レンの覚醒 中編
今週末引っ越しをします。
その準備に追われていたので更新遅くなりました・・・
次のちょっと遅くなるかもしれません。
空間に現れた巨大な目が、倒れたユキを見つける。
すると割れた空間から目が押し出され、溢れるように更に幾つもの目が現れた。
肉塊と共に現れた巨大な体が洞窟内に現れる。
全身に目が付いていて、全体的なフォルムは招き猫のようだが、とてもじゃないが可愛いとはいえない。
圧倒的な存在感が洞窟内を支配していた。
俺はその存在を前に何とか立っている状態だ。
おどろおどろしいが、神々しさも持ち合わせている。
「貴様。儂との約束を覚えておるのだろうな?」
倒れているユキを見てソレは言葉を発し、黒い手が伸びてきて俺の胸倉を掴んだ。
そして目の前に引き押せられると、全身の目が一斉にレンの方に向く。
「すまない・・・記憶が無いんだ」
その言葉に偽りが無いかを確認するように俺の動きの全てを監視する。
すると少し考えて開放した。
「雪菜・・・」
肉塊のような体がユキの方へ向かいながら人の体へと変貌していく。
すると一糸纏わぬ綺麗な女性が現れた。
ただ全身に目が付いていることが普通ではない。
「・・・・・百目鬼?」
俺は日本の妖怪に百目鬼という妖怪がいたことを思い出していた。
百目鬼が人化を終えると、体が光りを帯びる。
まばゆい光に目が眩み、目を細めていないと開けていることすら出来ない。
徐々に光りが落ち着いてくると、そこに着物を着た綺麗な女性が立っていた。
力の抜けたユキを抱き上げて、愛おしい娘に頬を摺り寄せる。
「可哀相に・・・」
すると百目鬼の喉の奥から何かが上がって来るのが分かる。
ユキの口に自分の口を合わせると、喉から上がってきた何かをユキに飲ませた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
百目鬼は激しく肩で息をして、額から大量の汗を欠いている。
何を行ったのか分からないが、一瞬のことなのに相当体力を消耗しているようだ。
ユキの様子をしばらく見ていたが百目鬼は何かを感じ取ったのか、緊張した表情が笑顔に変わる。
「間に合ったのう」
髪を撫で愛おしそうにユキを見つめている。
先程までの恐ろしい雰囲気とは違い、慈愛に満ちた雰囲気を纏っていた。
「アンタは一体誰なんだ?」
俺の言葉に全ての瞳が俺の方を向いて睨みつける。
「・・・・・・儂の名は静。こやつの母親じゃ」
俺の問いにしばらく黙っていたが、観念したのか自分が母親だと名乗る。
「母親?」
「ハァ・・・」
俺の言葉に深いため息をつく。
「本当に何も覚えておらぬようじゃな。儂と雪菜は血が繋がっておらぬ。そもそも雪菜の面倒を見て欲しいと儂に預けたのは貴様じゃからな」
「俺が?」
百目鬼が首を振って悲しい表情を浮かべる。
「こやつに惚れたせいで二度も死ぬ事になるとはな・・・」
着ていた羽織りを地面に引くと、ユキをそっと寝かせた。
「龍よ。儂の娘をよくもこんな目に合わせてくれたな?」
静は俺の元にやってくると、首を掴んで持ち上げた。
「俺はレンだ。龍じゃない・・・」
「同じだ。愚か者め!!」
静は溜息をつくと俺を殴り倒す。
「雪菜を不幸にしたら許さないと儂は言ったはずだ」
静の体から怒りのオーラが溢れ出す。
「情けない奴よ。夜美殿に大恩があるから生かしてやったが、まさか二度も可愛い娘を死なせるとはな」
「な、何のことだ?俺にはさっぱり分からない」
「貴様の性根を叩きのめしてやる。掛かってくるがいい」
いきなり掛かって来いと言われても、どうしたらいいのか迷っていると静の逆鱗に触れる。
「貴様はそれでも男か!?戦えぬと言うなら何度でも雪菜を死なせるということだな。それならこの場で死ぬがいい」
静の拳が俺の腹にめり込んだ。
「グハッ・・・・」
静の入れた拳は人が繰り出すものとは全く違っていた。
体が浮き上がり、浮いた所を殴りつけると俺は後ろに吹っ飛ぶ。
洞窟の壁に激しくぶつかった瞬間、眼圧が上がって目の前が真っ赤に染まった。
この前戦ったオークやグレートマンティスの比じゃない。
ヤバい。本当に殺される・・・
これでも日本じゃ武道や格闘技で馴らしていた。
接近戦は得意としてるのにこのザマかよ。
レンの体は遺伝子操作されていて、とてつもないフィジカルを持っている。
それなのに何も見えない。相手のスピードも力も全てにおいて圧倒的だ。
絶え間なく殴られ、意識が朦朧としてきた。
「以前のお主は強かった。人の身でありながら鬼が跋扈する幽世に一人で乗り込んできたのだからな」
静は俺を哀れみの目で見つめる。
どれだけ時間が経ったのだろう。俺はサンドバッグのように殴られ続けていた。
「それが今世のお主ときたらどうだ。情けない男よ。龍の足元にも及ばぬではないか」
「・・・お、俺は、小夜を助けなくちゃいけない。ここで死ぬ訳には行かないんだ・・・」
その言葉を聞いた時、静の雰囲気が変わる。
「自分の娶った女子を死なせておいて、助けなければならない女子がいるだと?」
静の怒りのボルテージが上がる。
「貴様という奴は・・・」
明らかに今までと違って、殺意の籠った目でレンを見つめていた。
すると静の体が膨らんで行く。
人化が解けて最初に現れた時の百目鬼の姿に戻っていた。
ヤバいっ!!!!
そう思った瞬間、殺気の籠った黒い手が俺に向かってきた。
俺は咄嗟に突き立てていた刀を地面から引き抜き刀で薙ぎ払う。
「チッ」
すると切った感覚もなく分離し、落ちた手が蒸発するように消えて行く。
危ねぇ・・・
黒い手が伸びたと思った瞬間、目の前に来ていた。
反応出来ていたのは間違いなく俺の体のフィジカルのおかげだ。
「少しはやるようだな。だがいつまで持つかな」
静から黒い手が伸び、怒涛の攻撃に転じた。
大太刀は想像していたよりも軽く、辛うじて防ぐことが出来ている。
それにしてもこの刀はスゲェ。
触れただけで静の黒い手が切れてしまう。
ただそれ以上に黒い手の攻撃を受けているから何とか攻勢に転じないと・・・
「なかなか頑丈な体をしているようだ。これならどうだ?」
すると百目鬼の体から濃い緑色の霧が放出される。
攻撃を防ぐだけで手いっぱいな俺はそのまま霧に飲まれていく・
「いてぇ!!」
殴られ過ぎて瞼が腫れ上がり、視界がかなり悪くなっているところに刺激の強い霧が目に入る。
「効いているようだな。コレは毒の霧だ」
「毒だと?」
「そうだ。お主はこの毒を吸い込んだからな。徐々に体が動かなくなるぞ」
視界が歪み、百目鬼の体が歪んで見える。
クソッ。マジで毒が回ってきてるぞ。
体も思うように力が入らない。
神経が麻痺する毒だ。
百目鬼の腹にある巨大な口が、薄ら笑いを浮かべている。
「さて、そろそろ死ぬか?」




