兎耳山 音波 "地獄耳"
とある教室での昼休み。
「なぁー、暇じゃね?」
翼と瞬に向かって話しかける。
「それ私も思ってた!」
瞬が陽気に返す。
翼は待ってましたと言わんばかりに、無言で早い頷きを見せる。
「瞬~、どっか連れてってよ~、どこでもいいからさ~」
暇な時に、必ず音波が瞬に振る雑な振り。
「始まったー、音波お得意の暇な丸投げ、略して"暇投げ"」
このセリフを言うまでが、暇な彼女達お決まりの流れ。本題はここから。
「で、マジでどうする?」
基本、音波のこのセリフも、よく繋がる。
「ん~...ん~......これは難題.........」
頭に両手の人差し指を当て、眉間に軽く皺を寄せ、いかにも考えていますアピールをする瞬。
「絶対考えて無いだろ」
音波から冷静なツッコミが入る。
「もー。音波ちゃんきびしぃ~」
と言った直後、音波の目つきが急に鋭くなる。
「ちょ、そんなに怒らなくていいじゃん、冗談でしょ冗談!」
少し慌てた様子で弁解する瞬。
「ちげーよ。おい、そこのお前。こっちが暇で苦しんでるって言うのに、何がうるさいだよ?てか、今休憩中だろ?他にも騒いでる奴いるだろ。なんでこっちにだけ嫌悪感出すんだよ」
どうやら、瞬の後ろ辺りに映っている人物にキレているらしい。
(急に周りにキレることあるから、たまに勘違いしちゃうんだよな~)
瞬がそう感じていると
「悪かったな」
と、ぶっきらぼうに返す音波。
「違うって、悪気は無いよ!」
心の声に反応されて、少し焦る瞬。音波はキレると、いつもこの調子である。
このやり取りや、声の覇気に圧倒されて、瞬の後ろ辺りの生徒は、とっくに肩をすぼめて、気持ち目立たないように座り直している。
「謝るなら口で言えっての」
どうやら、心の中で謝罪があったらしい。
「まぁまぁ、音波ちゃん。そのくらいにしてあげよ?ね??」
瞬が宥めに行く。
「ちっ」
今日は1日ご機嫌斜めが確定した。
一方翼はというと、とっくに、このやり取りにも飽きていて、音波がキレる少し前から、窓から外を眺めていた。
「あーあ、気分悪ぃから、悪い声ばっかり拾っちまう」
「それ、最悪だね」
瞬は事情を知っていながらも、音波の発言に乗っかる。どうやら、人間が無意識にネガティブ思考で、次から次へと悪い事を考えてしまうように、音波はネガティブな声を拾ってしまうようだ。
丁度そんな事を言い始めた時。
(!?)
音波は何かを拾う。それを聞いて鋭く目が開く。音波が何か引っ掛かる声を聞いた時の反応だ。瞬はすかさず気付く。
「何か拾ったの?」
神経をこれ以上逆撫でしないように、可愛く優しくも真面目な感じで質問した。それを聞いた翼は、ゆっくり外から視線を外し、2人の方を向く。
「あいつ、やっぱり大したこと無いらしいよ?そういう噂、最近も聞いたし」
「所詮飛べるだけ。ただ、その姿が少し綺麗で魅了されるから評価されてるに過ぎないってね……」
無表情のまま、聞こえた事を淡々とリピートし始める音波。それを聞いた翼も目が少し開く。
(この状況、何か始まりそう)
そう思って内心ワクワクする瞬。顔も少し柔らかくなって、どことなく嬉しそうに見える。
2つ目の発言を聞いてすぐに
「音波、どこ?」
と冷静ではあるが、少し急いでる雰囲気で翼が聞く。
「校舎裏」
「行く」
翼のその一言を聞くと、瞬の目が少しキラキラして開いた。
「了解!」
何故か1人だけルンルンだ。よっぽど暇なだけに、事件性があることが嬉しいのだろう。音波も憂さ晴らしになるのか、表情にこそ出しては無いが、どこか悪くて嬉しそうな表情を、うっすら浮かべているように見える。
次の瞬間、翼が教室から消える。
「今日は何かな〜♪」
嬉しそうに呟く瞬。
「いや、"羽"1択だろ」
「いいよねー、そうやって他の"型"見たことある人は。私"型・鴉"しか見たこと無いもん」
可愛くも、少し拗ねた返しをする瞬。
「行くよ」
無視するかのように、音波が返す。
「ではっ!」
先ほどの事を一切気にしていない、明るい切り返しようである。そして、音波も消える。
「あ、気分上がって2人だけ行っちゃった。私も行かなきゃ」
そう呟くと瞬も消える。
暫くして、3人は帰って来た。
「たく、碌な奴いねぇな」
音波がぼやく。
「気分悪いし帰ろうかな」
「あと半日じゃーん、一緒にいよーよ〜」
不機嫌な音波に対して、ずっとご機嫌な瞬。
「つか、あいつら分かってんのに学習しねぇな」
(?)
