第二十二話「いざジャポニカへ」
魔王ベルゼブブとの死闘を制した後、統制を失った魔物達をヒカル達は手分けして狩り尽くした。大半の魔物はアスタロトなどの新たなリーダーに率いられて撤退していたため、フェニクシア軍の残存戦力で抑え込めた。
残党狩りは夜になるまで行われたが、概ねザクス内から敵勢力を駆逐し、念願の首都奪還を果たした。生き残った若き志願兵達は歓喜に湧く。将軍達も祝杯を交わした。
だが嬉しがると同時にかつて70万人住んでいた大都市が誰もいない死の町になった現実を目の当たりにし、そしてこの戦いで戦友を失った傷はあまりにも深く、冷たかった。悲しみに襲われそうになるのを耐えながら喜んでいるのだ、彼らは。そうでもなければやりきれない。
ヒカルはダートとアクアに次は大陸の外の異国が狙われており、ジャポニカも時間の問題だと伝えた。その上で一緒にジャポニカに行って魔王を倒さないかと提案した。
「魔王をこのまま放置できないだろ。どうなんだ?」
「実はフェニクシア臨時政府はジャポニカから資金提供を受けている。今回のザクス奪還作戦でも間接的に協力してもらった。ジャポニカを守ることは我が共和国復興のためにもなる」
「そうか。なら」
「待て、我々が動くにはラファイエット総理の判断を仰がねばならん。一度臨時政府のあるジイラングに戻って訊いてみよう。ジャポニカに向かってよいかを。どの道戦勝を報告せねばならんしな」
「ジイラングってのはクテフソノトの港に近いのか?」
ヒカルとダートの会話にカンナギが割って入る。この質問にアクアが答えた。
「南部の都市ですから少し道を逸れますがザクスよりは近いですよ」
「ならさっさと許可貰ってみんなで港に行ってジャポニカに行こうぜ」
「船はあるのか?」
ヒカルが問う。これにダートが眼鏡の位置を正しながら答える。
「フェニクシア海軍の船はほとんどレヴィアタンに沈められた。しかしあるにはある。ちょうどジャポニカから蒸気船が来て停泊しているんだ。それを使おう」
「カンリンマルか!?」
「カンナギ、知ってるのか?」
思わず反応してしまったカンナギだったがヒカルに訊かれてしまったと思い目を泳がした。
「べ、別に、アタシの勘違いかもしれないぜ」
「嘘つけ。絶対知ってるだろ」
「幕府がトータシアの技術者を招いて作らせた軍艦だよ。蒸気船で運搬船として使えるのはアレくらいだからな。まぁジャポニカ人なら誰でも知ってるぜ、有名だからな。別にアタシが特別詳しいわけじゃないからな」
最後のは嘘だった。ヒカルは怪しむがそれ以上追及はしなかった。
ダートらはザクスをノブレス将軍達に任せ、少人数でジイラングの町に向かう戦勝報告隊を編成した。
出発の前、ヒカルのもとにゲルが来た。彼は報告隊に加わってはいなかった。
「ボス……本当はどこまでもボスについて行きてえ……けど怖いんです……俺には魔王と戦う力はない……ジャポニカに行っても足手まといになるだけだってわかってるんです……すんません」
「気にするな。お前はお前でできることをやればいい」
「俺はキョウサイの町に戻ってザクスを取り戻したことを元ゲル団の仲間や町の人に教えてやりたいと思ってます。そして個人的にボスが言ってたルシウス神兵団って連中の動向を探ってみます」
「それは助かる。何かわかったら教えてくれ」
「ではボス……お元気で」
「お前こそ命を大事にしっかりやれよ、ゲル」
ヒカルはゲルの頭を撫でてやった。彼は少し気恥ずかしかったが嬉しく思った。
「そうだ、ゲル、ザクス奪還作戦中はセイラの遺体を守ってくれてありがとう」
セイラの頭部・右脚に左腕を加え重くなった風呂敷の包みを背負い、ヒカルは感謝を伝えた。
「そんなの、当然のことをしたまでですよ……俺はボスの力になりてぇんですよ」
「何故そこまで私のために尽くす?」
「決まってるじゃないですか、俺、俺……ボスに惚れてるんです!」
