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大嫌いな義弟のL♡VEドールに毎晩憑依してしまいます!?  作者: 大福ちゃん


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14/20

14話.夕陽と段ボールと放課後の教室side夏波

段ボールと絵の具の匂いが混ざり合う、放課後の教室。

文化祭の準備でクラス中が騒がしい中、窓際の席に座る此坂夏波は、カッターを持った手を止めてぼんやりと校庭を見下ろしていた。

「どした? ぼーっとして。可愛い子でもいる?」

作業中のベニヤ板を持った戸川浩太(とがわこうた)が、横から顔を覗き込む。

夏波はグラウンドの隅を歩く女子生徒から視線を外し、ひどく真面目なトーンで答えた。

「いや、あの髪型、凪子にも似合いそうだなって」

「……ぶはっ!」

浩太は一瞬目を丸くした後、腹を抱えて盛大に吹き出した。

「あっはは! 出た出た! 夏波の限界シスコン発言! 本当、もう重症だって!」

涙目になって笑う浩太の声を聞きつけ、ペンキまみれの筆を持った来栖圭斗(くるすけいと)が割って入ってくる。

「なになに? 夏波のねーちゃんの話?」

圭斗はニヤニヤしながら、夏波の肩に馴れ馴れしく腕を回そうと距離を詰めた。

挿絵(By みてみん)

「ねー、そろそろ紹介してよー、美人のお姉様。俺たちのこと全然家にも呼んでくんないし」

その瞬間、夏波の顔からスッと表情が消えた。

彼は迫り来る圭斗の顔を無造作に押し除け、冷たい目線で言い放つ。

「やだね。……凪子がよごれる」

「うわっ、目ぇマジで怖っ! ちぇー、けち!」

圭斗が大袈裟に肩をすくめて文句を言うのを見て、浩太が思い出したようにポンと手を打った。

「まぁまぁ(笑)。そういえばさ、うちの兄貴が『夏波はもうバイトしにこないのか?』って言ってたぞ。お前目当ての客が連日押し寄せて大変だって泣きついてくるんだけど」

夏波は小さく息を吸い込み、窓の外へふたたび視線を向けた。

そして、これまでの冷めた表情とは打って変わって、まるで宝物を手にした子供のように満足そうな表情を浮かべる。

「うーん……もう、欲しいものは手に入ったからなぁ」


「男子たち! 手動かしてよ!」

突然、教室の入り口からパンッ! と大きな拍手が鳴った。

クラス委員長の乃中(のなか)ちえりが、腰に手を当てて仁王立ちしている。

挿絵(By みてみん)

「文化祭まで時間ないんだから、無駄話してないでさっさと作業しちゃって!」

「へいへい、委員長殿」

浩太と圭斗がしぶしぶ持ち場に戻っていく。一人残された夏波も、静かに手元の段ボールへと向き直った。

黙々とカッターを切り進めながらも、夏波はやっぱり心ここにあらずだった。

ぼーっとしているかと思えば何かを思い出したかのように頬を緩める。

「……此坂くん、手元、危ないよ」

不意に横から声をかけられ、夏波は手を止めた。

見上げると、先ほど男子たちを注意していた委員長の乃中ちえりが立っていた。クラス全体に向かって張り上げていた声とは違い、夏波に向ける声はどこか遠慮がちで、少しだけトーンが高い。

「あ……悪い。少しぼーっとしてた」

「うん。さっきから全然作業進んでないし……なんか、すごく嬉しそうな顔してたから」

ちさこは手元の段ボールと夏波の顔を交互に見比べながら、少しだけ頬を朱に染め、もじもじとスカートの裾を握っている。

「別に。……ただ、早く帰りたいなって思って」

夏波が素っ気なく返すと、ちえりは少しだけ躊躇うように視線を泳がせ、上目遣いで小さく尋ねてきた。

「さっき、戸川くんたちと話してた欲しいものって……もしかして、彼女に、とか……?」

その問いに、夏波はカッターを置き、ふっと目を細めた。

普段の学校で見せる冷めた態度からは想像もつかない、熱を感じる甘く柔らかい笑顔。

「……うん。僕のすべてを受け入れてくれる、最高に可愛い子だよ。今でも僕の帰りを待ってるんだ」

「えっ……」

予想外のストレートな言葉と、彼が今まで見せたことのない優しい表情に、ちえりは息を呑み、言葉を詰まらせた。

「そ、そっか……。じゃあ、早く準備終わらせて、帰ってあげないとね……っ」

ちさこはわずかに引きつった笑みを浮かべ、逃げるように自分の作業へと戻っていった。

「そうだね。……早く帰りたいな」

最後の一言は、誰に聞かせるでもなくつぶやいた。

夏波は再びカッターを握り直す。

(待っててね、凪ちゃん。もう少しで帰るから)

夏波は黙々とダンボールを切る。

「うわ……見て、夏波のやつ。段ボール切りながらニヤニヤしてる……」圭斗が本気でドン引きだと言わんばかりに、浩太の肩を肘でつついた。浩太も手元の作業を止め、窓際で怪しい笑みを浮かべる親友の姿に、顔を引きつらせる。

「マジだ……。なんかちょっと怖いんだけど。あれがなければ完璧イケメンなのになぁ、あいつ」

二人がヒソヒソと夏波の噂話に花を咲かせていると、背後から地を這うような低い声が響いた。

「――ちょっと、あんたたち! 作業サボんないで!」「うおっ!?」

びくり、と二人の肩が同時に跳ね上がる。振り返ると、いつの間にか戻ってきた委員長のちえりが、般若のような形相で仁王立ちしていた。その声はクラス全体に指示を出していた時よりも明らかに尖っており、全身からイライラとした刺々しいオーラがこれでもかと滲み出ている。

「あ、いや、サボってねぇって。ちゃんとやってるから、委員長――」「やってない! 口じゃなくて手を動かして! 文化祭、明日からなんだからね!」

言い訳を許さない凄まじい剣幕に、圭斗は思わず口を噤む。ちえりはそれだけ捲し立てると、ぷいっと激しく足音を立てて、女子たちの輪へと戻っていった。

「……な、なんか俺らに当たり強くない? 俺ら、今そんなに悪いことしてないじゃん……」理不尽な怒られ方に、圭斗が涙目で愚痴をこぼす。しかし、浩太はそんな圭斗の言葉を半分聞き流しながら、足早に去っていくちえりの後ろ姿をじっと見つめていた。その小さな背中はどこか怒りだけでなく、ひどく落ち込んでいるようにも見えたのだ。

(……乃中、さっき夏波と話してたよな)

浩太はちらりと窓際の夏波を見た。だが、当の本人は相変わらず自分の世界に入り込んでおり、周囲の喧騒やちえりの異変など一ミリも気にしていない様子で、愛しそうに段ボールを見つめている。浩太は小さくため息をつき、すべてを察したように苦笑いを浮かべた。

「ほら、これ以上怒られないうちにやるぞ」「へいへい……」

オレンジ色の夕陽が教室の奥まで長く伸び、影を落としていく。文化祭前夜の騒がしい喧騒に包まれる放課後の教室で、夏波は愛しい人が待つ我が家へと思いを馳せながら、静かに手元を動かし続けるのだった。

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