天羽 翼 "羽"
ここ、第一異能高等学校、通称:一能は全国にある"異能"を磨く学校の中でも、特に人気で最新の教育を受けられると有名な3年制の学校。この学校は少し特殊である。
まず、1学年1クラス。つまり、同じ学年の生徒は1つの大きな部屋で1日を過ごす。席も現代の波に乗り、フリーアドレス制 (指定の席が無く、どこに座ってもいい)が採用されている。と言っても、入学して暫くすると、自然に自分の席が固定化されていくのがお決まり。
次にランク制度。この学校の成績及び序列を表すもの。C<B<A<Sの順に評価が高く、半年に1回ランク試験が行われる。Cランクは入学すれば必ずもらえるランク、言わばビギナーランク。1年生はどのランクでも問題は無いが、進級、維持には最低ランクが設けられている。2年生はBランク、3年生はAランクが必要である。勿論、ランク条件を満たしていなければ留年である。また、ランク降格状態が2回続くと降級、翌年学年が1つ下がる。例えば、元々Bランクの2年生がランク試験で2回連続でCランクを取ると、翌年は1年生からやり直すという具合だ。1年生に戻ってすぐにBランクになろうとも、進級時に維持できていなければ意味が無い。裏を返せば、1回目のランク試験で進級、維持ランク条件を満たしていなくても、2回目でランクを満たしていれば進級は可能である。試験はそれぞれ3月と9月の中旬に行われる。そして、下旬に正式ランクが言い渡される。当たり前だが、試験に参加しなかった者は強制的にランク降格となる。また、この時期の教員は1番忙しい時期を迎えることになる。特に3月下旬はランク査定だけでは無く、退学手続きや4月の卒業式と入学式の準備などで忙殺される。
「あいつ、やっぱり大したこと無いらしいよ?そういう噂、最近も聞いたし」
ある晴れた日の校舎裏。1人の2年男子生徒がつぶやく。
「所詮飛べるだけ。ただ、その姿が少し綺麗で魅了されるから評価されてるに過ぎないってね……」
続けて言う。が、その声量はか細く、まるで誰一人として聞き手が居ないかのような独り言のような発言だった。
「おいおい、それって、まるで見た目が良いだけで歌の歌えない……」
もう1人の2年男子生徒が、悪だくみをするかのような、悪い笑みを薄っすらと浮かべた刹那、2人の頭上が突如として暗くなる。
瞬時に2人から表情が消え、血の気が引く。
「それ、誰の話?」
冷たい、しかし言い慣れたような言葉が2人に刺さる。
「あ、や、、これは知り合いの……」
悪評を話した男子生徒が、動揺しながらも慌てて答えようとする、がそれを遮るように1人の女子生徒が真横で上を向いて静かに告げる。
「こいつ、黒だよ」
(!?!?)
声がするまで気づかなかった。確かに2人は頭上に気を取られていた。が、それだけで気づかない2人では無い。というより、頭上を見た時には確かに、そこに人は居なかった。
「いつのまに?たった今だよ」
(!?!?!?)
「やられた、じゃねぇよ」
悪評を話した男子生徒は気が動転しそうなのを必死に抑えて、なんとか冷静を保とうと必死である。
(!!)
