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第五話 カブトムシを捕りに行こう【生き延びた代償】

──コォォォォォオオォッ

出口の扉に向かって最高速で箒を飛ばす!


ジェットブースターの咆哮が響く!

箒の充填マナは底をつきハンドルから自身のマナを供給している!


後ろを見る! 魔女がこちらに気づく!


「ラピス!」


ラピスの顔色が状態の悪さを物語る。

それでも止まれない、後方を向き歯を食いしばったラピスがハーレクインを撃つ!


「メテオラ!!!」


──刹那

──ッキィーーーューーーーーン!

空気が唸り叫ぶ。

音速のハーレクインがグランティを屠る。


──ダガァーーァーーーーーン!

後方で衝撃音が鳴り響く。

ハーレクインが側面の壁に当たったであろう轟音だ。


やったか!?

衝撃波で後ろは見えない!


出口付近にくる。振り返る。

ラピスの顔色が悪い。ひどい汗だ!


そのかなり後ろで爆煙の如き砂埃の中から追ってくるグランティを確認する。

クソ! 外した!


出口に肩からぶつかり勢いを殺す。扉を開ける。


「ラピス! 先に出ろ!」


ラピスは箒に乗ったまま扉をくぐった。

俺もすぐに外に出る!


グランティとのマージンを確認して扉を閉め、近くにあった棚を倒し出口を閉じた。

急がないと!


振り向くと同時に血の気が引いた。

ラピスが箒から落ちて、うつ伏せに倒れている。


「おい! ラピス!」

「大丈夫、マナがほぼガス欠なだけ。背負って」


言われなくてもそうする他ない。

目の彫刻が全面に刻まれた正方形のラピスのネックレストップを掴みマナを込めて箒共々透明化する。


ラピスを背負って箒に跨る。ラピスの箒はホバー追従モードに設定する。


後ろの扉をドンドンと叩く音とドアノブが回る音がした。

その瞬間、アクセル開けて花屋から飛び出す。


「(ラピスはガス欠! グランティは追ってくるか!? あいつは飛んでるところをリアリス人に見られるんじゃ? けど追ってこないわけないか!? )」


全力でポータルアンカーを目指す!


アンカーのある空間に着いたらアルカナのポータルと繋げる簡易ポータルを起動する必要がある。


「ラピス! ポータル起動準備できるか!?」

「バカね、あれはその空間にいないと起動後の入力ができないでしょ」


そうだった。


ラピスに気を遣いながらなんとか後ろを確認する。

グランティは追って来ていない。


よし、起動まで時間が稼げる!

ポータルアンカーはすぐそこだ、俺のマナも感覚的に20%は切っている。


なんとかアンカーに辿り着いてラピスを下ろす。

壁にそっともたれかけさせ座らせる。


「立てるか!?」

「無理」


簡易ポータル起動。


「チケットを読み込m」

リアリス往復チケットを2人分読み込ませる。


「座標は[ >0506 >992046-04 ]、アルカn」

決定を押す。


今まで間違っていたことないだろ! なんの確認だ!


「指定のポータルは現在使用されています。空くまで少々お待ちください。指定のポータルは現在~~~」


最悪だ、俺達のチケットはここに来た時に使用したポータルにアンカーされている。

来た時に使ったポータルが使用中だと……。


ラピスを見る。

憔悴しきり目線の地面の焦点があっていない。

息も短く汗も酷い。


早くしろよ!


「いい、とてつもなくね」


血の気が引いた。


ジッポを構える。

アーマーは先の逃亡で捨てた、火剣は使えない。


振り向くとそこにはアパートの避難階段の手すりに腰掛け、足を組んだグランティが居た。

汚れ一つない格好で鎮座している。


「ヤケクソだ。お前ごとここいら一辺焼き尽くしてやる。他にも色々と魔法使用の痕跡を残すぞ。そうすればアルカナのお上も介入してお前はまた逃亡せざるをえないかもしれない」

「なるほど。確かにお前の魔法範囲がどれほどかにもよるけれど、それは実現可能だろうね。空気魔法であなた達自身を守ることもできるしその間に逃げればいい」


ハッタリなんだ。

今の俺にそこまでのエネルギーはないし、そもそもそんなことが可能かなんてやったこともない。


「けどハッタリ。顔に書いてるわよ」


まあ、そうなるだろうな。


「まずは褒めてあげるところから。最後の技は良かったわ。戦況を変える大技。威力も十分だし先の戦闘からあんなのが出てくるとは到底思えない。特にラピス? だったわね、お前のハーレクイン、わざと操作速度を一段か二段遅くしてるね? それもこれもは最後のワザのブラフだ。ブラフにもなり、操作時のマナを軽減にもなっている素晴らしい」


なんだ? 急に褒めてきやがって。

ジッポのダイヤルを火炎放射に切り替える。


「そしてウルト。あの技の根幹はあんただね? 空気を真空にし抵抗をゼロにしている。こんな芸当や使い方は初めて見た。ラピスとの合技として習得したのかな? 箒飛行の際も空気抵抗を自在に操り最適化してる。良いエアロダイナミクスだね。最後まで冷静に、傷ついたラピスをここまで無事届けたことは素晴らしいわ」


まじでなんなんだ? 目が離せない。


いつ、奴のマナが飛んでるくるかわからない。

集中して睨み続ける。


「あなた達また来なさい。明後日の夜19時に。稽古をつけてやる。いいかい? あんた達に足りないのは自身の魔法に対する理解とその応用、そして圧倒的経験にそれを叩き込む師範よ。ラピス、動の魔法観察が雑すぎる。適当にハーレクインを撃ちすぎてマナ消費が煩雑になってる。静の、つまり私のような魔法観察も学びなさい。帰路に1人で立てないのはそれは死を意味するよ」


ラピスを見る。背中を丸くした体勢でグランティを睨んでいる。

が、そこに怒りは無いように見える。


ていうか稽古だ? どういう風の吹き回しだ?

