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大嫌いな義弟のL♡VEドールに毎晩憑依してしまいます!?  作者: 大福ちゃん


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19/21

19話.酒と涙と非行少年?

ふわふわとしたアルコールの微睡みの中、私の意識はいつの間にか、忌々しくも懐かしい『ある夜』の記憶を映し出していた。

***

夜十一時。静まり返ったリビングで、私は一人、コントローラーを握りしめていた。

画面の中では『GAME OVER』の無機質な文字が虚しく点滅している。

(ああもうっ、全然エイムが合わない……!)

普段なら、会社での理不尽なストレスを発散させるために深夜までFPSゲームに没頭するのだが、今日の私は明らかにミスが多く集中できないでいた。

理由は明確だ。チラリと壁掛け時計を見上げる。

――十一時を回っても、高校生の義弟が帰ってこない。

昔はあんなに可愛くて「凪ちゃん、凪ちゃん」と私の後ろをトコトコついて回っていたのに。高校に入ってからはすっかり反抗期をこじらせ、最近はこうして夜な夜な遊び歩くようになってしまったのだ。

(保護者同伴でもないのに、こんな時間までどこで何をしてるのよ……。補導でもされたらどうするつもり!?)

ガチャリ。

不意に、玄関の扉が開く重い音が響いた。

私はコントローラーをソファに放り投げ、勢いよくリビングを飛び出した。

「ちょっと、夏波! 今何時だと思っ――」

「……うっわ、びっくりした。暗がりで飛び出してこないでよ、怖いな」

玄関の土間で靴を脱いでいた夏波が、心底鬱陶しそうに顔をしかめた。

深夜まで遊び歩いていたくせに悪びれる様子もないその態度に、私の中でプチッと何かが切れる音がした。

「怖いのはこっちのセリフよ! 高校生がこんな時間まで出歩いて……お酒とかタバコとか、変な遊び覚えてないでしょうね!?」

「はぁ? 誰がそんなダサいこと。はぁ……うるせー、説教すんな」

夏波はあからさまな舌打ちをして、私から視線を逸らした。

その時、ふと気がついた。

(あれ……? 香水の匂いとか、タバコの匂いじゃなくて……なんか、すごく濃いコーヒーの匂い……と、なんだろう?煙っぽい..お香?)

それに、遊び歩いていたというわりには、夏波の顔には色濃い疲労が滲んでいて、目の下にはうっすらとクマまでできている。

一体、毎晩どこで何してるの?

私がさらに問い詰めようと一歩踏み出した、その瞬間だった。

ブーッ、ブーッ。

私の言葉を遮るように、夏波のズボンのポケットでスマホが震えた。

舌打ちをしながら画面を確認する夏波。その手元から漏れた光に、はっきりと『ハルちゃん』という文字が浮かび上がっているのが見えた。

(ハ、ハルちゃん……!? 女!?)

「……あ、あー、うん……」

電話に出た夏波は、一瞬だけ気まずそうにこちらをチラッと見ると、渋々というように答えた。

「わかったごめん。……今から行く」

「はっ!?? ちょっと夏波!」

私が止める間もなく、夏波は脱ぎかけた靴を再び履き直し、重い足取りで玄関のドアを開けて出て行ってしまった。

バタン、と無情な音が響き、再び家の中は静寂に包まれる。

「……なんなのよ、あいつ……」

真夜中の玄関に取り残された私は、得体の知れない苛立ちと、胸の奥がチクッと痛むような寂しさを抱えながら、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

***

(……そうよ、あの時も『ハルちゃん』だった。深夜に呼び出されて、ノコノコと出かけて行って……!)

冷たいカウンターに熱を持った頬を押し付けながら、過去の記憶がドロドロとした怒りに変わっていく。

(年上の女にたぶらかされて! あんな、疲れた顔してまで会いに行って……っ!)

――チリリン!

不意に、軽やかなドアベルの音が店内に響き、私のまどろんだ思考を現実に引き戻した。

「……ん……?」

重い瞼を少しだけ開けた私の鼓膜を打ったのは、聞き慣れた、少し息を切らしたような声だった。

「ごめん、ハルちゃん。遅くなって……」

その直後だった。

「きゃーーっ! 夏波くーん!!」

「嘘、ホントに来てくれたぁ! 相変わらず超イケメン〜ッ!」

「こっちこっち! えっほんとにかっこいー!」

店内の空気が一瞬にして華やぎ、奥のテーブル席にいた常連の女子たちが、悲鳴のような黄色い歓声を上げた。

キャーキャーとはしゃぎ、あからさまに色めき立つ女の子たちの声がボーッとした頭にキンキン響く。

(ハルちゃんに……女の子達にちやほやされに、わざわざ来たってわけ……!?)

「んん?ハルちゃん……!?」

私は可愛かった義弟を非行の道に連れ込んだ『ハルちゃん』の顔を拝んでやろうと、勢いよくカウンターから顔を上げた。

限界を突破した怒りで視界がぐらりと揺れる中、入り口のほうを睨みつける。

視線の先、店の入り口に立っていたのは――見間違えるはずもない。

少しだけ気まずそうに店内を見渡し、息を切らしている現実の夏波だった。

店に入ってきたばかりの夏波の顔には、はっきりと焦りと心配の色が浮かんでいた。

しかし、彼の視線がカウンターに座る私を捉えた瞬間。

その心配そうな表情が、スッと温度を失い、険しい怒りに満ちた表情へと変わった。

(な、何よ、その顔……。こっちだってねぇ、いや、こっちのほうが怒ってるんだから!)

心の中で文句を言い返そうとしたけれど、声が出ない。

さっきまで焦ったような顔をしていたのに、私を見た途端に親の仇でも見るような厳しい視線を向けてくる。

ただでさえお酒で弱っていた心に、その明確な『拒絶』の態度は、許容量をあっさりと超えてしまった。

「うっ……」

胸の奥がぎゅっと締め付けられ、視界が滲む。

堪えきれずに、ポロポロと大粒の涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。

「えっ……此坂先輩? どうしたんですか、大丈夫ですか!?」

隣で飲んでいた柴崎くんが慌てたように声をかけ、私を気遣って肩に触れようと手を伸ばしてきた。

しかし、その手が私に触れるより早く、いつの間にか私のすぐ真横に立っていた夏波が、柴崎くんの手をスッと無造作に払いのけたのだ。

見上げると、見下ろしてくる夏波の瞳は恐ろしいほど冷え切っている。

(あ、また暴言吐かれる……!)

きっと『人前でみっともないなブス』『大人のくせに自己管理もできない訳?』とか、そういう酷い言葉を投げつけられるのだ。

ー今はそんな言葉聞きたくない..!

私はビクッと肩を跳ねさせ、ギュッと目を瞑って身構えた。

――しかし。

「……凪ちゃん、帰ろう」

降ってきたのは、予想に反して甘く、どこか切なさを帯びた声だった。

まるで、毎晩夢の中で私を甘やかしてくれる、あのドール越しの夏波のような、優しい声を思い出すような。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます‧⁺ ⊹˚.

皆さまに読んでいただけることが、何よりの執筆の原動力です。

次回からは視点が変わり、夏波sideのお話がしばらく続きます。

次話は同日の朝に遡り、夏波の視点から描いかいていきます。

物語は文化祭1日目に突入し、新キャラクターも交えた高校生らしいドタバタや、青春感の溢れるストーリーを目指して執筆いたしました。

お楽しみいただけたら嬉しいです

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