ゲルは内に秘めていた思いをぶちまけた。ヒカルは困った顔をするがやがて微笑んで言った。
「すまない。私には今でも好きな人がいるんだ」
「そうですか……でも俺、ボスのために働こうという気持ちは捨てませんから」
そう言ってゲルは目を上腕で覆ってその場を足早く去った。顔と腕の隙間から涙が零れ落ちていた。
入れ替わるようにしてカンナギがやってきて言った。
「さっきゲルとすれ違ったけど何かあったか?」
「別に」
「いや、絶対なんかあったぜ。アタシの目は誤魔化せない」
カンナギはヒカルの目の前で仁王立ちする。だが対する彼女は呆れた目をしていた。
「あのなぁ、大人の事情を詮索しようとする子供は嫌われるぞ」
「おい! 子供扱いするんじゃねぇぜ!」
怒りを露わにするカンナギ。しかしヒカルは冷ややかだ。
「だってどう見ても子供じゃないか。その小さい体。小さい胸」
「人の気にしてることをずけずけ言いやがって! 絶交してやるぜ!」
「いいのか? 絶交したらジャポニカには行ってやらんぞ」
「はぁ!?」
カンナギは思わず大声を出した。
「そんなの、ありえないだろ……アンタが仇を見逃すわけないよな? 冗談キツイぜ」
「まぁな。今のは冗談だ。奴ら魔王は必ずこの手で殺す。奴らがジャポニカに向かうというのならそこが奴らの墓場だ」
強い決意をヒカルは口にして、カンナギは安心してほっと息を吐く。
「頼りにしてるぜ相棒」
カンナギはヒカルの肩を軽く叩いた。
戦勝報告隊はザクスを出発して三日目の昼にジイラングの町に到着した。この三日飛ばしてきた馬達はすっかりくたびれて赤く色づいた紅葉の並木道を歩く。その脇には町の人が集まって彼らを歓迎していた。
ダートら報告隊は臨時政府が使っている元貴族の屋敷の前に到着すると、中に入っていった。ヒカルとカンナギもひとまずついて行くが、報告するので客間で待つようにとアクアに言われ別行動をとることになった。
ダートはネルソン前首相ら旧閣僚が全員ザクスで死んだことで新たに大臣となった臨時政府の閣僚の面々の前で告げる。
「ザクス奪還作戦を実施し、四聖のフレイ・ポルトスを含め3580人の犠牲を払いましたが魔王ベルゼブブを倒し、ザクスの奪還に成功しました」
おおっという歓声が上がる。ラファイエット首相は拍手して立ち上がった。
「よくやってくれた。フェニクシア全国民を代表して礼を言う」
「光栄であります」
「君がベルゼブブを倒したのかね?」
財務大臣が尋ねた。ダートは首を横に振る。
「いえ、フレイのおかげでもありますが、討ち取ったのはヒカル・シルバーソードという者です」
「ヒカル・シルバーソード?」
「確かタイガニアの内乱を一人で鎮めたとか……あの剣聖ブッテツ・タイラをも倒したとか噂されている剣士の……」
「ドラゴニアの王女を連れて我が国に入ってきたことがあったじゃないか」
ヒカルの名前が出ると場がざわつく。ラファイエット首相が静粛にと言うと静まった。そのタイミングでダートは話し始める。
「ヒカル・シルバーソードはすでに魔王アスモデウスを倒しており、我々と協力して魔王ベルフェゴールも倒しました」
「なんだって!」
一同驚く。彼らにとって人知を超えた恐るべき存在である魔王がすでに半分倒されていたなんて、信じ難いことだった。
「彼女は唯一魔王に対抗できる手段を持っている存在と言えます。今後も我々は協力関係を維持し残りの魔王を倒しフェニクシアの安全を確保したいと考えます。つきましては、ベルゼブブが死の間際に残りの魔王が南洋諸島を攻め、次は西洋、最後に東洋のジャポニカを滅ぼすと言っていまして、私とアクアは彼女と共にジャポニカに向かい魔王を迎え撃ちたいと思っています。ジャポニカは魔王復活以来援助を続けてくれている重要な交易国。ジャポニカを守ることはフェニクシアの利になると考えます。どうかご検討のほどよろしくお願いします」
