第二十六話「たった三人の反攻」
ジャポニカの軍艦ミカサが航海に出て一週間、ヒカルは寝食以外は甲板に出て船酔いに耐えていた。それ以上に大陸に着くまで時間がかかるもどかしさとカンナギと別れた孤独に耐えていた。
時々ダートとアクアが代わる代わるして様子を見に来てはいた。しかし大概は一人である。カンナギと出会う前は、何よりもセイラと出会う前は一人でも平気だった。なのに今はどうしようもなく寂しく感じる自分がいる。ヒカルはそんな自分に何を弱気になっていると苛立ちを覚える。
今日もまたダートが甲板に来て声を掛けてきた。
「寒くなってきたのによくいるな。中に入らないのか?」
「こんなの寒いうちに入らない。私は雪国育ちなのでな」
「そうか……何か我慢しているように見えたのでな。一人で寂しくないか?」
「全然。寂しくなんかないね」
図星を突かれたがヒカルは強がる。
「いつもならカンナギが話し相手になってくれただろうがな……」
「あいつは故郷に帰れたんだ。憎まれ口を叩いているが親が生きているなら親元で暮らした方がいい。お前らだって直にフェニクシアには帰れる。国を立て直した後はのんびり暮らせばいいさ」
「ヒカルはどうなんだ。故郷に帰りたくならないか?」
「故郷……」
ヒカルは意外そうな顔をした後少し考えこむ。それから口を開いた。
「すっかり忘れていたよ。私が10歳の時にブッテツ師匠と旅に出て以来、故郷の町には帰っていない。今更帰ったって仕方ないさ。両親も死んで、私を覚えてる人は誰一人いないかもしれない。今となっては魔王に滅ぼされてるかもしれない」
「それでも故郷は故郷だろう」
「それはそうだろうが……」
手すりにもたれ水平線を眺めながらヒカルは考え込む。彼女の思索を邪魔しないようダートは立ち去った。
オーエドを出発してから十六日目、カンリンマルで行った時より早くヒカル達はフェニクシアへと戻ってきた。港町クテフソノトの湾岸が望遠鏡で見える距離まで迫る。
しかしその時、突然港から砲撃を受けた。砲弾はミカサに直撃せず手前に着水して水飛沫を上げたが、攻撃されるなんて思ってもいなかった船員達は驚いた。
「何だ!?」
ヒカルは目を凝らして岸を覗く。するとクテフソノトの沿岸部に大砲が並んでいるのが見えた。そして大砲の周りにいるのはフェニクシア人ではなくタイガニア人だった。
「何かあったんですか!? 敵襲だって」
アクアとダートが甲板に出てきてヒカルに声を掛けた。彼女は答える。
「クテフソノトに大砲が並べてある。それで撃ってきた。使っているのはタイガニア人だ。クテフソノトはルシウス神兵団に占領された可能性が高い」
「何ですって!」
「見たのか? 艦長に報告しに行こう」
そう言っている間に砲撃が始まる。ミカサは急速に方向転換しクテフソノトから離れる。すると大砲の射程外で砲弾は全部手前に落ちた。
「操舵手は有能なようだ。急ごう」
ダートがそう言った時、マンジロウ艦長の方が船員を伴って甲板に出てきた。
「状況を確認したい」
ジャポニカ語でそう言って部下が持っていた望遠鏡を取り、クテフソノトの湾岸の様子を見る。その横でより目の良いヒカルが正確な状況を伝えた。
「ざっと数えたが大砲が36門。使っているのはフェニクシア人ではない。クテフソノトは魔王の勢力に制圧されたと見ていい」
「なんと!」
「これを武力制圧し返して乗り込むことは可能か?」
ヒカルが尋ねるとマンジロウは即答した。
「できる! ミカサの砲ならば向こうの射程外から一方的に砲撃可能だ。だがしかし……」
マンジロウは四聖の二人を見て躊躇う。ダートは黙り込んでいる。しかしアクアは言った。
「致し方ないでしょう。大陸に辿り着かねば何にもなりません。状況は芳しくありませんがここから変えていきましょう」
