3. 才能あんじゃねーの?
『ぬぉぉぉぉっっ!』
咆哮を上げながら、茂左衛門の全身が二倍三倍と巨大化していく。
「茂左衛門、お前こんな力があったのかよっ!」
『ふぅぅぅぅっ!』
最終的に、身の丈10メートルほどの巨人と化した。深く息を吐きながら、悪霊を睨みつける。
『こっ、これはっ……』
この巨大化には、悪霊も度肝を抜かれた。
『こうなったら力加減なんてできねえぞ』
体と共に巨大化した鍬を、茂左衛門が振り上げる。
『ま、待て待て待て待て! そんなのズル……っ』
『うるせぇ!! うらぁぁぁっっっ!!』
悪霊が言い終わる前に、鍬を一気に振り下ろした。
『やめろぉーーっ!!』
「やっちまえぇぇぇぇっっ!!」
時男が、悪霊の言葉を否定するように叫ぶ。
――ゴゴォォォォォォォンッッ!!――
時男の言葉に呼応するように、鉄槌と化した鍬が地上に打ち込まれた。
夜中の公園に、勢いよく砂煙が舞う。
(くっ、すごい。こんな力があったのね、時男たち!)
雛は目を細めながら、砂煙の中心を見据えた。
(今の一撃が当たっていれば、いくらあの悪霊が強くても……)
視界が良くなってくると、時男たちが目に入る。
『なん……でだよっ……』
「ちくしょおっ!」
茂左衛門は元のサイズに戻っており、放心状態となっていた。
時男のほうは、地面を叩いて悔しがっている。
(まさか……)
雛の顔が嫌な予感で青ざめる。
『はあっはあっ、残念だったなあ! 当たらなければ、どうってことないわ!』
その予感どおり、悪霊はギリギリで茂左衛門の鍬を避けていた。
『木偶の坊がウドの大木になったところで、何も変わらんということだっ』
『くっ、くそおっ。すまねえ、時男っ』
茂左衛門が悔しそうに俯き、時男に詫びを入れる。
「バカ野郎っ、謝んなっ。さっきのお前はマジですごかった! もしかしたらこんな俺たちでもって、一瞬だけ希望が持てたっ! だからっ、謝んな!」
『時男……』
思わぬ言葉に、茂左衛門は顔を上げて時男を見つめた。
『そのとおりだぞ、百姓ぉ。俺を驚かせたんだから、誇りに思え。そうだ、褒美をやろう。ただ魂帯を斬るんじゃなく、消滅させてやるぞ』
『っ!!』
会話に割り込んできた悪霊の言葉に、二人が声を失う。
悪霊は、そのまま軍刀を抜いた。
『はっはっは! 弱者は最後まで弱者だったなあっ。お前らのような奴は、日本にいらんわぁぁぁぁっっ!』
嘲笑いながら、軍刀を振り下ろす。
「くそおーっ、結局俺たちはダメなのかよーーーーっ!」
時男は、天を見上げて悔しそうに叫んだ。
「ダメじゃねえぞ、小僧っ!」
その時、どこからか声が聞こえてくる。
――シュルルルルッ、ガガガッ!!――
その瞬間、軍刀を持つ悪霊の腕に、青白い手裏剣が立て続けに刺さった。
『ぐぁぁぁぁっっっっ!』
悪霊が痛みで軍刀を離し、思わず蹲る。
『ぐっ、何だっ? 誰だっ?』
左右を見渡してから上空を見上げると、赤髪の男が守護霊と共に滑空してきていた。
「あっ、あれは二番隊の!!」
時男はその男を知っているらしく、声を上げる。
「赤星さんっ!!」
時男の言葉どおり、この男は二番隊の赤星翔馬だった。
問題を起こすことも多々あるが、実力は折り紙付きの霊能者である。
――ドゴォォォォォォンッッ!!――
赤星の守護霊は、着地と同時に悪霊を殴りつけた。
「このままやっちまえ、半蔵」
赤星の一言で、半蔵と呼ばれた忍者の守護霊が、すぐさま背中の忍者刀に手をかける。
赤星も半蔵と二位一体の動きをして、同じ構えをとった。
手練れの宿主と守護霊は、弱点である魂帯が敵に晒されぬよう、重なるほどの至近距離で同じ動きをしながら戦う。これを二位一体の動きといった。
――シュパァァァァンッッ!!――
赤星が腕を振り下ろすのと同時に、半蔵も忍者刀を振り下ろし、悪霊とホームレスを繋ぐ魂帯を斬り裂く。
『ぐあぁぁぁぁっっっっ!!』
