レンの覚醒 その4
前回書き忘れていたのですが、レンの覚醒は前編、中編、後編で書くつもりでしたが、書いている内に書ききれなくなってしまったので前編をその1、中編をその2に変えさせて頂きました。
「クソッ!!こんな所にきちまったべ」
俺は村の言い伝えにある、入ってはいけない場所に来てしまっていた。
禁則地と呼ばれたその場所に一歩でも入ってしまったら、一族諸共呪われて死に絶えると言い伝えがある。
だから絶対に足を踏みいれてはいけないと村では言われていた。
だとしても逃げ場の無い俺に選択の余地など無い。
禁則地がそこにあるのなら、そこに逃げ込むという選択肢を取るしかないのだ。
村から見て禁則地と呼ばれている場所は、ただの鬱蒼とした山にしか見えなかった。
山の手前には簡易的な祠は設置されている。
だが豊作を祈る為の祭りなど一度も行われた事はない。
禁則地に入り込んでしまえば呪われるとか、山に住まう神を見たら一族諸共滅びるとか、物騒な神様に祈ろうと思う人はいないのだろう。
生い茂った草をかき分けて中に入ってみる。
驚いたことに奥には巨大な鳥居が立ち構えていた。
「何でこんなに立派な鳥居があるんだ!?」
鳥居を潜り参道に入ってみると、足の踏み応えが違う。
落ち葉を足で払ってみると、驚く事にカットされた石畳が敷かれていた。
石畳の参道の幅は間口で十間はある。
それが渓谷沿いにずっと続いていた。
「誰がこんなもん造ったんだべ」
この近辺はあまり開拓されていない。
水が豊富にあって気候は悪くは無いのだが、治水工事などは行われていない為、何度も水害に襲われている。
そのせいでこの近辺に大勢の人が住む事は出来ない。
寂れた村がポツリポツリとしか存在しないこの地域。
正直こんなに立派な鳥居や石畳の参道は不必要だと思われた。
「まだ続くのか・・・」
参道は渓谷沿いにずっと続いていた。
もう既に何キロも歩いているのだが、神社らしきモノが見えてこない。
まさかこのまま永遠に続いているんじゃないか?と錯覚を起こした時ようやく遠くに鳥居らしきモノが見えてきた。
今となってはおかしな話だが、禍つ神の住まう神社に向かって行くなど狂気の沙汰だ。
だが吸い寄せられるように俺はそこに向かっていた。
やっとのことで鳥居の前にやってきたのだが、薄暗く湿気が多いからか鳥居はボロボロだ。
奥に見える神社はどう見ても廃神社のようにしか見えない。
「誰もいなさそうだべ・・・」
誰もいないだろうと思い、鳥居を超えると突然空気が変わる。
境内に入った瞬間、風に揺れて聞こえていた木々のざわめきや、不気味に聞こえていた山鳩の声が突然聞こえなくなった。
そしてボロボロだったはずの鳥居や神社が、キレイな状態になっているではないか・・・
「オラ、狐に化かされてるのか?」
雷太は目を擦って見ても変わる事はない。
「・・・・・・・えっ!?」
鬱蒼としていても昼間だった筈なのに、空を見上げると天の川がそこにある。
「こ、ここは何だ・・・?」
鳥居をくぐった瞬間突然暗くなって分からなかったが、目が暗さに慣れてくると空間が所々歪んでいるのが分かる。
まさしく異界。
そこはそう呼ぶに相応しい場所だった。
「おっかねぇ所にきちまったべ・・・」
ここは村では絶対に入るなと言われていた禁則地だ。
その名の通り、嫌な気配を背中にビンビン感じる。
俺は引き返そうとすると、どこからともなく声がした。
「貴様は誰じゃ」
振り向くとそこには頭上に刀を持った巨大な白い蛇が三体いた。
そして三体の蛇の中心に一人の女性が立っている。
村の言い伝えではその姿を見た者は、一族諸共滅ぶと言われていた。