「そうだな……頼む」
ダートの言葉を聞くとマンジロウは頷き、室内へ戻っていった。
ミカサは砲撃を始める。マンジロウが言った通り向こうの大砲より射程が長く、次々とクテフソノトの湾岸部にある大砲を破壊していった。
やがて向こうからの砲撃が止み、完全に沈黙した。そうしてミカサはようやくクテフソノトに近づく。港に着く前にヒカル達三人は甲板から船内に入りマンジロウ艦長に会いに行った。
「艦長、クテフソノトにこれ以上近づかなくていい。私達三人は船を降り、アクアの力で海を渡って上陸する。まだ敵がいるかもしれないから」
ダートがそう言うとマンジロウは敬礼した。
「わかりました。ご武運を」
三人は甲板に出てから海に飛び込む。アクアの異能で水の泡に包まれ、彼に操られながら水中を進む。そして上陸したら案の定銃を抱えた男達が壊れた大砲の周りでうろうろしていた。
「クソ、このままだとあの船に乗り込まれてしまうぞ、波止場に集まれ!」
「もう我々は上陸しているんですけどね」
「何だお前らは! どこから来た!?」
「お前らこそなんだ? ルシウス神兵団か?」
「そうだと言ったらどうする!」
タイガニア人とトータシア人の男達はダート達に銃を向ける。ヒカルはムラクモを構えた。
「斬る」
「お前まさか! 銀髪に黒い目の女サムライ、ヒカル・シルバー……」
彼の首はすでに胴体から離れていた。ヒカルは周りのルシウス神兵団を一瞬で片付ける。
「うああああ」
それを目撃した少し離れたところにいたルシウス神兵団の男がライフルを撃つ。だがダートが土を隆起させて防いだ。アクアがその男の顔に水を被せる。彼は呼吸できなくなって溺死した。
「ダート、アクア、この町を奴らから解放するぞ」
「ああ」
ヒカル達はまず波止場を制圧し、全ての大砲が破壊されていることを確認した。応援を呼んだか波止場にどんどん武器を持ったルシウス神兵団と思しき男達が町の方から集まってくるが、これもことごとく返り討ちにする。アクアは一人水の泡で閉じ込めて尋問する。
「この町を支配しているルシウス神兵団の者はどこに?」
「喋れば助けてくれるのか?」
「さぁ、あなた次第ですよ」
「ゴッグ・マグゴグ兵長は殺した町長の邸宅にいる。さぁ言ったぞ!」
「まだです。町内には何人ぐらいまだ神兵団の者が残っていますか?」
「町を巡回している者は皆ここに来てあんた達に殺された。ゴッグ兵長のもとに護衛が何人かしかいないだろう」
「そうですか。クテフソノトを占領したのはいつですか?」
「ダスク様からの命令があったのはちょうど一ヵ月前でここに来るのに半月以上かかったから……いつだっけ?」
「他の町はどうなっています?」
「そこまでは知らないね。教える義理もない」
「わかりました……もういいです」
「助けてくれるのか?」
捕虜は期待したが非情にも泡の中が水で満たされ、溺れ死んだ。ヒカルはアクアの行為を咎める。
「おい、そいつに町長の家まで案内させないのか?」
「道案内をさせると罠に嵌められる可能性があります。道は町の人に訊けばいいでしょう。彼を生かす理由がありません」
「それもそうか……」
ヒカルは納得した。ダートが行こうと言ったので三人は町の方へ向かう。
町を歩く人はほとんどいなかった。港での騒動で怯えて家に籠っているのか、それともまだルシウス神兵団を恐れているのかはわからなかったが。だが市場はやっていた。ヒカルは聞き耳を立てると買い物客達は何かあったけど何があったかわからないということを話し合っていた。
ダートは買い物をしている一人の婦人に尋ねる。
「すまない、この町の町長の家がどこにあるかご存じないか?」
「それなら町の一番大きな通りの一本隣の通りにあるメサイア教の教会の近くの大きな屋敷だけど、あそこはその……」