ここで、もう1人の男子生徒が気づく。なんと、もう1人居たのだ。2人の男子生徒を挟む形で両端に1人ずつ女子生徒が立っていたのだ。
「やっと気づいたの?」
飽きれるようにもう1人の女子生徒が言い捨てた。
「なぜこうなった?じゃねぇよ、舐めんなよ?」
上に向かって話しかけた女子生徒が言った。その言葉には怒気が少し混ざっているのを感じた。
2人は完全に意気消沈、混乱した。それもそのはず。2人で話していたら、突如として頭上が暗くなり1人の女子生徒が現れる。その女子生徒の問いに答えていたら、横から不意にもう1人。その女子生徒が話しているかと思えば、さらに横にもう1人。しかも、2番目に現れた女子生徒は、まるでこちらの心を読んでいるかのように、思ったことを思った瞬間口走る。そもそも、3人は一体どこからここへ現れたのか?校舎裏で話し始めた時には確実に2人の男子生徒だけ。人の気配も全く無かった。なのに……
頭をフル回転させて考えてみるものの、皆目見当もつかない、もう1人の男子学生。
「お前ごちゃごちゃうるせぇよ」
まただ。まるで心と会話しているみたいに。今この瞬間、彼女以外誰も声を発していないと言うのに。
「もう1度聞く。誰の話?」
頭上から冷たい言葉が2人に降ってくる。
「すみませんでしたぁ!」
悪評を話した生徒が、体を90゜に折り全力で謝る。
「本当にすみませんでしたぁ!」
もう1人も全力で謝る。
その光景を冷たい目で見届ける頭上に居る女子生徒。まるで何も聞こえていない、あるいは聞いていないような様子。
「"羽"」
といい放つ。その瞬間、女子生徒の翼から無数の天使の羽のようなものが、2人の男子生徒に鋭く素早く襲いかかる。
ものの数秒で2人の男子生徒の足元には、剣山のように鋭く鋭利な天使の羽のようなものが、歩く隙間を無くすように埋め尽くされる。2人の男子生徒は、青ざめて死を覚悟したかのような表情に変わっている。
その表情を待っていたかのように、頭上の女子生徒は地上に降りてくる。そして、それを合図かのように、男子生徒を挟んでいた2人の女子生徒が彼女にゆっくり歩み寄る。
「帰ろう」
降りてきた女子生徒は静かに、そう呟く。
「進級したからって、あまり調子乗っちゃだめだよ?」
一番最後に認識された女子生徒が言う。と同時に言い終えた瞬間、3人の姿が一瞬で消える。同じタイミングで足元に剣山のように刺さった、鋭く鋭利な天使の羽のような物も消える。永遠にも感じる、地獄のような時間が終わった。暫くの間、2人は安堵や恐怖や色々な感情に苛まれ、その場に立ち尽くす。
少ししてから、悪評を話した男子生徒がジェスチャーで場所を移動するように指示を出す。数歩移動してから、無言で地面に何かを手で書き始める。どうやら、何かを伝えたかったらしい。が、声に出せば、また襲われるかも分からないし、先ほどの場所では、地面に小さい長方形の穴が無数に空き、まともに字が書けない。
そして書き出す。
--天羽 翼S/羽
瞬間移動 知らない--
相手が読んだことを確認して、1度消す。そして新たに書き出す。
--兎耳山 音波A/地獄耳
どこでもなんでも聞こえる--
もう1度書き直す。
--時雨 瞬A
誰も知らない--
整理するとこうらしい。
天羽 翼《Sランク》異能:羽
瞬間移動の話は聞いたことが無い。
兎耳山 音波《Aランク》異能:地獄耳
どこにいても相手の声が、なんでも聞き取れる。
時雨 瞬《Aランク》異能:不明
誰も知らない。
という事らしい。
文字を見ながら、先ほどの状況を思い出す。
天羽 翼
薄い金色の長い髪は腰辺りまで伸びている。服装は袴のような和を感じる服装だった。背中からは天使のような羽が広がっていて、燐光のように白く輝いていた。肌は透明感を感じた。身長は3人の中で1番高いが、大きく離れている訳では無かった。162,3cmくらいだろう。太陽の光もあってか、とても神々しく見えた。一瞬ではあるが、絶望の中で見惚れてしまった。
兎耳山 音波
