虎杖 創矢 "痛み分け"
「どうだったー?」
教室に戻って来た2人に、すぐさま問う。2人は当時の状況、 事の顛末 を説明する。
「で、のこのこと帰って来たわけ?」
2人は黙って領く。
それを見た創矢は黙って2人に歩み寄る。
「じゃあ、 どっちが本当に恐ろしいか試さなきゃ、なぁ??」
そういうと、いきなり 左側の男子生徒の顔にノーモーションの左フックを浴びせる。反応できない。できても動く訳に行かない男子生徒は近づいて来た段階で、既に心を決 めて覚悟ができていた。 鈍い音と共に、 顔を少し歪めながら、後方に数歩後退する。顔はすぐに薄い赤色に腫れ、口元は切れて血が渗む。
「どっちが痛てぇんだろうなぁ?」
そう言いながら、 もう1人の男子生徒の右頬に、 右手の平を嗜めるように軽く添える。
その瞬間、まるで殴られたかのように、先ほどの男子生徒同様、後ろに後退する。頬も同じく腫れて、口元は血が滲む。
「"羽"だけなら、なんも変わんねぇじゃん、心を読めるのも知ってる。んでもっていつものように急に消える」
「大体よう、俺達が2年になったばっかって事は、向こうも3年になったばっか。差は1年って事に変わりはない。何ならSだろうAだろう"異能"には必ず欠点がある。それも強ければ強い程に反動も大きいはず。今年から周りを沈めに行くってのに、お前らは何ビビり散らして帰ってきてるんだか。ここでやられる事分かってりゃ少しはやれんだろ!!」
徐々に声が大きく怒気が混ざっていく。そして最後は脅しを入れる。苛ついている証拠である。
「すみませんでしたぁ!!」
また、地獄のような時間を過ごす2人。それも痛みの中で。どうやら、先ほどの校舎裏での出来事は手引きがあったらしい。それを誘い水に能力を計ろうとしたが失敗に終わった。
「まぁ、お前らじゃ無理だとも思ってたけどな。それに時期、俺が出向く。Sだとか3年だとか、そう言うのが気に入らねぇんだよ俺は。いずれ誰が本物か分からせてやる。」
次に、苛立ちの中、思い出したかのように全体に向けて言う。
「それとよぉ、今年の1年どう?」
少しの沈黙の後、1人が喋り出す。
「正直、仲間になりそうな奴は今の所...けど、"異能"は面白そうな奴が多いかな?」
「ほう、いずれ迎え入れないとな」
「まぁ、下見も俺が行くか」
その時、同じ学年の1人の女子生徒が、こちらの集団に向かって静かに近づいてくる。
「いい加減にしてくれる?ここ、教室」
静かに創矢の目を見つめながら、そう告げる。
少しの間が空いた。
「ちっ、分ぁってるよ」
そういうと、女子生徒は静かに立ち去る。と、同時に急に少しずつ、落ち着きを見せ出す創矢。基本、誰の言う事も聞かない、指図されるのが嫌いな創矢。しかし、唯一彼女の言う事だけは、嫌々ながらも聞いてしまう。というより、聞かざるを得ないに近い。それは、創矢が彼女の事が好きだから。それと彼女の強さ、と言うより、それを超えた並外れた"イカれ具合"を知っているからだ。創矢自身、絶対に勝てない事を理解しているからだ。
--「また人虐めて遊んでるの?」--
本田 和歌が諦めて、そして呆れたように、ため息ながら言う。常に同じ学校を共にする、創矢の幼馴染の女の子。特別仲が言い訳では無いが、幼なじみだからか、心配してなのか、理由は定かでは無いが、何かと創矢に悟すかのように、たまに声をかける。
「なんだよその言い方。虐めじゃねぇよ、正真正銘の殴り合い」
創矢は中学時代から喧嘩に明け暮れていた。喧嘩は日常、日課、ルーティン、別に普通の事であった。眠いから寝る、そんな所だ。始めは、対した強さは無かった。勝つも負けるも五分五分と言った所だった。しかし、それが毎日だ。勝負勘がついてきたり、喧嘩慣れしてきたり。半年もすれば、基本負け無し、敵無し、段々と喧嘩相手も減ってきた。そうなると、そこら辺の不良に喧嘩を売りに行ったり、集団で屯ている奴を急に殴り、強引に喧嘩に発展させたり。相手がいくら強くても、売られたら、殴られたら、喧嘩せざるを得ないのが不良。創矢自身がそうなように、周りも同じ感覚を持ち、引かないラインが各々構築されている。そうやって強引に、喧嘩を日常に取り入れて行ったのだ。希に、挑んでくる輩も居た。その時が、何よりの楽しみだった。が、それ以上に刺激と自分の居場所を求めていた。
「どうせまた、そこら辺の人殴ったんでしょ?」
悟したように和歌が言う。
「今回は違う。今回は歩いてたら目つきの悪い奴が俺の目を......」
「はいはい、分かった分かった」
いつもの見え透いた、バレバレの言い訳が始まったのが分かると話を遮る和歌。
「そんなんじゃ、中卒すらもなれないよ?」
半分脅しのような、しかし事実のような事を突き刺す。
「分かってるよ、分かってるけど......お前も知ってるだろ?」