婦人は伏し目がちに言葉を濁す。ダートはそんな彼女を安心させるように手を取って言う。
「大丈夫だ。この町をルシウス傭兵団から解放するために我々が来た。すでに港は制圧した。あとは町長の家だけだ。道を教えてくれてありがとう」
「その、たった三人で……?」
彼女が疑問に思うのも無理はない。普通の人は異能者の存在など知らないのだから。
「私達は不思議な力が使えますので」
そう言ってアクアが上を指差すと指先に小さな水の塊が浮かぶ。婦人は驚いた。
「それでは失礼」
三人は町長の邸宅へと向かう。場所は目印となる教会が目立つ建物で、近くの屋敷の前で屈強な男が武装して門番をしていたからすぐにわかった。
「何だお前ら、近づくと撃つぞ!」
門番はそう言う傍からヒカルに首を斬られていた。彼女は返り血を浴びる。ジャポニカで貰った黒い羽織を着ていて良かったと思うのだった。
ヒカル達は屋敷の中に入ると、鎖の付いた鉄球を持った男と出くわした。男は緑色の髪に紫色の目をした、南洋諸島出身と思われる異国の者だった。
緑髪の男は出会い頭に鉄球を放り投げる。アクアに当たりそうになったがすんでのところでヒカルが蹴り返した。彼は戻ってきた鉄球に当たりそうになるが手で受け止める。なんという剛腕!
「お前がゴッグ・マグゴグか?」
ヒカルは問いかける。鉄球の男は憤怒の表情で吠える。
「ココハ私ノ家デース! 勝手ニ入ッテクルンジャナイノデース! 殺シテヤリマース!」
「随分好戦的だな。ここは町長の家だと聞いたんだが」
「前ノ町長ハ逆ラッタノデ殺シマシタ! 今ノ町長ハ私デース!」
「盗人猛々しいんだよ」
素早く接近するヒカル。ゴッグと思わしき男は鉄球をぶつけようとするが鉄球ごと一閃で真っ二つにした。
町長の邸宅を制圧して出る三人。すると町の人が彼らを出迎えた。
「あんた達、ゴッグを倒したのか?」
「ああ……」
「すごい、なんて人達だ!」
「もうルシウス神兵団の奴らに怯えなくてすむのね!」
「やった、やったー!」
人々は喜び、ヒカル達を称える。ダートは彼らに尋ねる。
「すまない、フェニクシアはどうなっている? ルシウス神兵団に占領されたのはここだけか?」
「すみません、奴らが来てからはこの町を出られなくて、他の町の様子は伝わってこないんです。でもおそらく……」
「そうか……」
いつも冷静なダートも気を落とす。ヒカルは彼を励ますために言う。
「この町のように取り戻していけばいいさ。ひとまずジイラングへ向かおう。臨時政府なら全体を把握しているだろ」
「そうですね、ラファイエット総理達が無事ならいいのですが……」
アクアはジイラングがルシウス神兵団に襲われて臨時政府の閣僚が殺されているという最悪の想像をして心配する。ダートも不安になり、一刻も早くジイラングに向かいたくなった。
「みなさん、すまない、我々は先を急ぐ。後のことはこの町の人間に頼む。それでは」
ダート達は断りを入れて人の輪から抜け出す。すると突然聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ボス、ダートさん、アクアさん、帰ってきたんですね!」
「お前……ゲルか!」
髭がぼうぼうに生えて身なりが汚くなったが、確かにその赤髪赤目の悪人面はゲルだった。
「ここに来ればボス達に会えると思って……まさかここもルシウス神兵団の奴らがうようよいるとは思いませんでしたが」
「ここも、ということは?」
ダートが食い付く。ゲルがヒカルに耳打ちすると彼女は言った。
「場所を変えよう。行くぞ」
ゲルを加え、四人は落ち着いて話すため酒場に入った。
「ゲル、金は持っているのか?」
「大丈夫です、ルシウス神兵団の奴らからかっぱらってきました。俺の奢りです。好きなだけ食べてください」