不思議そうな顔で瞬が音波の顔を覗く。
「感情が読めるってのに、砂でうちらの事書いたらバレないと思ってやがる。やっぱ、馬鹿はやんなきゃわかんねぇか。書くって事は脳で思い浮かべる、馬鹿は脳が無いのに器用だな」
「まぁまぁ、今回は翼がやってくれたんだし、今回は許してあげよ?ね??それ…」
言いかけて、急に言葉を止める瞬。
「それに?」
何かに勘付いたように、音波が聞き返す。
「んっ?なんでもないよ?」
明らかに嘘である。
「どうせ、退学とか謹慎とか言いたいんだろ?」
またかと言うように、飽きれるように言い捨てる。
「だって~、一応でも言っておかないとぉ~、音波ちゃん、す~ぐやり過ぎるでしょ?」
「そりゃ、相手が悪い」
「でも、それで今まで何度...」
「分かってるよ!うるせぇなぁ!あんな雑魚相手にするわけ無いだろ!!」
少しほんわかして、人をおちょくるような表情の瞬に、それと正反対の不機嫌な音波。そして、それを見て、少し微笑んでる翼。3人にとっては、日常的、且つ少し和やかな時間でもある。
「にしてもさぁあ、2人って必ず悪口言ってくる人に分からせに行くよね?しんどくない??」
今回のような事があると、たまに瞬から同じような質問がされる。
「言うやつが悪いだろ」
「じゃなくてさ、ほっとくとかしないよね?」
「言うやつが許せないんだよ」
「よっぽどだね」
「前にも話したろ」
「未だにね」
珍しく2人のやり取りに口を挟む翼。
--幼少期--
音波は翼と同じく、普通の女の子、普通の家庭で育った。元々は何も無かった。そんな中、音波自身、少し気にしている事があった。そして、まさかのそれが"異能"への道を歩む結果となった。
それは斜視。今でもそうだが、本人が気にしているだけで、周りは言われても、あまり分からないくらいの斜視。しかし、本人からしてみれば、結構大きなコンプレックスになる。ましてや、思春期の女の子からしたら事件に匹敵する。自分の目が周りの人と比べて、おかしい事に気づいてからは、いつも前髪で目の辺りを軽くではあるが、隠すような髪型にするようになった。これで、少しは人と関われる、そう思ったが、まさかの裏目となる。虐めの始まりと化した。"お化け"などの類のあだ名を一通りつけられて1日中からかわれる。さらに、だんだんエスカレートして、無視、落書き、物を隠される、捨てられるが当たり前となった。しかし、音波は虐めがバレたく無いとの一心で、毎日意地でも学校へ行き、先生や両親には決して相談しなかった。誰にも相談しない中、毎日自分の席に黙って座り、周りの声や反応を伺いながら虐めを受ける日々が続いた。
そんなある日の事。奇妙な体験が音波を襲った。
いつものように、席に黙って座っていると、いつものように悪口が飛び交う。
「あいつ本当キモいよね、何、あの髪型」
「分かる!よくあれで学校来るよね」
「私だったら絶対来ないもん、転校するよね、普通」
「もしかして、あれが噂のトイレの花子さんだったり?」
いつものように、悪口に花が、まるで晴天の空の下、満開の桜でお花見をしているかの如く大盛り上がり。それをいつものように、自分の席で黙って聞いていた。
が、おかしな事に気づく。教室には誰も居ないのだ。一瞬恐怖を感じたが、とうとう、精神がおかしくなって幻聴が聞こえだしたのだと思って、思い過そうとした。しかし、会話が終わらない、どうしても近くに声をリアルに感じる、時間が経つに連れ、話の内容や声が変わっていく。明らかにおかしい。それでも、虐め続けられている自分を疑い、自分を責めた。
だが、それも我慢の限界が来た。声に出す勇気は無いが、1度だけ心の中で叫んでみる。
(黙れ!!!!)