ダートは頭を下げた。彼がこんなことをするのは珍しいことだった。本心ではヒカルらと共に魔王を倒しに行きたいことの表れだった。
「うむ。皆、どう思う?」
「私は賛成だ。ジャポニカは今でも資金援助してくれているしここで恩を売っておくと復興のためにもっと金を出してくれる。奴らは情に流される民族だからな」
そう言ったのは外務大臣だ。しかし陸軍大臣が手を挙げて待ったをかける。
「いいや、私は反対だ。四聖は我が国の重要な戦力だ。ベルゼブブを倒したからといって安心はできまい。今四聖に国外に出られては困る」
その意見に頷く者も何人かいた。議論はやがて白熱する。二時間ほど話合われたところで採決を取られた。
結果は賛成が過半数を占め、四聖のジャポニカ派遣が決まった。
「それではクテフソノトに停泊しているカンリンマルへ指示する書類を作成する。ダート、アクア、今日は休め」
「はい」
「そうします」
ダートはアクアを連れて会議室を出た。そして待ちくたびれた様子で口を開けているカンナギと黙って目をつむっているヒカルのもとへやってきて報告が終わったことを告げた。
「やっとかよ……遅すぎるぜ」
「そう言わないでください。私達がジャポニカに行っていいか皆で議論していたんです」
「で、結果は?」
ヒカルは目をつむったまま尋ねる。ダートがジャポニカに行くことが決まったと教えるとやっと目を覚ました。
「やったぜ! じゃあ今から行くんだな!」
「いや、書類の手続きがあるから明日以降になる」
「なんだよそれ、ふざけてんのか?」
カンナギがダートの胸倉を掴む。しかしそれをヒカルが彼女の腕を掴んで振り解かせた。
「やめておけ、こいつらにはこいつらの事情がある。冷静になれ」
「一刻の猶予もないんだぜ! 明日には自分の国が滅んでるかもしれねーってのに冷静でなんかいられねーぜ!」
カンナギの目からは涙が零れていた。だが容赦なくヒカルは正論をぶつける。
「船を動かすには許可が必要だ。結局こいつらの協力がなければ私達はジャポニカにも辿り着けない。わかるだろ。気だけ急いたってどうしようもないんだ」
「クソみたいな大人の理屈だぜ……」
カンナギは不貞腐れる。あーあとアクアは肩を竦めた。
「ヒカル、言い方というものがあるんじゃないですか?」
「こいつに甘えた子供騙しをする方が心象悪い。遠慮したくないんだよ」
ヒカルは腕を組んでじっと涙を拭うカンナギを見ていた。
それからヒカルとカンナギの二人はダートらに案内され、フェニクシア軍の兵舎に泊まった。
翌日の昼まで二人は待機していたが、ダートとアクアが臨時政府のラファイエット首相からジャポニカの船カンリンマルへの乗船許可などの手続きの書類を持って戻ってきたので、すぐに馬で港町クテフソノトへと向かうことになった。
「よし、やっとジャポニカに行けるぜ」
「ああ。この大陸中旅したがジャポニカには行ったことがない。船に乗るのは初めてだ」
「そうなのか? ヒカル、ジャポニカはいいところだぜ。魔王を倒し終わったらジャポニカに移住しないか? 歓迎するぜ」
「考えておく」
そう言いつつ、ヒカルは魔王を倒しセイラを弔った後自分がどうするかなんて全く考えたことがなかった。なんとなく復讐を果たせば自分は死んでもいいと思っていた。
でもそんな考えじゃきっとセイラに怒られるな……とヒカルはぼんやり思った。
ザクスを奪還したことはもう街中で知られていた。大歓声を浴びながら四人は通りを抜ける。
「ありがとう!」
「頑張れよー」
「魔王を倒して世界に平和を取り戻してくれ」
人々の感謝と期待を背にして一行はジイラングの町を後にした。
四日後の空が赤くなり始めた頃、ヒカル達はクテフソノト港の波止場に着いた。潮風が吹いて磯の香りが鼻をツンとついた。カンナギは嬉しそうにする。
「久しぶりだぜ、最初にここに来た時はまだ春だったなぁ。ともかくやっとジャポニカに行けるわけだな、蒸気船なら二十日もかからないはずだぜ」
