く叩いてみる。
「よし!じゃあ手貸して?」
叩かれて喜んでいる、少し気味が悪く、内心少し引いていた。そして、言われた通り腕を前に出す。その腕を創矢は軽く掴む。
「行くよ?」
そう言った次の瞬間。確かに叩いた時と同じくらいであろう痛みが、和歌の腕を伝う。
「えっ!」
驚いて、すぐに腕を引っ込める。
「すごいっしょ?!けど、これ1回だけなんだよね」
「また叩かれないと出来ないの?」
「その通り。しかもこの前、試しにボコボコにしてもらったんだけど、気絶しちゃって、そしたら出来なかったんだよね」
「てことは、やられて起きてないと駄目って事?」
「そうらしい、やられた後に相手に触る」
「相手が強かったら大変じゃん」
「大丈夫だよ、俺強いから」
ずっと気になっていた、まだ新しい無数の痣の理由が分かった。創矢にしては珍しいと思っていたが、話を聞いて納得した。
「それ、死んじゃうかもしれないってことだよね?」
「まぁ、そうなるね」
「これからも喧嘩するの?」
「そのつもり。つか、それしか出来ないし」
少し寂しそうな、悲しいような、心配しているような表情で、顔を一瞬曇らせる。
「気を付けなよ?」
「大丈夫!、てかさ、お前の"異能"も見せてよ」
少し迷ったような、戸惑ったような空気感で間が生まれる。その少し後。
「いいよ、特別に。」
「まじで!?頼むから、1回でいいから俺に、それで攻撃してくれない?」
「嫌だよ、私怪我したくないもん」
「違う違う、単純に攻撃受けるだけ。どれだけ強いか知りたいんだよ」
また少し間が生まれる。
「自分で言うのもなんだけど、私、結構強いと思うよ?」
「じゃあ余計に頼む!本気でお願い!!」
これから、ただやられると言うのに、とても嬉しそうである。
「本気は無理かな...」
「なんで?俺男だし、流石に女の力でやられても...」
話を遮るように、和歌が言う。
「親に絶対に人に使ったら駄目って言われてる。しかも、使ったら多分、創矢死んじゃうよ?」
少し冷たいような言い方で、創矢に伝える。その言い方と発言に、創矢は少し恐怖を感じる。
「死ぬってどういうこと?」
「そのまんま。力が強すぎて、普通の人じゃ耐えられないと思う」
「そんなにヤバイの?」
段々と怖くなっていく創矢。しかし反面、見てみたい気持ちもあった。目の前に居る、普通の女の子、普通に接している和歌が、まさか、そこまでの力があるようにはどうしても見えない。もしかしたら、脅しているだけかも、などと色々考えてみる。
「本当にヤバイと思う」
「見るだけでもいいから見てみたい」
ここまで言われたり、考えたりしていると、余計に知りたくて仕方ない。と言うより、もう知らずには居られない。
「分かった。特別にいいよ。その代わり、絶対に誰にも言わないでね?」
「勿論。つか、言う奴居ねぇし」
「分かった。私の"異能"は親と殆ど同じような感じなんだよね。"本"って言うの。好きな本を開いて、開いた本に書いてある物を本から出せるの。契約は必要だけど。」
「えっ!そんな魔法みたいな事が出来るの?」
「そう。魔法みたいな感じだね。本を出して、それを使う。使い終わるまではしまえない。」
「どっから出すの?」
「それは私にも分からないんだよね」
「どうやって出すの?」
「イメージするだけ。強い本ほど時間がかかっちゃうんだよね、これから出すのは10分くらいかかっちゃう」
「そんなにかかるの?」
「簡単な奴ならすぐだよ?」
そう言うと、軽く目を閉じる。両手を手の平が上に来るように、体の前に肘を曲げた状態で伸ばす。
「"本"」
そう言うと、どこからか本が出現した。さも、今まで手の平にあったかのように。
「すげーーーー!!」
創矢は驚きと興奮が隠せない。
「"鳥"」
そう言うと、本のページが勝手に捲れていき、途中で開いたページで止まる。そこから、緑色の若い新緑を彷彿させるような鳥か出てきた。大人の肩に丁度乗るくらいの大きさだ。
「それって触れるの!?」
興味津々の創矢。
「触れるよ?私が戻すか、生物が死ぬまでは居るの」
「他には何が出せるの?」
「基本何でも出せるよ。でも、今は1回に1冊しか準備出来ないから、戻さないといけない」
そう言うと、鳥が光の粒子のように足元からフェードアウトして消えていく。
「じゃあ、少し待ってて」
(?)
「これから、今出せる1番の本を出すから」
「分かった」
そう言うと、和歌は目を静かに閉じる。傍から見ると、ただ立ち尽くしてるようにしか見えない。何も変化は無い。
約10分後。
「じゃあ、行くよ」
そう言うと、今度は両腕を肘まで伸ばした状態で、手の平を上に向けて体の前に伸ばす。
「"純白の聖典"」
平均的な女子中学生が、抱き抱えられるくらいの巨大な本が出現する。その瞬間、辺りが白い優しい光に包まれて急激に明るくなる。公園一帯が、ドーム状の白い霧のような光に包まれる。既に、ここが公園と言われても分からないくらい、光に満ち溢れている。光のドームの内側は明るいだけでなく、きらきらと輝きに満ちていて、霧のような物が常に、気流に乗るかのように、渦を巻いているかのように、ドームの内側を足元からドームの上までを立ち込めている。
「これが...本気.....」
創矢は、完全に呆気にとられて、骨抜きにされた。
「まだだよ、これから呼び出す」
(!?!?)
既に、奇跡のような、エデンとも言えるような空間が完成している。
(まだあるのかよ!)
創矢は言い表せない、圧倒的な何かの感情で埋め尽くされる。
「この地に降臨を、ミカエル」
和歌の背後の霧が、とてつもなく濃くなる。そして、その煙から、前方方向に体を隠しているかのように畳まれた巨大な翼が見える。数秒後、全貌が明らかとなる。完全に神話の大天使ミカエル、姿形そのままだ。空想の話何かでは無い。今、創矢の目の前で、現実として現れている。創矢や感情を全て失った。そんな創矢を察したかのように、ミカエルの手が創矢の目を優しく閉じさせる。
「起きた?」
心地よい目覚めだ。今までに無いくらいの。和歌の声かけもあって、余計にそう感じる。
「いつの間に寝てた?」
どうやら、圧倒的に圧倒されて、ミカエルを見た所から記憶が消えている。
「お前の本気は凄いな」
未だに圧巻しているような言い方をした。
「本当は、もう1冊あるんだけどね♪︎」
創矢は心に、固く鋼のように、ダイヤモンドのように誓った。和歌には絶対に喧嘩は売らない、怒らせない、逆らわない、と。
《Sランク》3年 天羽 翼 "異能":羽
《Aランク》3年 兎耳山 音波 "異能":地獄耳
《Aランク》3年 時雨 瞬 "異能":?
《-ランク》2年 虎杖 創矢 "異能":痛み分け
《Sランク》2年 本田 和歌 "異能":本