次の瞬間、聞こえてくる話の内容が変わった。
「え、誰今の?」
「声は"お化け"の声に似ているような?」
(?!?!)
驚き焦った。まるで自分の声が誰かに聞かれたのではと思い、冷や汗が出た。だが、冷静に考えると、誰も居ないし、声は出していないはず。試しにもう1度、心で叫んでみる。どの道、虐められる事に変わりは無いのだから、と。
(黙れ!!いい加減にしろ!!!!)
「え、ヤバい!絶対あいつだ!!」
「どこに居るの?居ないよね??」
「まさか呪いを始めたとか?」
この日を皮切りに、呪いの噂が広まり、虐めは無くなった。悪口や無視などは続いたが、物理的な虐めは無くなり、毎日落ち着いて過ごせるようになった。そして、自分の"異能"にも気づくようになった。始めは勝手に、周囲の声を無作為に拾い過ぎ、それに同調し体調を崩していたが、扱いに慣れると、次第にそれも無くなった。流石にこの事は誰にも言えずにいた。なので、自分の中にしまう事にした。これが原因で虐めが、また始まるのも避けるために。目の次は声を隠すのかと、少し自嘲しながらも、この現実を受け入れる事にした。
中学に入学する時に、転機は起きた。
なんと、親の仕事で転勤、引っ越しが決まったのだ。両親には、しっかり謝られたが、嬉しい事この上無い。
転校前日の夜、"ありがとう"と両親の脳内に語り掛けて、不安と期待の中で静かに眠る。
そして、転校初日。絶対に虐めは受けない。そう心に固く、鋼のように誓い教室に入った。そして、1人1人の心を聞いていった。その中で、1人異質な存在に気づく。それが、天羽 翼だ。彼女も虐められていたらしい、よく分からないが羽が生えるらしい。訳も分からないまま、自分がおかしくなったのでは、と疑心暗鬼になりながら、話かける事にした。しかし、実際に声をかけて、自分の事を話して嫌われたくなかったので、心に語りかけることにした。これなら、誰かバレなくて安全だと思ったからだ。
自分は人の心の声が聞こえる事、心に話かけられる事、虐められていた事、"羽"の事、"異能"の事、虐めらていた事を知った事、など沢山の事を、まるで、今まで誰とも会話をしてこなかった分を取り返すかの如く、お互いの心の中で話した。
そして、ついに自分の声で初めて話かける。
「私が兎耳山 音波。いきなり色々言ってごめんね?よかったら、友達になってほしいの」
「ううん、私こそ嬉しかった。逆にありがとう!これからよろしくね!!」
《Sランク》3年 天羽 翼 "異能":羽
《Aランク》3年 兎耳山 音波 "異能":地獄耳
《Aランク》3年 時雨 瞬 "異能":?