「そうなのか」
「カンナギの言う通りだろう。あれが私達の乗る船、カンリンマルだ」
ダートが向こうに停泊している大きな黒い船を指差す。船の近くには赤髪のフェニクシア人と黒髪のジャポニカ人の男が話をしているのが見えた。四人が歩いて船に近づくと、突然カンナギがげっと声を出した。近づいてみるとジャポニカ人の男が知り合いだとわかったからだった。
ジャポニカ人の男もカンナギに気付いて、大声で駆け寄る。
「姫様ー! ご無事でしたか! 迎えに上がりました!」
「おい、マサムネ、ちょっと耳貸せ」
カンナギはジャポニカ語で言って知り合いの男の服を引っ張り、背丈を合わせるようしゃがませた。それから耳打ちする。
「人前で姫様とか言うな、ジャポニカ語だからわからないだろうけど……アタシの素性は大陸の人間には内緒にしてるんだよ」
「なんで内緒にしてるんです」
マサムネもまたカンナギに耳打ちする。
「バレたらやりにくいだろ、色々と……」
「ああ、御父上には内緒で家出していますものね……」
「おい、何コソコソやってるんだ。カンナギ、知り合いか?」
ヒカルが見かねてカンナギの頭に手を置いた。慌ててマサムネをフェニクシア語で紹介する。
「ああこいつはマサムネ、親戚のおじさんだ。なぁマサムネおじさん?」
「そうです姫……じゃなくてカンナギ」
「ふーん」
ヒカルは見え透いた嘘だと思ったが、ここで追及しても話がややこしくなるのでやめておいた。
ダートはマサムネに話しかける。
「マサムネといったな、私はダート・アトス。ラファイエット総理直属の異能者、四聖の一人だ。カンリンマルの艦長にお目通り願いたい。艦長は船に?」
「ああ、いますよ。案内しましょうか? カンナギもいることですし」
「頼む」
「そうだぜ、マサムネも船に乗った方がいい。すぐ出航することになるから」
「え?」
マサムネはカンナギの言っている意味がよくわからなかった。ひとまず四人をカンリンマルの船内へ案内する。
艦長室の扉をノックしてマサムネは呼びかける。
「ヨシクニ艦長、マサムネ・ホンダです。フェニクシアのラファイエット首相の使者が来ています。通してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ中へ」
低い男の声が返ってきたのでマサムネは扉を開けて四人の客を室内に通した。中にいた帽子を被ったジャポニカ人の年配の男が手を差し出す。
「カンリンマル艦長、ヨシクニ・トウゴウです」
「ラファイエット総理直属の異能者四聖の一人、ダート・アトスだ。よろしく」
ダートがヨシクニ艦長の手を握った。アクアも手を差し出す。
「同じく四聖の一人、アクア・アラミスです。お会いできて光栄です、艦長」
アクアと握手する際中、ヨシクニは残りの二人のジャポニカ人の少女とジャポニカ人の血の混じった女に目が行っていた。
「あなたは目が黒いようだが、ジャポニカ人を親に持っているのか?」
「私はヒカル・シルバーソード、先祖がジャポニカ人というだけでジャポニカには行ったことがない」
「そうか、失礼。そちらのお嬢さんは?」
ヨシクニは尋ねるがカンナギは黙ったまま自己紹介しようとしない。自分の名前を出せば流石に正体を悟られるからだ。不審に思ったヒカルが代わりにその名を口にした。
「どうしたカンナギ、何故黙っている」
「カンナギ? そちらの方は、まさかあの!」
すると素早くマサムネがヨシクニに耳打ちした。カンナギの置かれた状況を悟って慌てて弁解する。
「いや、人違いのようでした。カンナギという名前はジャポニカの女性にはよくある名前でしたので……失礼、それで何用で」
「こちらの書類に目を通していただきたい」
ダートがラファイエット首相から預かった書類一式をヨシクニに渡す。それを読んでいくと彼はみるみる青ざめていった。