「がはあぁぁっっ!!」
悪霊とホームレスが同時に苦痛の叫びを上げた。
「げふっ……」
『くっ、くそおーーっ!』
――シュフォォォォ……――
ホームレスは倒れ伏し、悪霊は黒い霧となって散失していく。
「あっ、あの強い悪霊を一瞬で……」
時男は、ただその光景を見つめることしかできなかった。
(これが……隊員の力……)
呆然としている時男に、赤星が話しかけてくる。
「お前、隊外構成員だろ? けっこう頑張ったじゃねえか。守護霊のほうも、何かすげーことしてたしよ」
「あっ……いえ。俺たちなんて、結局何もできなかった……っす」
答えながら、時男の顔が自然に俯いた。
赤星が時男の顔を覗き込む。
「ふ~ん。俺は、さっきのお前たち、よかったと思うぜ。才能あんじゃねーの?」
「えっっ?」
「まっ、頑張れ青少年。後始末は頼んだぜ」
時男が驚いて顔を上げると、赤星は振り返って歩きだした。
「あ、あの!」
考えるより先に、時男の口から言葉が飛び出る。
「ん?」
「どうすれば、赤星さんみたいに強くなれるんすかっ!?」
肩越しに振り返った赤星に、時男は真剣な表情で訊いた。
「……強く……ねえ。そんなん決まってんじゃねーか」
「え……?」
「誰かを、何かを強く想うことだよ。人間を強くすることなんて、それ以外ねえだろ」
「想う……こと」
「想いだけが、魂力を上げるんだよ。覚えとくんだな」
それだけ言うと、赤星は再び振り返って歩きだした。
「あ……あざっすっっ!!」
時男が思い出したように頭を下げ、大きな声で礼を言う。
赤星は振り向かずに手を振り、そのまま歩いていってしまった。
『お前が助言を与える立場になるとはな。成長したじゃないか、赤星』
赤星の隣を歩く半蔵が赤星をからかう。
「うるせいっ。あーあ、雅さんに会いてえなあ~~」
赤星は、ぼやきながら夜の闇に消えていった。
赤星の背中が見えなくなった後も、時男はぽかんとしたまま動けない。我に返ったのは、それからしばらく後だった。
「そうだっ、雛!」
雛のことを思い出し、ダッシュで雛のもとに駆け寄る。
雛は、まだ倒れたままの状態であった。
「大丈夫か、雛っ?」
時男が声をかけると、雛の目にじわっと涙が滲む。
そのまま雛は、うるうるした瞳で時男を見つめた。
(こっ、この雛の瞳は!)
――ドキンッ!!――
雛の瞳を見て、時男のハートが飛び跳ねる。
(これはまさか伝説の、命を助けてくれた男に惚れちゃったシチュエーションじゃなかろうか!?)
「……時男」
(なんか呼び方が色っぽくなってる! これは絶対にそうだ! 実際助けたのは赤星さんだけど、この際そこは忘れてもいいだろっ! 才能あるって言ってもらえたしっ!)
その時、時男の頭の中に下衆な想像が浮かんだ。
――ニッ、ニコッ――
そのまま自分が思い描く最高の笑顔を、雛に見せてみる。
「こんのっっっっ、ばっか野郎ぉぉぉぉっ!!」
――ドゴォォォォンッ!――
そんな時男の顔面に、雛はいきなり頭突きをくらわした。
「ぐあぁぁぁっ~~~~っ!」
時男が鼻血を飛び散らしながら、後ろにひっくり返る。
「まったく来るのが遅いのよっ。もう少しで蘭丸とお別れになるとこだったじゃないっ」
「ぬお~~~~っ! はっ、鼻がぁぁぁぁ!」
「まっ、来ても意味なかったけど。結局、赤星さんが助けてくれたわけだし」
「鼻が向いちゃいけない方向に向いている~っ! 血が~~っ! 血が~~っ!」
時男がのたうち回っているが、雛の視線は冷たい。
「まあ、いいわ。それで許したげる。じゃね」
雛は、そのまま蘭丸と帰ってしまった
――ポツン…………ジーッ……――
時男と一緒に取り残された茂左衛門が、転げまわる時男に哀れみの視線を向ける。
『……お前……可哀想な奴だな……』
「うるせぇーーっ!! うおーーっ、鼻血がーーっ!」
『女の子にちょっとやられたