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大嫌いな義弟のL♡VEドールに毎晩憑依してしまいます!?  作者: 大福ちゃん


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13/21

13話.画面の中のダークヒーロー

ガチャリ、と玄関の鍵を閉める。

静まり返ったリビングに足を踏み入れた瞬間、私は思わず深々とため息を漏らした。

(あ〜……静か。最高。天国かな?)

いつもならドアを開けた瞬間に「おいブス、帰んの遅ぇよ」などと生意気な罵声を浴びせてくる夏波は、今日から文化祭の準備で帰りが遅くなる。

つまり今、この家は...誰にも邪魔されない、私だけの完全なる自由空間なのだ!!

私はカバンを放り出すと、速攻で着古したスウェットの部屋着に着替え、冷蔵庫からキンキンに冷えた缶チューハイを引っ張り出した。

PCを立ち上げ、デスクの特等席に腰を下ろす。

画面に映し出したのは、動画配信サイトの生放送画面。

通知欄に光る『大人気FPS配信チーム【ケルベロス】生配信中』の文字を見た瞬間、私の心拍数は跳ね上がった。

画面の向こうでは、暗いトーンのサイバーなアバターと共に、一人の青年が超絶的なキャラコントロールで画面を縦横無尽に駆け回っている。

彼こそが、私の最推しであり、チャンネル登録者数数十万人を誇る天才FPSプレイヤー――『ルドラ』だ。

『――あーあ、またチート使ってんの? 効率の悪い動き。せっかくツール使ってそのレベルとか、マジで時間の無駄だからさっさとゲームアンインストールしなよ』

スピーカーから流れてくるのは、どこか気だるげで、けれど声だけで威圧されるような鋭く低い声。

今日のルドラさんのターゲットは、ゲームの規約を違反して他のプレイヤーを荒らしている悪質なチーターだった。

ルドラさんは、そのチーターをただ一瞬で倒して終わらせるような生ぬるいことはしない。

あえて致命傷を避け、敵がパニックを起こして逃げ惑うのを、楽しむように執拗に追い詰めていく。

逃げた先には、チームメンバーである『黒虎くろとら』の完璧な罠。退路を断たれた敵を、ルドラさんはなぶり殺しにするように正確無比なヘッドショットで撃ち抜いた。

実力は間違いなくプロ級。けれど、それ以上に「最高に性格が悪く、容赦のない追い詰め方」をする配信者として、彼は界隈で絶大な人気を誇っていた。

画面の横では、ものすごい速度でコメントが流れていく。

【コメント欄】

:ルドラさん今日も性格悪すぎて最高wwww

:チーター完全に心折れてて草

:容赦なさすぎてワロタ。一生ついていきます

:黒虎の索敵えぐいし、白夜(びゃくや)のカバーも完璧だな

:ルドラ様もっと煽ってくれーー!!

「そう……! これこれ、この一切の容赦がない蹂躙プレイが堪らないのよ……っ!」

私は缶チューハイをグイッと煽りながら、画面に釘付けになっていた。

普段の私は、会社でも家でも、つい周りの空気を読んでしまう。相手が求めている反応を自然と返してしまったり、波風を立てないように人の目ばかり気にしてしまったり。

そうやって無意識のうちに気を使いすぎて、毎日少しずつすり減っている私にとって、このFPSゲームの世界とルドラさんの配信だけが、唯一気を許せる空間だった。

画面の向こうのルドラさんは、どれだけアンチに叩かれようが、周囲から性格が悪いと言われようが、一切ブレない。己のエゴと、圧倒的な実力だけを武器に、自分のプレイスタイルを確固たる意志で貫き通している。

(誰にも流されず、自分のやり方で世界をねじ伏せる……。はぁ、なんて格好いいんだろう……)

他人の目を気にしてばかりの自分とは正反対の、その絶対的な強さに、私はいつしか深い憧れを抱くようになっていた。

私はデスクの隅に飾られた、限定販売の『ルドラ特製アクリルスタンド』をそっと指先で撫でる。

「ルドラさん、今日も最高の癒やしをありがとう……」

画面越しにそっとお布施を払いながら残りの缶チューハイを飲み干そうとした、その時だった。

ガチャリ。

静かな家の中に、玄関のドアが開く重い音が響いた。

(あ、帰ってきた……)

私のパラダイスの終了を告げる合図だ。

文化祭の準備で遅くなると言っていた夏波が帰宅したらしい。

ふぅ、とため息を吐きパソコンの向こうの推しにお別れを告げ、PCの電源を落として部屋の電気を切った。

(……わざわざリビングに出て行くのも面倒だな)

いつもなら「おかえり」くらいは言いに行くのだが、どうせ顔を合わせれば「ブス」だの「邪魔」だのと憎まれ口を叩かれるのがオチだ。

せっかくのルドラさんからの癒やし効果を、あの生意気な義弟の暴言で台無しにされたくはない。

私は息を潜め、そのままベッドに潜りこんだ。

廊下を歩く夏波の足音が聞こえる。

トン、トン、と足音はリビングを後にし、こちら側の廊下へやってきた。

そして――私の部屋のドアの前で、ピタリと止まった。

(……え?)

ノックされるわけでも、声をかけられるわけでもない。

ただ、ドアを一枚隔てたすぐ向こう側に、夏波が立っている気配だけがする。

(な、なに? なんで立ち止まってんの? 文句があるなら言えばいいじゃない)

無言の圧に、妙な緊張感が走る。

ふと、昨夜の自分そっくりのドールの姿を思い出した。

(えっ、ちょ!まってまって、まさかドールだけでは飽き足らずこっちにーー!!?)

私が頭を振ってその思考を振り払おうとした、次の瞬間。

……タッタッタッ!... バタン。

突然、足音が早足になり、隣にある夏波の自室のドアが閉まる音が響いた。

その音にほっと胸を撫で下ろす。

「……なによ、あいつ。マジで意味わかんない」

挨拶ひとつしないどころか、人の部屋の前で謎のプレッシャーをかけてから自分の部屋に引きこもるなんて。

やっぱりあんな奴に甘えられたいなんて、わたしの願望どうかしてる。

ため息をつきながら、私はベッドへとダイブした。

チューハイのアルコールが回ってきたのか、それとも仕事の疲れか。まぶたが急に鉛のように重くなってくる。

(明日は……今日みたいに寝坊しないように、しなきゃ……)

意識がまどろみの中へと沈んでいく。

ここまでお付き合い頂きありがとうございます✩⡱

次は夏波目線のストーリーです。同日の放課後からの夏波目線の話になります

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