第二十三話「嫉妬の魔王レヴィアタン」
魔王レヴィアタンは船に垂直に飛び上がったかと思うと、すぐ海に潜り込んだ。船底を空けられ真っ二つにされたカンリンマルは浸水し沈みゆく。甲板にいたダートは慌ててアクアに命じる。
「アクア、お前の異能で乗員を助けろ」
「……できるだけやってみます」
アクアはダート達を水の泡で包む。
「なんだこりゃ、ここから出られないぜ」
「出ちゃ駄目ですよカンナギ。これでこの荒れた海に落ちても大丈夫です」
「姫様ー! ご無事でしたか!」
マサムネが甲板に飛び出してきた。カンナギはしかめっ面をする。
「姫様言うな!」
「すみません、つい……おっ、この水の膜は?」
「溺れないようにするためです。では室内を見てきます」
アクアが甲板にいる人間を水の泡で包んだ後室内に向かおうとした時、船をすっぽり覆うほどの大きな高波が来た。レヴィアタンの異能、ダイダルウェイブによるものである。カンリンマルは波に攫われ、横転して沈没した。
ヒカル達は海に投げ出される。アクアは目に付く人間は泡に包んで溺れないようにしたが、多くの乗員を助けられなかった。
「く、こんなところでレヴィアタンと遭遇するなんて、海の中では私頼り……冷静になれアクア・アラミス、ここで全滅させるわけにはいかない」
レヴィアタンは海深くから目を光らせて獲物を狙っていた。アクアは水を操り非戦闘員を分散させ、ヒカルら戦闘員を自分に近づける。
「カンナギ、物干し竿を二本くれ……いや水中では聞こえないか」
ヒカルは身振り手振りでカンナギに意思を伝えようとする。それを見たアクアが近づいて彼女の泡の中に入った。
「ヒカル、何か伝えたいことがあれば伝えますよ」
「そうか。じゃあ私が両手を上げたら物差し竿を渡すようにと言ってくれ」
「どういう意味ですか?」
「それで伝わる」
「わかりました」
アクアはヒカルから離れると、今度はカンナギに近づいて泡をくっつけて伝言した。
「わかったぜ」
カンナギは親指を立てる。早速ヒカルが両手を上げたのでその手で掴めるよう彼女の身長よりも長いカタナを生成してやった。
アクアはヒカルが直接レヴィアタンを斬るしかないと考えたので彼女を動かすため再び彼女のもとへ向かった。
ヒカルは視覚を怒り爆発の異能で最大限強化し、海の底まで見通す。するとレヴィアタンの異能トーピードの魚雷が発射されたのを捉えた。
「まずいぞアクア、爆弾がくる」
「水中の爆弾? まさか魚雷ですか? あれは実用化はまだ……」
「ルシフェン山の北の大空洞で見た。凄まじい威力だった。一発でも喰らえば全員吹っ飛ぶぞ」
「逃げますか?」
「いや、数が多い……ベルゼブブを倒したアレを試してみるか……」
ある程度引き付けたところで、ヒカルは音速を超えた斬撃を繰り出す。すると刀身から衝撃波が発生して遠くの魚雷を切り裂いた。裂かれた魚雷が一つ爆発すると誘爆を起こして花火のように海が光に包まれる。
カタナを一閃で使い切ってヒカルは両手を上げるとカンナギが次を用意する。矢継早に衝撃波を放ち、レヴィアタンの魚雷攻撃を防いでいた。すると嫉妬の魔王は水底から僻みの言葉を吐き出した。
「ニンゲンノ癖ニコレホドノチカラヲ持ッテ羨マシイ、存在ガ許セナイ、死ンデクレ!」
レヴィアタンは三体に分裂し、急速に上昇し始めた。ヒカル達を直接攻撃する気だ。増えたことにヒカルは驚く。
「馬鹿な!」
「どうしたんですかヒカル」
「レヴィアタンが三体に増えた」