「だったら何?」
押し黙る創矢。
「何でもねぇよ...」
ばつを悪そうに、その場を離れる。しかし、このやり取りが少し嬉しい気持ちもあった。真偽は不明だが、唯一自分の事を心配してくれている気がしたからだ。と言うより、半分くらい勝手にそう思っていた。創矢が喧嘩や非行を繰り返す傍ら、学校に行っていた、行けていたのは、このためである。
創矢の家庭環境は、あまり良いものでは無かった。創矢が物心付く前には両親は離婚、母親に引き取られる。その後、すぐに育児が手に負えなくなる。そして、創矢は祖父母の家に預けられる。そんな創矢を、祖父母は可愛がり大切に育てた。
だが、子供と言えど、そんな事に気付かない訳もない。自分が見捨てられた、諦められた、そのくらいの事には次第に気付く。そうなれば、当然グレだしてもおかしくはない。そして、案の定、林檎が木から落ちるかの如く、その道を歩み出した。
しかし、そんな中での唯一の救い、地獄の中の仏、いや、冥界の中のミカエル、それが和歌だった。和歌は創矢の家庭環境を本人から直接聞いている。相談のような重い空気間での会話では無かったが、ある時、興味本位で喧嘩に明け暮れる理由を聞いたときに、平然と、さもそれが一般環境かのように話してくれた。あっけないくらいに、さらっと。しかし、こんな話ができるのは、幼馴染だったり、たまに話す関係があったり、何より家庭環境の話をする前から、創矢の行動について否定をしなかった唯一の人物であるからだ。それが嬉しかった。周りはみんな、切っ掛けやタイミングこそ違えど、どこかで止めたほうが良いと伝えてくる。それが、とても嫌いだった。仲良くなったかと思えば否定、毎回それだ。うんざりだった。祖父母も同じく、心配あっての事だったが特に言われた。しかし、彼女だけは違う。もしかしたら、実は1番興味が無いのかもしれない、どうでもいいからかもしれない、だが、それでも、それで良かった。たまに話して否定がされない、落ち着いた安寧のような瞬間。とても心地良かった。それ故に、少しずつ彼女に惹かれていくようになった。
ある時。いつものように、安寧のひと時を過ごしていると、和歌から突然、訳の分からない話をされた。
「"異能"って知ってる?」
聞いた事はあったが、微かにあるくらいだった。社会との距離も一般の人より離れているため、迷信の一種くらいにしか思って無かった。しかし、話を聞いている内に、どんどん、その"異能"に惹かれて行った。その時に和歌自身の事も少しではあるが知れた。それが、何よりも嬉しかった。両親にも"異能"があって遺伝した事、"異能"の発現条件、和歌の"異能"、"異能"の高校があって、そこに進学を希望している事、など。
これらの話を聞いて、瞬間的直観的に思った。自分も、そこに行こうと。勉強が全く必要では無いらしいが、やはり、"異能"の学校だけあって、"異能"の能力の高さが重視される。どの道、勉強では、まともな進学は出来ない。であれば、今から"異能"にかけよう、と。そうすれば、将来が少しは、ましになる、仮に失敗しても、勉強では未来が無いことは確定している。更に、和歌と一緒に居れる時間が長くなる。そうと決まれば、後はイメージトレーニングをするまで。
そして、ここが創矢の凄い所だった。馬鹿の一つ覚えと言うか、素直すぎると言うか、頭が空で人よりも吸収や飲み込みが早いというか、紙一重というか。四六時中"異能"の事を考えていた。特に喧嘩の時に、かなり意識していた。どうせ毎日やる、人生の1部で重要度を占めている事だから。喧嘩に使える"異能"が欲しかった。
そして、ついに中学3年の夏、発現したのだった。嬉しすぎて、その喜びようは異常なまでで、宝くじの1等が当たったのでは、比にならないくらいだった。あの創矢が唯一、発現した翌日は、喧嘩をやらずに、1日ご機嫌で絶好調だったくらいだからだ。当日は1番に和歌に報告しに行った。
「すごいじゃん、おめでとう!」
意外と軽く、さらっとした言い方だったし、それ以上は無かった。だが、それでも十分だった。言ってもらえるだけで嬉しいし、これで同じ高校に行ける望みができたからだ。
勿論、祖父母にも報告した。始めは、とうとう気が触れたのかと思われたが、異常なまでの興奮と"異能"の説明、行きたい高校、実際の"異能"を体感して納得した。理由はさておき、祖父母も嬉しかった。こんなにも、未来に希望をもっている、明るい創矢を見たのは初めてだったからだ。
《Sランク》3年 天羽 翼 "異能":羽
《Aランク》3年 兎耳山 音波 "異能":地獄耳
《Aランク》3年 時雨 瞬 "異能":?
《-ランク》2年 虎杖 創矢 "異能":?
《-ランク》2年 本田 和歌 "異能":?




