6. 自分のせいだろっ!
隊外構成員と桜の模擬戦が始まってから二時間、この時点でもはや時男、雛、響斗以外の構成員たちは全員意識を失っていた。
「はあっはあっ。響斗、俺もう動けねえよ。あの人なんて、はあっはあっ、みんな相手にもっと動いてんのに、なんであんなに涼しい顔してられんだ? 人間の次元を超えてんだろっ」
肩で息をする時男が、汗一つかいていない桜を見据えながら響斗と話す。
「はあっはあっ。確かに、そう思いたくなる気持ちも分かるな。あのタフネスは異常だ」
「だよなあ。ありえないぐらい綺麗な顔してるし。まったく、女神かよっ」
――ポッ――
「なぜ、はあっはあっ、そこで顔を赤くする? まあ、そうなる気持ちも分かるが……」
「だろ~~~っ」
二人は、顔を見合わせて口角を上げた。
「はあっはあっ。二人とも喋る元気があるのね。ならもう一回、三人で一斉にかかるわよっ」
雛が時男と響斗に声をかけ、ふらふらの体で構える。
「はあっはあっ。ラジャーっ!」
「ふっ。了……なっ!?」
時男に続いて響斗も返事を返そうとしたが、途中で言葉が止まった。
「よっ、よっ」
目の前で、桜が腕立て伏せを始めたからである。
「……くっ、もはや常軌を逸している。何より、俺たちをバカにしすぎだーっ!!」
――ダッ!――
桜のあまりの傍若ぶりに、響斗はカッとなって飛び出した。
「ちょっ、響斗!」
「くっ、アタシたちも行くわよっ! 三方向から攻める!」
同時に攻撃を仕掛けようと、時男と雛も響斗に続く。
「うおおおっっっ!」
三人が咆哮を上げながら、桜に殴りかかった。
「ふふっ。十代の頃ってすぐ挑発に乗っちゃうのよねえ」
――タッ――
桜が腕立ての姿勢から倒立し、そのまま両腕の力だけで軽やかに回転に移る。
――バシッ! バシンッ! バシィッン!!――
その流れに乗ったまま、連続で三人に蹴りを放った。
「うがっ!」
時男も他の二人も、声を上げてふっ飛んでいく。
――タッ、スタッ――
桜は腕をバネにして跳ね起きると、倒れ伏した三人を見据えた。
「まっ、こんなもん……おっ?」
――フオォォンッ!――
桜が話そうとすると、倒れた響斗の体から勢いよく巴が出現する。
『よくもここまで響斗をーっ! もう我慢できんっ! 走れ言霊、業火剛球!』
叫びながら、桜に対しいきなり咒文を発した。
――ボゴオォォォォッ!!――
サッカーボールほどの火の玉が、桜を目掛けて飛んでいく。
「はあっはあっ、すげえっ。茂左衛門の鼻クソ火の玉と全然違う……」
時男は倒れたまま、顔だけ上げて呟いた。
「う~ん、それはルール違反ね。しゃあない。道山、お願い」
桜が冷静に自身の守護霊を呼ぶ。
――フォォォンッ――
すると、桜の前にレスラー姿のたくましい守護霊が現れた。
『やれやれ。ふんっ!』
飛んでくる火の玉に合わせ、道山が拳を振る。
――ボギャアァァーーーーンッ――
道山の拳は、いとも簡単に火の玉を叩き割った。
『なっ、あれを素手でっ!』
巴が口を大きく開いて驚く。
『巴さんといったか。あなたは強い武士のようだが、今回は諦めなさい』
『なにっ!?』
道山が話しかけると、興奮冷めやらぬ巴が道山を睨みつけた。
『巴さんの宿主と桜では、魂力が違いすぎる。それでは巴さんの実力の十分の一も出せんだろう?』
『それでもアタシはっ……』
『宿主とともに強くなったら、また来なさい』
『……っ』
道山の言葉に、巴が悔しそうに俯く。
続けて、後方から響斗も巴を宥めた。
「ここは退いてくれ、巴。俺なら大丈夫だ」
『……で、でも悔しいじゃねえかっ。自分の宿主がやられたままなんてっ』
「その愛情は、ちゃんと受けとっておくからさ」
『あっ、愛情じゃねーし』
「これから、もっと二人で努力していこう」
そう言って、響斗が力ない笑みを見せる。
その笑みを見ると、巴からスッと怒気が抜けていった。
『……ったく。気が削がれたから戻ってやる』
――フォォォォン――
巴が、軽くため息をつきながら響斗の体内に入っていく。
それを見届けると、道山も桜の体に戻っていった。
「宿主思いの良い守護霊じゃない。今の女武者さんも、密かに雛ちゃんから飛び出そうとしてた武士の守護霊さんも」
桜が巴と蘭丸を褒め称える。
(……参ったな。それもお見通しだったとは。まだまだ、この人には敵いそうもないね、雛)
(そうね。でも、それよりもさ、あの桜さんに名前を覚えてもらえたっ! すっごく嬉しい!)