「そんな……そんなことがあるわけないでしょう、おそらく幻覚です。二体は偽物で本物は一体だけとか」
冷静にアクアは考えを言う。ヒカルは成程と納得した。これは当たっていてアクティブデコイという分身を見せる異能だった。
一見どれも本物のレヴィアタンのように見える。ヒカルはその三体ともに衝撃波を浴びせた。二体はすり抜けていったが、一体は避ける動きをして、これが本物だった。しかし本物だとわかったがもう遅い。
「アクア、全力で避けろ!」
ヒカル達はすんでのところでレヴィアタンの大口に飲み込まれずに済む。海蛇の姿をした魔王は水上に顔を出した後再び海に潜って深く沈んでいった。
今度は十二体の分身を生み出すレヴィアタン。その群れに身を潜めて再びヒカル達を狙う。
「今度は十三体いる。ヤケクソな数だ」
「どうするんですかヒカル、本物なんてわからないですよ!」
「いや、今度は本物が判別つく」
ヒカルは目を凝らす。先程衝撃波をかわされたと思ったが掠めて本物には傷がついていたのを接近された時に確認していた。なので本物は傷口からどす黒い血を流している――彼女は見付けた、レヴィアタン本体を。
「レヴィアタンが来ます!」
「それは偽者だ、いいか、カンナギにいつもの十倍長いカタナを寄こせと伝えてくれ、そしてすぐ戻ってこい」
「わかりました」
アクアは急ぎカンナギのもとへ向かう。その時レヴィアタンが襲い掛かったがこれは分身ですり抜けた。
カンナギに伝言した後アクアはヒカルのもとへ戻る。すると彼女はとんでもなく長い特注のカタナを手にしていた。
「それでレヴィアタンを直接斬る気ですか?」
「そうだ」
「またレヴィアタンが来る!」
「それも分身だ、いいか、私の言うように潜れ。そして奴を引き付け、降りろと言ったら急速潜行しろ」
「了解です」
ヒカル達は次々来るレヴィアタンの分身には動じず、本体を迎撃するため潜っていく。本体もまた分身に混じって突撃を始めた。
「来るぞ、次のが本物だ!」
ヒカルは長尺のカタナを構える。レヴィアタンは大口を開け食い殺そうとした。
「降りろ!」
合図を送り、アクア達はレヴァアタンの下に潜り込んだ。ヒカルのカタナが一閃で巨大な海蛇の魔王を縦に真っ二つに裂いていく。魔王の断末魔の悲鳴が海中に響き渡る。
悲鳴がやみ、一瞬静かになったかと思いきや、レヴィアタンは喚き始めた。
「イヤダ、死ニタクナイ! 死ニタクナイ!」
「今まで散々人の命を奪っておいて自分は死にたくないだと? みっともないこと言うな」
レヴィアタンは絶命するまで死にたくないと喚き散らしていたが、やがてヒカル達には聞き取れなくなっていた。
ヒカルはレヴィアタンもセイラの遺体も持っていたのではないかと思い、探そうとする。
「アクア、レヴィアタンの体内にセイラの遺体がないか探したい、死体に近づけてくれ」
「わかりました、進行方向を指示してください」
アクアに適宜指示を出しながらヒカルはレヴィアタンの体内をくまなく探す。すると何か光っているものを発見した。
「何だあれは……カタナか? アクア、近づけてくれ」
ヒカルはレヴィアタンの体内に埋まっていたカタナを手にする。それは今まで見てきた色々なカタナとは一目で違うことがわかった。刀身が太陽のように赤く、鉄とは違う金属で出来ているようなのだ。それにかつての愛刀ムラマサを遥かに凌駕する出来であることが窺えた。普通の刀匠にこんなレベルのカタナは作れない。
「これはすごい……こんなすごいカタナは見たことがない……」
