5. アフリカンジョークって何だ?
「えっとー、知ってる顔も何人かいるけど、知らない顔もいるから自己紹介しとこっか。二番隊の桜よ。よろしく」
隊外構成員たちを全員集めると、桜はそう言って話し始めた。
「色々考えてきたんだけど、やっぱり、まずはみんなの実力を知りたいかなあ。というわけで、模擬戦しよっ。みんなでアタシにかかってきて」
「えぇっ!?」
いきなりの桜の言葉に、皆が一斉に驚く。
「アタシに一度でも尻もちをつかせたら、みんなの勝ちにしよっか。みんなが負けた場合、そうだな~、ここを一万周でいいわ」
「ええぇ!?」
当然のごとく、またも皆が驚きの声を上げた。
「一万周って……本気なのかしら……」
「ギャグマンガでしか聞いたことのない数字だ……」
雛と時男が唖然としながら呟く。
「時間は無制限。順番に来てもいいし、一気に来てもいいわよ。アタシが疲れてきたらチャンスかもね。あっ、守護霊を出すのはナシね」
ニコニコしながら話す桜に対し、構成員たちは戸惑いの色を隠せずにいた。
(こちらは二十人近くいるんだ。いくら隊員といえど、かなり不利な条件なはず。なのに、なぜあんなに余裕でいられるんだ?)
考えながら、響斗が訝しげに桜を見据える。
「じゃあ、始めーっ」
そんなことはお構いなしで、桜は模擬戦を始めた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。女性相手にこれだけの人数でかかるなん……っ!」
――ドゴォォンッ!! ガシャァン!!――
諌めようとした響斗が桜の掌底をくらい、テニスコートを囲む金網にふっ飛ぶ。
「始まったんだから、油断しないこと。それにそういう言葉は、強くなってから言おうね~」
桜が響斗を見下げながら口角を上げる。
「お……おい……。今の見たか? つーか見えたか?」
「いや……全く見えなかったわ。響斗がふっ飛んでから、やっと何が起きたか分かった……」
時男と雛は、青ざめながら言葉を交わした。
「ぐっ」
二人が見守る中、響斗が立ち上がる。
「承知……しました。だけど、今のが俺の実力だと思わないでくださいよ。ちょっと油断しただけですから」
そう言うと、今度はしっかり戦いの構えをとった。
「ふ~ん、油断ねえ。油断してても、あれぐらい避けられないと」
「なっ……」
「例えば~、あっ、あそこに良いお手本がいたわっ」
桜がテニスコートの端っこに誰かを見つけて、声を上げる。
それは、激しい訓練に疲れ、たまたま昼寝をしている小柄の男性隊員だった。
「知ってる人もいると思うけど、あれは三番隊の巫月光よ。あなた達とそんなに歳は変わらないけど、生意気にもあの若さで隊長なのよね。あいつなら油断してても、さっき程度の攻撃は必ず避けるわよ。見てなさい」
そう言うと、桜は足元に落ちていた石を拾って振りかぶった。
「うおりゃあぁぁぁぁっ!」
――ビュオッッッッ!!!!――
そのまま、剛腕を唸らせて石を巫月に投げつける。
「うおっ、あんなの当たったら死ぬ!」
猛烈な勢いで飛んでいく石を見て、時男が思わず声を上げた。
即座に巫月がパチッと目を開く。
――ダッ!――
巫月は起き上がりざまに地面を蹴り、石の軌道から側方に逃れた。
「すっ、すごい! 寝起きの一瞬で回避行動に移った」
雛が賛辞の声を上げるが、ここで投げられた石が意外な動きを見せる。
――ギュウォンッ!!――
なんと逃げた巫月のほうに曲がっていったのだ。
「カ、カーブっっっっ!?」
――ガコーーーーンッッ!!――
叫んだ巫月の顔に石が直撃する。
「んがっ!」