「あのなぁ」
「じゃあ頼もうか」
「おいおいいいのかダート」
ダートもアクアも遠慮なしに注文する。ヒカルはやれやれと肩を竦めながらパンとビールだけ頼んだ。
ゲルはヒカル達が不在の間のことを話す。
「俺はキョウサイの町へ戻るためザクスを出ました。でもその途中立ち寄った町でルシウス神兵団の人狩りと遭遇したんです。それで俺は透明になって町を出た奴らの後をつけました。奴らがどこへ人を連れていくか、拠点がどこかわかればきっとボス達のためになると思って」
「それでどこへ向かったんだ?」
「奴らはずっと北の方へ向かっていました。俺は度々奴らの食料を盗みながら尾行を続けました。そして二週間くらいはかかったか、やっと目的地に着きました。そこにはフェニクシア人だけじゃなくてドラゴニア人やタイガニア人、トータシア人だけでなく肌の黒い何人かわからん奴まで沢山の人が集められていたんです」
「肌が黒いというのはキリン族ですね。少数民族で昔は国を持っていたんですがタイガニアに征服され、その時我が国に逃げてきて住み着いている人も僅かにですがいます」
アクアが補足する。ゲルはへぇと感心すると話を続けた。
「町には武装しているルシウス神兵団がそこらかしこにいて人々を働かせていた。俺は目を盗んで町の人に話を聞いた。するとここはリュウコウ山という山の麓にあるニソーという町で、山の頂上にダスクの城を建てるための労働力として人々は集められたという。ついでにルシウス神兵団の世話もしてるってわけだ」
「ニソーはフェニクシアとトータシアの国境沿いの町だ。リュウコウ山はちょうど国境線上にある」
ダートが説明を加えた。ヒカルは興奮する。
「リュウコウ山というところにダスクがいるのか!? どうなんだゲル」
「俺も山へ行って確かめようとしたが山道への入り口は厳重に警備されていて近づけなかった。だからわからない……すみませんボス」
「そうか。いや、よくやった」
「私は行ってみる価値があると思います。第一我が国民がニソーに囚われているのであれば助けてやらなければなりませんし」
「ああ、私もアクアに同意だ。ヒカルは?」
「そうだな……行こう、ニソーに」
三人は顔を見合わせ意思を統一する。だがゲルは一人暗い顔をした。
「その前に悪い知らせがあります……」
「なんだ、ゲル」
「そのことをザクスのノブレス将軍達に伝えようと思ってザクスまで戻ったら、ザクスは死体だらけで生きてる人が誰もいなくて……ジイラングに行って臨時政府に伝えようとしたらジイラングはルシウス神兵団に占領されちまっていた」
「何だと!」
「俺は見張りの目を盗んで幽閉されているお偉いさん達に話を聞いてきた。するとザクスのフェニクシア軍はルシファーに襲われて壊滅したらしい。その後ジイラングにルシウス神兵団が攻めてきて、臨時政府は無条件降伏したんだと」
「おのれ、ダスクめ!」
普段感情を抑えているダートが怒りを露わにする。アクアも拳を握って震えていた。ヒカルはすぐさま言う。
「まずはジイラングを取り戻すぞ。ダート、アクア。ゲル、ジイラングのお偉いさんは生きているんだな」
「ああ。俺がジイラングにいたのは一週間前だから今はどうかわからないけど」
「わかった。生きてることを願おう」
「ボス、一つ訊いてもいいですか?」
「何だ?」
「チビボスは一緒じゃないですか?」
「チビ……? ああカンナギのことか。あいつはジャポニカに置いていった。故郷を守るって目的を果たしたんだ。これ以上戦いに巻き込むことはない」
「そうだったんですね」
ゲルはカンナギからカタナを貰ったことを思い出す。あれは大切にとっておこうと思った。