「そんなにすごいんですか? 確かに赤くて変わった剣ですが……あ、見てくださいヒカル、もしかしてあれがセイラ王女の遺体では?」
「何!?」
アクアが指差した方、斬られてぶちまけらたレヴィアタンの臓物の中に人間の胴体を発見するヒカル。その身体的特徴からセイラの遺体であることが彼女にはすぐにわかった。沈む前に急ぎ回収に向かい、抱きしめる。
「良かったですね」
「女の体だ、お前は見るな」
「す、すみません……」
ヒカルはすぐに背中に背負っている風呂敷にセイラの胴体も他の遺体と一緒に包み背負い直す。始めこの風呂敷をもらった時は大きいと思ったが、今では中身が詰まってパンパンで足りないくらいだ。
レヴィアタンが死んだことで海は穏やかになっていた。アクア達は集まって浮上し、カンリンマルの生き残りの生存確認を行う。ヒカルらを含め生存者はたった12人だった。ダートが船員達に問う。
「カンリンマルの船員の生き残りで一番位が高い者は? ああ、フェニクシア語が通じないか。カンナギ通訳頼む」
「お前らの中で一番偉いのは誰かってさ」
すると皆してマサムネを指差した。
「ええ!? 私船員じゃないぞ!」
「でも俺達下っ端ですし……マサムネ様は将軍様がフェニクシアに送られた使者で艦長の次に地位が高いですし……」
「ダート、マサムネが一番偉いってさ」
「そうか。フェニクシア語もわかるしちょうど良かった。ジャポニカ人の船員をまとめてくれ。早速だが航路がわかる者がいないか聞き出してくれ」
「わかりました……」
マサムネは言われた通り航路がわかる者がいないか船員に訊いた。すると航海士見習いという若い男が一人挙手した。
「あんまり自信ないんですけど、一応先輩から復路を聞いています……」
「よし、じゃあ君の言う通りに動いてもらおう」
この航海士見習いを先導に通訳のマサムネを通してアクアが12人を包んだ水泡を操って進む。ジャポニカのルインパコ港を目指して。流石に蒸気船で進むほど速く移動できなかったが日が傾く頃にはやっと岸が見えてきた。
ついにルインパコに着いたかと思われたが、そこで目にした目を疑うような光景にある者は驚愕し、ある者は絶望し、ある者は発狂した。
「いやああああああああああ!」
「カンナギ!?」
「姫様!」
ルインパコの港にある船は全て壊れてわずかに木材が浮いているだけであり、町の方も木造の家屋が全て何か巨大な力でなぎ倒され壊滅していた。ショックのあまりカンナギは叫んでいる。
やがてカンナギは意識を失い、ふらりと倒れた。
「姫様! 姫様! 姫様ー!」
マサムネも半狂乱になりながら母国語で叫ぶ。同じジャポニカ人の船員達にも動揺の輪が広がる。だがヒカルは冷静だった。
「アクア、カンナギに近づけさせてくれ」
「わかりました」
アクアはヒカルとカンナギの水泡をくっつける。彼女は倒れた少女の手首を取って脈を測り、胸に耳を近づけて鼓動を聞く。
「気を失っているだけだ。安心しろ。そのうち目覚めると思うがそのまま岸に着いたら私が運ぶ」
ヒカルはカンナギの小さな体をそっと抱えて持ち上げた。
結局カンナギは目覚めぬまま岸へと辿り着いた。航海士見習いの航路は正確で港町ルインパコだと思わしき湾岸は残されていたが、見渡す限りの廃墟であった。魔王レヴィアタンに破壊された跡だったのか。それとも――
大陸を出てジャポニカに向かった魔王は二体。まだ強欲の魔王マモンが残っている。祖国がもう滅ぼされてしまっているかもしれないと考えるとマサムネ達もカンナギのように気を失いそうになるのだった。