巫月は、その衝撃で背中から地面に落ちた。
「よしっ!」
それを見届けると、桜がガッツポーズをして皆のほうに顔を向ける。
「見た? あれが優秀な霊能者の反応よ。みんなもあれぐらいにならなくちゃ……ん? みんな静かになっちゃって、どしたの?」
「……いや、確かにあの人すごい反応したけど、その後やられちゃったじゃん。いくらなんでもカーブって……」
時男をはじめ、皆が苦笑いを見せた。
「いや、それはさあ、やっぱり躱されると悔しいじゃん。だからついね~」
「あんたは鬼か!?」
時男がツッコむと、桜がペロッと舌を出して笑みを見せる。
そうこうしているうちに、巫月がふらっと起き上がった。
「いっ、痛たたっ。な、何だったんだ? 何で突然石が飛んできたんだ?」
状況が分からず周りを見渡す。
「ほらほらっ、みんなあの巫月の余裕の姿を見て。魂力をいつでも体に流してると、ああいうふうに頑丈でいられるのよ。それを教えたくて、あえて当てたのよ~」
桜が言い訳をしていると、巫月がすぐに桜に気づいた。
「あっ、やっぱり桜さんかーっ! 何するんですかっ! もうちょっとで脳しんとう起こすとこだっでしょ! 下手すれば死んでましたよ!!」
巫月が怒りの剣幕で遠くから怒鳴りたてる。
「……あの……死にそうだったとか言ってますけど……?」
「ん? いーのいーの。あれは、あいつなりのアフリカンジョークだから。さっ、巫月は無視してこっちの模擬戦を再開しましょっ」
時男に答えると、桜はさっさとまた構えをとった。
「雛、アフリカンジョークって何だ?」
「知らないわよっ。そもそもあれ冗談言ってる顔じゃないしっ。とにかく、あんたも構えなさいよっ。そうしないと巫月さんみたいになるわよっ」
「確かにっ!」
雛に続き、時男も焦りの表情で構える。
そうこうしているうちに、覚悟を決めた構成員二人が、桜の両サイドから攻撃を仕掛けた。
「うおーっ!」
――ヒュッ――
二人の拳が桜に余裕で躱される。
避けた瞬間、桜は両腕を広げるように左右に掌底を放った。
――ドゴーーンッ! ガシャンッ! ガシャアンッ!――
掌底をくらった二人が、簡単に金網にふっ飛ばされる。
「俺たちも行くぞ! やるしかねえ!」
それを機に、時男と雛も桜に攻撃を仕掛けた。
「ぬありゃっ!」
「やあっ!」
跳躍した時男が桜の頭上から拳を放ち、雛のほうは桜の懐に潜り込んで下段蹴りを放つ。
「あら、いいコンビネーション。でもっ」
桜は、口角を上げながら反撃にでた。
――バゴォーーーーンッ!!――
「きゃあっ!」
まずは、雛の蹴りが桜の蹴りによって弾き返される。
桜は蹴りを蹴りで返したのである。
(ぐっ。くそっ、簡単に蹴り負けたっ。めちゃくちゃ足が痛いっ)
雛が痛みで片膝をついてしまう。
――ゴギンッッ!!――
次に、時男の拳が桜の頭突きと衝突した。
「ぐあぁぁっ!! 鉄みてえだっ!」
攻撃を仕掛けた時男のほうが、先に拳を引っ込める。
「くそっ、手の骨がぁっ!!」
あまりの痛みに、時男は痛めた手をもう片方の手で押さえながら蹲った。
「今のは良かったわよっ! でもすぐ立つ! 早く次の攻撃に入りなさい! 止まっちゃダメ!」
攻撃の手を止めた二人に、すぐさま桜の厳しい指導が入る。
「くっ、はいっ!」
「ぬああっ! うっす!」
二人は立ち上がって、再び桜に向かっていった。
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三番隊の隊長、巫月光が活躍する「守護霊の王」も、ぜひご一読ください。