食事を済ませ、四人は町の外の街道の入り口に出る。ヒカルはアクアにムラクモを持たせると、片手で彼を、もう片方の手でダートを持ち上げた。
「流石にこれはちょっと……」
「無茶ではないかヒカル?」
「私は大丈夫だ。異能のおかげで疲れない。それよりもムラクモを落とすなよアクア。それではゲル、私達は先を急ぐ。お前はゆっくりと後を追って、そして吉報を故郷に持ち帰るといい」
「ボス……ボスならダスクとルシファーを倒し世界を救えるって信じてます」
「世界を救うなんて大それたことは考えていないがやってみせるさ」
ゲルの目にはヒカルがどこまでも気高く美しく見えた。
ヒカルは二人の男を持ち上げたまま走り去る。あっという間にゲルの目の前からいなくなった。しばらく彼は立ち尽くしていたが、やがて後を追うように歩きだした。
ヒカル達は街道からジイラングの町の入り口がルシウス神兵団に見張られているのが見えたので付近の木に隠れて様子を窺っていた。
「どうする?」
「奴らは私が片付けましょう。問題は中に入ってどうするかです」
「私の能力は屋内では使えないし派手だから陽動を買って出よう。その隙にヒカルとアクアでラファイエット総理らを救出しに行け」
「わかりました」
「臨時政府の人間が全員殺されていたらどうする?」
ヒカルが訊きにくいことを躊躇いなく訊く。ダートは簡潔に答える。
「その時はルシウス神兵団を全員嬲り殺す」
「まぁ彼らはどの道生かしておけませんが……」
アクアも今回のことは相当腹に据えかねていた。
「いきますよ」
水の塊が飛んでいって町の入り口を見張る男達の顔に憑りつく。彼らはもがくが水の塊は取れない。そのままわけもわからず溺死する。
ヒカル達は屍を踏み越えてジイラングの町の中に入る。暗い顔をした人が町を歩いていた。だがダートらを見るとパッと顔色が明るくなった。
「四聖様……! 助けに来てくださったんですか!?」
「ああ、もう大丈夫だ。ルシウス神兵団の奴らはどこにいるかわかるか?」
「あいつらは市場を仕切っている……ガレッガ通りのウェイン公園がたまり場になってるみたいです、誰も近づけません」
「人の多いところを見張ってるわけか、面倒だな……」
ダートは一般人を巻き込む可能性を考えて、人目を避けて公園を奇襲する策を練る。
「ヒカルとアクアは騒ぎになるまでなるべく身を隠していてくれ」
「わかった」
「通りの近くで見つからないように様子を見ます」
ダートとヒカル達はここで別行動を取る。それぞれガレッガ通りを目指した。
一応眼鏡を取るという最低限の変装をしたダートだったが、ウェイン公園らしき武装した集団が陣取っている場所に辿り着くと眼鏡を掛けた。彼は地面に座ってリボルバーの手入れをしている男に話しかける。
「お前達、ルシウス神兵団か?」
「何だその言い方は? 敬いの気持ちがないぞ! 撃ち殺してやろうか!」
「待て待て、入団希望者かもしれないだろ」
別の男が話しかけてきた。だがダートの顔をよく見て態度を一変させる。
「こいつはまさか……茶髪に金色の瞳、眼鏡を掛けた男、フェニクシアの四聖のダート・アトス!」
「ほう、知られたものだな」
ダートの正体に気付いた男だったが隆起した土と土の壁に挟まれ潰された。
「うわあああ!」
リボルバーの手入れをしていた男は腰を抜かしてリボルバーを落とす。ダートはその銃を拾って彼の額に突きつけ撃った。
銃声が人を集める。ダートはルシウス神兵団に囲まれた。彼らは叫びながら銃を一斉に撃つが隆起した土の壁に防がれる。ただ防いだだけでなく、彼らの後方にも土の壁が出現して迫っていき挟みこみ、ぺしゃんこにした。
しかしそれを逃れた者がいた。恐怖に戦慄き失禁している。だがやがて逃げ出した。ダートはわざと生かしたのだ。応援を呼び込み、自分のもとへルシウス神兵団の戦力を集中させるために。