落ち着けそうな場所なんて探してもどこにもなかったが、一行はひとまずカンナギを降ろし回復を待つことにした。
「うっ……」
日が沈む直前の夕闇の中、カンナギは気怠そうに目を細く開けた。意識が戻ったことに気が付いてマサムネは喜ぶ。
「姫様! 気が付かれましたか!」
「ここは……」
目をパチリと開け、ゆっくりと上体を起こし辺りを見回すカンナギ。するとみるみる顔色が青くなっていった。
「まさか、オーエドなのか!? 親父は!? 皆は!?」
「落ち着いてください姫様、ここはルインパコかと思われます。オーエドはきっと大丈夫ですよ」
「そんなわけないだろう! もう魔王に滅ぼされてるかもしれないんだぜ!」
カンナギは興奮する。その様子を見てヒカルはマサムネに尋ねた。
「マサムネ、カンナギはなんて言ってる? 通訳してくれ」
「ヒカル、フェニクシアでチンタラやってる間に魔王にジャポニカを滅ぼされちまったじゃないか、どうしてくれるんだよ!」
ヒカルの胸倉をカンナギが掴み、フェニクシア語で責めた。しかし彼女は正論で返した。
「アクアを連れてこなければレヴィアタンに全滅させられていた。焦って行動したってどうにもならなかったさ」
「でも、これを見ろよ、ジャポニカはもう終わりだぜ、アタシの生まれ育ったオーエドの町も強欲の魔王が滅茶苦茶にするんだ! アタシは何も守れなかった……駄目な子なんだ……ひっく」
絶望に打ちのめされカンナギは泣きじゃくる。そんな彼女の頬をヒカルはバチンと音が響くほど強く叩いた。
「しっかりしろ! まだ終わっていない、私とお前で魔王の侵攻を食い止めよう。やるぞカンナギ!」
「痛いぜクソ……やるしかねぇな」
カンナギは頬を赤く腫らしながらも泣き止んで、魔王を追う決意を固めた。ふとヒカルが持っているカタナが目に付いて尋ねる。
「おい、ヒカル、そのカタナどうしたんだ?」
「ああ、これか? レヴィアタンの体内にあったのを拾ったんだ。どう見ても普通のカタナじゃない」
「それはきっとアメノムラクモノツルギだろうぜ」
「知っているのか?」
「ああ。魔大戦の最中ジャポニカを襲った嫉妬の魔王が時の帝ごと飲み込んだとされる伝説の剣だ。ヒヒイロカネというどんな金属よりも硬いとされる金属で作られたと伝承にはあるぜ」
「帝というのは?」
「ジャポニカの王様みたいなものだ。将軍が政治の長になってからはお飾りのようなものだが今でも一番偉いのは帝ということになってる」
「そうか。どんな金属よりも硬いと言ったな。ならば一閃にも耐えられるかもしれないか」
「試してみる価値はあるぜ」
「ああ。だがアメノムラクモノツルギというのは長いな……こいつはムラクモだ」
ヒカルはこの赤いカタナをすっかり自分の物にしていた。沈んだ太陽の代わりに刀身が光り輝く。尋常ならざる存在であるのは確かだった。
「暗くなってきたがこいつがあれば灯りがいらないな……それはそうとカンナギ、さっきは叩いて悪かったな。お返しに私を殴れ」
ヒカルは屈みこんで身長を合わせる。カンナギは容赦なく思いっきり彼女の顔面を殴った。
鼻血を出しながらヒカルは笑顔を作る。
「中々悪くないパンチだ。筋がいい」
「そりゃどうも」
カンナギは拳が痛くなったが見栄を張って涼しげに言った。
そんなやりとりを交わしていると海とは反対側から松明の炎が揺らめいて近づいてくるのが見えた。
「おい、生存者がいるぞ!」
そんな声が蹄の音と共に聞こえてきた。馬に乗って松明を手に持ち腰にはカタナを差したサムライの集団がヒカルの持つムラクモの妖しい光に吸い寄せられてやってきた。