黒髪のショートカットで前髪は目にかかるくらい。耳にはバンドマンの如く、無数のピアス。言葉使いの粗さが似合うクールな顔つき。身長は160cm前後という所か。私服制の高校には珍しいセーラー服で胸元辺りの長さの黒いネクタイが印象的。シャツの袖は巻くっていてボタンは第2くらいまで外していた。スカート丈は太もも半分くらい。制服高校から見たら、間違いなく不良の類に入るだろう。
時雨 瞬
明るい茶髪で肩に少しかかるくらいの長さ。のんびりしていて、打ち解けやすそうな少しふわっとした感じの雰囲気を醸し出している。男女問わず友達になりたいタイプだろう。服装はラフでスウェットのような感じだった。こちらも、身長は160cm前後だろう。雰囲気が良いだけに、異能が分からい事で1番の不気味さを感じた。あの余裕からして、かなり強いのだろうと感じた。
彼は、砂に書かれた文字を見るまで詳しいことは、そこまで知らなかったようだ。砂に書かれた文字を読み進める度に、心なしか顔色が悪くなっていくように見えた。
全てを書き消し終えて、相手が理解したことを確認した後、2人は静かに何事も無かったかのように、その場から立ち去った。”飛ぶ鳥跡を濁さず”とはこの事かと、体現するかの如く、静かに、そして何も残さずに。地面に空いた無数の穴を除いては。
--幼少期--
翼は、ごく一般の普通の女の子として生まれた。両親も一般の人で、家族誰1人として"異能"を持ち合わせていなかった。世間的には、"異能"が増えてきているそうだが、全体の母数としたら、当然かなりの少数派。多くても全体の2割程度。だから、一般の我々には関係の無い話。そういう生活を送る予定、だった。
しかし、何を切っ掛けか、ある日を境に翼は体に変化を起こした。初めは、肩甲骨の辺りが少し違和感を感じる程度だった。両親も成長痛か何かだと思って止まなかった。当然、彼女にも、そう言い聞かせた。が、痛みは日に日に増していった。医者に相談をするも、安静にとしか言われなかった。痛み止めなどの処方はあったが、効果はいずれも無かった。
そんなある日。翼の痛みの絶叫で家族が目覚めた。急いで駆けつけると、なんと翼の背中から小さな羽が生えていた。その羽はアヒルの羽と同じくらいの羽だった。
急いで医者に相談しに行くと、"異能"との診断が下った。だが、医者も信じられないという感じだった。医者曰く、"異能"の発現には特徴があると言う。
1つは、家系に"異能"を持つものが居る場合。もう1つは、生まれつき想像力が豊か、且つ、それをとても強くイメージ出来る場合。
恐らくは後者ではという医者の見解だった。
翼自身、確かに空を飛べたらという願望のような物はあった。しかし、それは幼少期誰もが思うような物だし、とりわけ強く思っていた認識は無い。
そして、この日から、翼への虐めも始まった。周りからは"アヒル"と呼ばれるようになり、次第に家に引きこもるようになった。
が、ある日、翼は思う。"異能"ならコントロール出来るのではと。家族も同じ考えだった。そこから、翼は"異能"のコントロールに励んだ。
始めは、動かす事も出来なかった。しかし、数ヶ月もすると、羽ばたかせたり、畳んだり、体の内部に隠せるようになってきた。そこから、この"異能"をもっと伸ばそうと思った。成長するに連れ、次第に羽も大きくなり、空を飛べるようになった。その頃から、勇気を持って引きこもりを辞めた。当然、友達は居ないし、浮いていた。しかし、昔と違う所が1つ。それは、"異能"をコントロール出来る。からかってきたり、悪口を言ってきたりする人が居たら、容赦なく、その羽で攻撃をして黙らせるようになった。この頃から、自分の人生に少しだけ自信が持てるようになった。自分の力で生きて行ける感覚が持てた。
そして、中学生になった時、そんな様子を見ていた1人の女の子から声をかけられた。引きこもって以来、久しぶりの家族以外との人としての声かけであり会話。翼は心から喜んだ。その女の子も同じくらい嬉しそうだった。2人はすぐに意気投合した。
《Sランク》3年 天羽 翼 "異能":羽
《Aランク》3年 兎耳山 音波 "異能":地獄耳
《Aランク》3年 時雨 瞬 "異能":?