怪しくも神々しい蛇の神が三柱。
そして絡み合う蛇の中央に一人の女性が立っている。
「・・・オ、オラは雷太だべ」
雷太は恐る恐る声を出した。
「何をしにきた」
地の底から湧いてくるような太い声が頭に響く。
「オラは村の連中から逃げていたら、いつの間にかここに来てたんだべ」
「逃げて来た?」
「そうだ。オラ達は何もしてねぇってのに、おっとうも、おっかあも殺されてよ、オラも殺されそうになったから逃げてきたんだ・・・」
「・・・・・・そうか、今なら見逃してやる。殺されたくなければ今すぐこの山から立ち去るがよい」
「で、でもこの山から出て、オラはどこに行けばいいんだべ」
「そんな事は知らぬ。今すぐ立ち去れ」
雷太は子供達に捕まった時、棒や石で叩かれて体中に裂傷があった。
全身に血が流れ、体力も気力も限界を迎えている。
今までずっと我慢してきたが、こみ上げてきた思いが爆発してしまった。
「行くとこなんてオラにはどこにもねぇだ。何でオラばっかりこんな目に合わなくちゃいけねぇんだ・・・」
焦点の合わない目で雷太はブツブツとつぶやく。
「今すぐ立ちさ・・・」
「神様もそんなにオラ達に死んで欲しいのか!?オラ達が一体何したってんだ。悪い事なんて何にもしてねぇってのによ!!」
村の子供達から何とか逃げる事は出来た。
しかし子供である雷太が耐えきれるストレスを大幅に超えていた。
「・・・おっとう・・・おっかあ・・・すまねぇ。オラ、仇を取る事出来そうにねぇだ・・・・・・」
ここに来るまで憎しみと怒りの力で何とか意識を保っていた。
だが神と思われる者からも背を向けられ、雷太の心の糸がプツンと切れてしまった。
「言いたいことだけ言って倒れてしもうた。困った奴じゃのぅ」
これが夜刀神、夜美との出会いであった。
「あれっ?ここはどこだ?」
見た事のない部屋に俺はいた。
天蓋の吊るされた寝室。布団は重さを全く感じないほど軽く暖かい。
「ようやく起きたかのぅ」
大輪の華の描かれた襖が開いて、先程見た女性が寝室に入ってくる。
「姉ちゃんは誰だべ・・・」
「童か?童は夜刀神であるぞ。この地に住まう神じゃ」
彼女はこの世の者とは思えぬほど美しかった。
光が当たれば透き通りそうなくらい髪は細く白い。
吸い込まれそうな瞳は血のように赤く、切れ長ではあるが長いまつ毛がキツそうな見た目を和らげている。
鼻筋はスッと通り、ふっくらとした唇は桜の花びらのような色をしていて吸い込まれてしまいそうだ。
巫女のような袴を着ているため分かりにくいが、女性らしさは服の上からでも伝わってくる。
「傷口が塞がらないからの、まだ眠りにつくがよいぞ」
そう言って俺を横にすると彼女も俺の隣に寝転んでくる。
「姉ちゃんはオラを殺すんじゃなかったのか?」
何事も無かったように見つめてくる神に、さっきの言った言葉に対して尋ねてみる。
「気が変わった、それだけじゃ。こうしていると暖かいであろう?」
先程とは違い殺気を感じる事が無い。
だから本当に気が変わったのだろう。
「・・・うん」
そう頷くと彼女は微笑んだ。
妖艶な雰囲気を醸しつつ、笑うと少女のように彼女は可愛らしい。
そんな彼女に俺は見とれていた。
彼女が何故俺を助けてくれたのかは分からない。
だが、不思議と安心感に包み込まれて眠りに付く事が出来た。
「お主の声は童に届いたぞ」
眠る雷太の頭を撫でながら夜刀神はつぶやく。
彼女の元に雷太の魂の叫びが届いていた。
両親を殺された怒り、何も出来なかった悔しさ。
その強烈な思念が夜刀神の元に届いていたのだ。
「面白い男の子じゃ。気にいったぞ」
夜刀神は眠る雷太を眺めながら、優しく目を細めるのであった。