彼らは10人ほどいたが、いずれも30代以上の男でジャポニカ人らしく黒髪に黒い目で、大陸かぶれしたマサムネとは違って独特のこの国固有の装束を着ていた。カンナギの服と少し似ているなとヒカルは思った。
光る赤いカタナを見て彼らは言った。
「何かの灯りかと思ったがカタナだったのか……なんと面妖な」
「なぁカンナギ、なんて言ってるんだこいつらは?」
「ああ、カタナが珍しいらしいぜ。ヒカル、何か訊きたいことあるか?」
「そうだな、まず何者で何しに来たか答えてもらおう」
「わかったぜ」
カンナギは通訳を引き受け、ジャポニカ語で質問しようとする。だが男達は彼女の顔をじっと見て、先程ヒカルが言った「カンナギ」という言葉から彼女の名前だと推測して、突然皆馬を降りて頭を下げる。
「まさかカンナギ姫様!? ご無事でしたか!」
「おいやめろ、人が見ている……こいつら大陸の人間にはアタシがあのクソ親父の娘だってことは内緒なんだよ! 頼むからやめてくれ」
「そうでしたか、失礼しました」
男達は頭を上げるも恭しい態度を取る。これを見ていたダートやアクアが下手に突っ込む前にヒカルはカンナギに追及の手を伸ばす。
「おい、カンナギ、今のはなんだ。お前、只者じゃないだろ。マサムネより立場が上の人間なんだろ? 一体何者なんだ?」
「うう……」
カンナギは言葉に詰まる。それをマサムネが庇い立てる。
「姫様にも事情があるんです、これ以上いじめないでやってください」
「よせよマサムネ、そんな言い方するんじゃねぇぜ。わかったよ、オーエドに着いたら全て話すよ……それまで待ってくれないか?」
懇願するようにカンナギは上目遣いでヒカルを見る。わずかな沈黙の後、わかったよという根負けの返事が返ってきた。
「まぁいい。それよりこいつらは?」
「ああ。お前達、何しにここへ来た?」
カンナギがジャポニカ語で問うと一人が代表して答える。
「姫様、我々はルインパコが魔王の襲撃に遭ったと報告を受けヨリヤス様の命で急ぎオーエドから調査に向かった次第。あなた方は?」
「フェニクシアで憤怒の魔王を倒した時に嫉妬と強欲の魔王がジャポニカに向かっていると聞いてカンリンマルでジャポニカに向かったんだが、途中で嫉妬の魔王に襲われて船は大破、アタシらはそこの銀髪の兄ちゃんの水を操る異能のおかげでここまでなんとか流れ着いたってわけさ」
「異能?」
「神話の英雄みたいなもんだ。そこの眼鏡の兄ちゃんと、背の高いボロ布を着た不愛想な女も魔王と戦えるだけの力を持ってる」
ヒカルにはジャポニカ語が通じないのをいいことに言いたい放題の紹介をするカンナギ。しかし勘が鋭い彼女はなんとなく悪口を言われたような気がして突っついてみる。
「なぁカンナギ、今私の方を見たが変なこと言わなかったか?」
「別に? ああこいつらだが、ルインパコの調査に来た旗本だ」
「旗本?」
「将軍の家来のことだ。下っ端の御家人は馬に乗れない身分だからこいつらはそれより上の旗本だとわかる」
「成程」
「彼らが魔王のその後の動向を知らないか訊いてみてくれ」
ダートが口を挟む。カンナギは二つ返事でいいぜと引き受けた。それから母国語で旗本達に問う。
「なぁ、魔王はルインパコを破壊してその後どこへ行った?」
「実は……ここに来る途中でレコジャの町が崩壊したという話を聞きました」
「レコジャ!? ここから北西だぜ……北に進んでるか」
「そのまま西の方に行くんですかね? ならオーエドは……」
