3話.ドギマギ!
――そして、夜の二十二時。
駅前の焼き鳥屋を出た私たちは、最寄り駅のホームに立っていた。
「いやぁ、今日は本当にありがとうございました! 先輩のアドバイス、めちゃくちゃ参考になりました!」
「ふふ、明日からまた頑張ってね。ほら、柴崎くんの乗る電車、もう来るよ」
「はい! あ、あの、先輩……!」
改札へ向かおうとした私を呼び止めるように、シバケンがふいに真剣な顔つきになった。
スッ、と一歩、私の方へ距離を詰めてくる。
「また……誘ってもいいですか? 今度は、仕事の相談とかじゃなくて……その」
上目遣いで私を見つめるその距離は、わずか数十センチ。
パーソナルスペースにぐいっと入り込んでくる、有無を言わさぬ引力。
(ち、近い近い! なにこれ、これが若さゆえの距離感……!?)
私は内心のドギマギを必死に悟られないようにしつつ、先輩としての余裕を装って彼を軽くあしらった。
「もう、仕事で一人前になったらね! ほら、電車行っちゃうよ!」
「ああっ、はぐらかされた! でも、絶対に一人前になりますからね! おやすみなさい、先輩!」
シバケンは名残惜しそうにパタパタと手を振りながら、ホームに滑り込んできた電車に乗り込んでいった。
閉まるドアの向こうからでも伝わってくるその真っ直ぐな熱量に、私は小さく息を吐き出す。
「ふぅ……可愛いけど、パワフルだなぁ」
彼の乗った電車が見えなくなるのを見送ってから、私は反対側のホームへと歩き出した。
うちの方向の電車が来るまでは、もう少し時間がある。
近くのベンチに腰を下ろし、酔いで火照った頬に手のひらを当てた。少しひんやりとした夜風が当たって、今の私にはとても心地いい。
(……こんな時間に帰ったら、また夏波がうるさいだろうな……)
家にいる狂犬の不機嫌な顔を思い浮かべ、私は小さくため息をついた。