俺達は助かるのか? こいつは何を思い何を言っている?


気が緩んだのがわかった。

歯を噛み締めて再度グランティの動向を注意する。


「ウルト、あんたはお利口すぎる。アウトローなことをしてるんじゃないの? ラピスのことを気にしすぎて動きが鈍い。ラピスに合わせる魔法と気持ちとを切り分けな。ラピスはあんたを気にしながらあのパフォーマンスを出してんだよ。あんた達ニコイチのパフォーマンスをあんたの気持ちで落としてどおする」


確信を突かれた。

俺はどこかで自分を抑制している。


「あんた達は残念なことにセンスがある。それは魔法系統でも戦闘スタイルでもあらゆる側面でセンスがある。だからこそ大体のことがイージーで、だからこそ私みたいな奴には勝てないんだ。センスがあんた達を中途半端という枠に縛りつける。けどこれは遊びじゃないでしょ? つまりイージーな相手以外と対峙したらそれは正真正銘の死を意味するのよ? これは事実と説教ね」


ぐうの音も出ない。

しかしだ、そもそも俺達は探偵の仕事の手伝いができればいいんだ。


別に魔法戦闘のスキルを上げなくても……いや、今回はそれで詰みかけている。

というか詰んでいる。


事実、目の前の魔女の掌の上に俺達の命がある。


甘かった、家の手伝いと奢っていた。

死ぬはずなんてない、そもそも死を考えたことがない。

そう考えがまとまった瞬間、体が震えてきた。


俺もラピスも死んでいた。本当は。

そして今、自分達の命を摘もうとしていた人間がなぜか手を差し伸べている。


屈服しそうになる。


負けるな。自分に負けるな!

考えて答えを出すんだ。


敵に、魔女に、グランティに、牙を向け立ち向かうのか。

それとも門下に下るのか。


「私達を育てる理由はなに? 暇つぶし以外に裏があるよね?」


ボロボロのラピスが問いを投げる。


「暇つぶしと兵隊集めだよ」

「私は兵隊になんかならないよ。けど暇つぶしに付き合ってあげる。……正直、私は弱すぎる。強くなりたい。切実に」


ラピスの言葉に呆然とする。


白旗を自ら挙げる姉に衝撃を受けた。

もちろん、俺だってわかっている。この状況はそれしかない。


ラピスの言葉は単に逃げ切る、助かるだけが答えではないことは明白だった。


「賢明だね。相手に頭を下げないことに礼儀が無いとか無駄なプライドだとかは言わないよ。まずはそれを言えた。それだけでいい」

「俺も。俺もよろしくお願いします。俺はこのままじゃダメなんだ。今痛感した。俺は、俺達は今日死んでた。次はないからこそ、次って芽を摘みたい。よろしくお願いします」


俺も頭を下げた。ラピスのおかげで素直に言えたが本当に強くならなきゃいけない。

自身の力で立ち上がることが難しいラピスを見て自分が情けなく思う。


俺がしっかりしなければ、ただのレア魔法ってところにしがみつくな。


圧倒的になれ。


「2人とも、よろしい。まずは家に帰って休みな。今は色々と打ちのめされているだろう。けどその通り。喫緊の課題だよ。大丈夫、私があんた達を立派な”戦士”に育ててやる」


安堵が立ち込める。生き抜いたのか?


けどなぜかスタートラインに立った気持ちになった。

自分の弱さを知ったからだろう。


「それとさっきの兵隊発言だけど。あれは強制じゃ無いよ。私だって気のおける仲間達と戦いたいんだ。別にお前達じゃなくていい。価値観や思想、そして時間を共有して絆を育んだ人たちと決起できればいい。これからのお前達との時間をそんな絆を育む時間にできればいいさ。仲間ってのはそう言うもんだからね」


つまり兵隊にする気はあるがそれは強制ではないか。


ラピスの言う通り、兵隊はごめんだね。

鍛えてもらって恩ができてもだ。


「あんた達にこれをやるよ」


グランティが籠と花をくれた。


見るとそこにはブルーメタリックのクワガタがいた。


まじか、これボーナスあるんじゃないか!?

花は黄色い、薔薇? 別にいらないな。さりげなくラピスを見る。


「虫はありがとう。けど薔薇なら私は赤がいい」

「ふっ、お子ちゃまね。まずはゆっくり休みな。けどわかってるね? どんな立場、どんな思いであれあんた達は私の弟子、門下生、それらになった。時間厳守。明後日の19時までに花屋に来な」

「わかったよ。グランティ、さん? 師匠? 師範?」


俺はわけがわからなくなった。

こういう突如構築される関係はエリザベス=ポアロが俺達の里親になってくれた時以来だ。

なんて呼べばいい?


「わかったよグランティ。明後日の19時に花屋にいく」


ラピスはグランティときた。


「呼び方なんて好きにしなさい」

「その、今回の件でなんて言ったらいいか」


敵ではなく師範となった相手につい甘えて弱音を吐きそうになる。


ラピスが怒号が響く。


「くよくよすんなよ! ウルト! これは私たちが反省すべきことが沢山あっただけ! 礼は強くさせられてから言えよ! 生きてんだろ!!!」


疲労困憊のラピスの言葉が胸に刺さる。


「じゃあまた来るよ」


ラピスの言葉は半分俺に、だけどもう半分は自分に向けてのものだとわかっていたから。

俺はラピスに反論せず簡易ポータルを起動した。

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