マサムネがホッと一息つく。しかし早計であった。カンナギは注意する。
「何言ってんだ! 十中八九東に戻ってオーエドを襲うに決まってる! 最早一刻も猶予がないぜ!」
「おいカンナギ、また慌ててるのか、どうした?」
ヒカルがカンナギの肩に手を置く。今にも一人で飛び出して行きそうな彼女を落ち着かせるように。
「魔王は北西の町レコジャを滅ぼしたらしい。このままではここから北にある首都オーエドもここと同じようになっちまう、早く行かないと!」
「そうか。なら馬を三頭借りられるか訊いてみろ。お前とダートとアクアの分だ。道はわかるんだな?」
「オーエドとルインパコを繋ぐ街道があるぜ。それを通って行けば普通は二日かかるが、夜通し飛ばせば明日の昼頃には間に合うんじゃないか?」
「そうか。あとそうだな……お金も少し借りてこい」
「はぁ? なんで」
「いいだろ。姫様なんだろ、借りられるはずだ」
「ちっ、わかったぜ」
カンナギは旗本達に向かって馬と金を借りられないか交渉してみた。彼らは彼女の身分を鑑みて快諾した。
カンナギ達は借りた馬に乗る。ヒカルは先導する彼女に灯りとしてムラクモを手渡した。
「よし、アタシたちは急ぎオーエドに向かう。マサムネは皆を頼む」
「わかりました、姫様達もどうかご無事で」
四人の異能者はルインパコを発ちジャポニカの首都オーエドに向かう。北上する魔王マモンの侵攻を食い止めるべく。
レコジャよりさらに北西。暴力の嵐が吹き荒れ、また町一つ壊滅していた。
満月の空、廃墟の上に浮かぶ褐色の肌の白髪の大男のもとに一羽の人間の頭をした怪鳥が飛んで近づいてきた。
その怪鳥の顔というのがダスクにそっくりで、ダスクの声で語りかける。
「マモン、何やってる?」
「あ? 見てわからないか? 目につく街をぶっ壊してまわって、ジャポニカ人を殺しまくってるぜ。これでいいんだろ、大将?」
魔王マモンはダスクの使い魔に答える。だが彼の主は使い魔を通して叱る。
「おい、首都オーエドに向かえと言ったはずだ。西に進んでいるぞ。今すぐ東へと転身しろ」
「ゴチャゴチャうるせぇなぁ、俺に指図しやがって、殺」
「マモン、よく聞けよ。レヴィアタンが殺られた」
「何だと!? 海上であいつが負けるなんて……だが如何なる能力者も俺の敵じゃあねぇな~」
「油断するなよ。レヴィアタンを仕留めたヒカル・シルバーソードにはどうも剣を使って遠距離攻撃ができるらしい」
「なんだそりゃ」
「よく知らん。多分ソニックブームを起こしているんだと思う」
「わからん言葉を使うんじゃねぇよ」
ダスクは古代文明の知識を学びつつあった。しかし未知の用語にマモンは余計困惑するのであった。
「ヒカル一行もオーエドに向かうだろう。必ず」
「始末すればいいんだろ」
先程言葉を遮られたのを根に持ってやり返すマモン。
「わかってるならいいんだ。いいか、いくらお前が強いからって油断はするなよ」
ダスクの使い魔はそれだけ言うと飛び去ろうとする。だが急に地面に引き寄せられるように墜落し、ぐちゃっと潰れて動かなくなった。
「二度も同じこと言うんじゃねぇよ、ムカつくな~俺が負けるとでも思ってんのか舐めやがって~ダスク・ルシウス、いつか必ず殺してやるよ。だがその前に……」
マモンは東の空へ向かって飛ぶ。彼もまたオーエドを目指す。この殺戮の台風が通った後に残されるのは無数の廃屋と屍。
最多の異能を持つ強欲の魔王。果たしてヒカル達はこの怪物を止められるのか。
次回「強欲の魔王マモン」