一方ヒカルとアクアはガレッガ通りにいたルシウス神兵団の者が次々と公園の方へ向かっていくのを見て、ダートの陽動が上手くいっていると考え臨時政府のある貴族の屋敷へと向かった。ゲルの情報が確かなら、閣僚たちは今も幽閉されているはずだった。
屋敷周辺の警備は厳重だった。門の周りにはルシウス神兵団の者が5人ほどいて敷地内にもそれらしきものが何人かいる。おそらく屋敷内にも相当いるだろう。
射程に入るとアクアが水の塊を飛ばして門番を水に閉じ込め何も言わせず溺死させる。ヒカルは彼を抱え閉じられた門を飛び越えた。そうして屋敷内に侵入する。
「何だお前達は! どっから入ってき」
出会い頭にヒカルは神速の剣を振るう。ルシウス神兵団の男は何もできず頭を失って倒れた。
「ラファイエット総理! 皆さん! どちらですか!」
アクアは臨時政府の面々の身を案じながら探し回る。そして会議室として使っていた部屋に入ると、憔悴しきっている閣僚達が集まっていた。
「総理! 閣僚の皆さん! 無事でしたか!」
「おお、アクア・アラミス……戻ってきたのだな……我々は助かったのか?」
「現在ここを制圧中です。ダートがウェイン公園でルシウス神兵団の相手をしています」
「そうか……」
アクアも閣僚達もホッとした表情を見せる。ヒカルが言う。
「ジャポニカで魔王レヴィアタンとマモンを討伐してきた。残すはルシファーのみだ。ルシファーとダスクはリュウコウ山にいるのだろう? ジイラングを解放したら打って出る。いいか?」
「おお……レヴィアタンとマモンを……是非とも頼む」
ラファイエット首相はヒカルに向かって頭を下げる。
「ルシファーにザクスを奪われどうすることもできなくて悔しい思いをしたが、まだ君達がいる限りフェニクシアは負けていない。何度でも蘇る、それがこの国だ。アクア、ダートと共に彼女を助けるように」
「はい!」
アクアはフェニクシア式の敬礼をした。それからヒカルは彼に閣僚達を護衛するよう残れと言い、一人で屋敷内のルシウス神兵団残党狩りに出た。
普通の人間ではヒカルの相手にはならなかった。銃の引き金を引く前に首を刎ねられ血の雨を降らしながら倒れていくのだった。
屋敷が片付くとヒカルはダートと合流を図った。彼の方も概ね片が付いていた。彼女があちこち土が隆起して地形が滅茶苦茶になったウェイン公園に来ると、ちょうど一人のルシウス神兵団の男が泣いて命乞いをしていた。
「どうか助けてください~我々は降伏しますから~命だけは~お願いします~」
「どうするんだダート」
「ラファイエット総理達は無事だったか?」
「ああ。大分疲れてたようだが」
「そうか。ルシウス神兵団は降伏した臨時政府の命を取らなかった。ならば我々も降伏する者の命は取れない。どんな外道であってもだ」
命乞いをしていた者はホッと一安心する。ヒカルはダートを筋を通す男だなと思った。
「ともかくこれでジイラングを取り返したな」
「ああ。次はニソーに行って連れ去られた人々を取り戻す」
「そしてダスクとルシファーを倒す」
「だな」
ヒカルとダートは互いに手を掲げてガッシリと組んだ。彼女達は最後の戦いに向けて意識を高め合った。
ジイラングの町の出口でヒカル達は沢山の人に見送られた。
「町を取り戻してくれてありがとうー」
「頑張れよー」
「必ず生きて帰ってきてね」
そんな風に口々に声を掛けられる。
「それでは皆、行ってくる」
ダートは振り返って群衆に言った。彼とアクアは馬車の馬に乗っていた。馬車に誰か乗るわけではない。ヒカルはいつものように走って行く。なので馬車には食料が大量に積まれていた。
ダートとアクアは馬を走らせ、ヒカルも出発する。全ての決着をつけるために。
次回「宿敵ダスク&魔王ルシファー」