蘭丸と雛は、念話で清々しく言葉を交わした。
一方で、時男も茂左衛門に念話で話しかけている。
(おいっ、茂左衛門! てめえも宿主を心配して出てこい! 二人とも褒められてんじゃねーかっ!)
(ぐ~、ぐ~っ。ふがっ。ぐ~、ぐ~っ)
茂左衛門からは、イビキしか返ってこなかった。
「てんめえ~っ。こんなときにまで昼寝かよっ。守護霊の風上にも置けねえ~っ」
苛ついた時男が、拳を握りながらつい声を上げてしまう。
「あははははっ。あんたの守護霊は面白いね~っ!」
時男と茂左衛門の念話を察したのか、桜は大声で笑った。
「そ……そうっすか。は……はは。なんせめちゃくちゃ弱っちい守護霊でして……」
時男も合わせて笑うが、恥ずかしさが勝っている。
「ふ~ん。弱っちいか~。う~ん、それって、あんたが未熟だから彼が力を出せてないだけじゃなくて?」
「……えっ?」
「禅尚さんが与えてくれる守護霊って、運命の相手のように宿主を強くしてくれるはずよ」
「……運命の相手」
「もしあんたが自分の守護霊を弱いと思ってるなら、それはあんたの責任かな」
「……っ!」
その言葉を聞くと、時男はハッとして息を止めた。
(……俺の……責任? 確かに俺は、弱いのを茂左衛門のせいだけにしてた。自分のせいだなんて考えたこともなかった)
桜のたった一言に、時男は叩き起こされたような気分になる。
(そう……だよな。自分が努力しないで、何あいつのせいにしてんだよっ)
そのまま、その場で固まってしまった。
怒りにも似た感情が、心に噴き出る。
(結局全て……自分のせいだろっ)
俯きながらも、時男の目つきが微かに変わった。
その顔を見て、桜が微笑む。
「まっ、とにかくだ、強くなりたいなら自分からってことよ。ってことで今日のレクチャーはおしまいっ! テニスコート一万周よろしくっ」
――パシーーーンッ!――
時男の肩を強く叩くと、桜はテニスコートを出ていこうとした。
「あ……ありがとうございました!」
時男、雛、響斗の三人が、急ぎ立ち上がって頭を下げる。
「それとっ!」
時男だけは、感謝のあとに言葉を続けた。
「桜さんっ……恋人いますかっっっ!?」
「えっ?」
――バシーーーンッ、バシーーーンッ――
すぐに雛と響斗に頭を殴られる。
「……恋人ねえ」
桜は、呟きながら足を止めた。
「あっ、いや桜さん、このバカの質問に真面目に答えなくていいですからっ! 身の程知らずなんで、本当にすいませんっ!」
斜め上を見ながら考える桜に、雛が焦りながら謝る。
「いるわよ」
「えっ!」
思いがけない桜の明言に、雛だけでなく三人とも動きを止めた。
桜が天を見上げて呟く。
「ずっとずっと、大好きな恋人がいるわよ」
桜の心が見つめる先、それが誰なのか三人には分からなかったが、その時の桜の笑顔は、本当に女神のように見えたという。
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二番隊の紅一点、神咲桜が活躍する「守護霊の王」も、ぜひご一読ください。