「何が書かれているんです?」
気になってマサムネは覗き込む。そして文面を見て戦慄した。そこには彼らの祖国が魔王達に狙われていることが記されてあったのだから。
ヨシクニは書類を読み終え、大きな溜息をついてから言った。
「状況は理解しました。あなた達の乗船を許可し、今すぐ船を出航させます」
水平線に太陽が沈まんとする夕闇の中、錨を上げてカンリンマルが旅立つ。長い航海の始まりだった。
クテフソノトを発ってから三日経った。カンリンマルは6ノットの速度で海上を進んでいた。青空をカモメがひらひらと舞う。季節は冬に近づいていて風が冷たかった。
しかしヒカルは甲板にいて風に当たっていた。手すりに掴まり、青い顔をして具合悪そうにしている。そこにカンナギがやってきて声を掛けた。
「こんなとこにいたのか。まさかアンタが船酔いするとはな」
「言っただろ、船に乗るなんて初めてだとな。気持ち悪い……あと何日でジャポニカに着く?」
「十五日くらいじゃねえのか? 冷えるし部屋に戻ったらどうだ?」
「外の方が酔いがマシだって聞いたんだよ」
「そうなのか。まぁあと十五日もあるなら慣れるだろ」
「そう祈りたいね」
「初日みたいにもう吐くなよ」
「わかってる、放っておけ」
「そうはいかねぇぜ。話し相手がいないとアタシがおかしくなっちまう」
カンナギはジャポニカが魔王に襲われると知って以来精神的に参ってしまっていた。少しでも気を紛らわせておかないと頭がどうにかなりそうだと思って積極的に話しかける。
「なぁ、この際訊いておきたいんだが、本当のところセイラって人のことどう思っていたんだ? 一緒に旅した大事な人だったってのはわかるけど、愛してたってのは……アンタは女だろ、比喩じゃないのか?」
「ああ……」
ヒカルはそんなことを訊かれるとは思わなかったので少し戸惑ったが、正直に話すことにした。
「私は男より女が好きなんだ。セイラのことを本気で愛していたんだよ。今でもあいつのことが好きだ」
「そうか……そりゃ辛いな……」
面食らうかと思いきや、カンナギはヒカルが愛するセイラを失った悲しみを想像して沈痛の表情を浮かべた。その上で彼女はこうも言った。
「でも復讐が終わったら、他の女を好きになってもいいんじゃないか? いつまでも引きずっていたら幸せになれないぜ」
「私の幸せなんてどうでもいいんだよ!」
珍しくヒカルは声を荒げた。その後ですまないと謝る。
「今は……セイラ以外の女のことは考えられない……」
ヒカルの視線は水平線の彼方にそそがれた。カンナギは今は彼女をそっとしておいた方がいいと考え室内へと引き返した。
航海十八日目の明け方、ジャポニカの港町ルインパコはもう目と鼻の先まで迫っていた。
しかし急に海が荒れ狂いだし、高波が船を襲う。揺れに揺れて、気持ち悪くなってヒカルは口を押さえる。
「堪ったもんじゃないぞ……」
ヒカルはセイラの遺体を包んだ風呂敷を背負い、外の様子を見に甲板に向かう。するとカンナギと鉢合わせした。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと表を見てくる」
「アタシも行くぜ。この時期に海が荒れるなんて絶対おかしい」
「そうなのか?」
ジャポニカの事情に詳しくないのでヒカルはカンナギの言うことが本当かどうか判断しかねた。
二人は甲板に出る。すると四聖の二人も来ていた。
「お前らも海の様子を見に来たのか?」
「ええ。こんなに荒れているとは……」
「アクア、お前の異能でなんとかならないか?」
「無茶を言いますね。この広大な海を支配できるほど私の異能は万能ではありません」
アクアが前髪を掻き上げる。その時だった。後ろで巨大な海蛇が船底を突き破ってカンリンマルを真っ二つにした。
「何!?」
盛大に水飛沫を上げて嫉妬の魔王レヴィアタンが姿を現した。
次回「嫉妬の魔王レヴィアタン」




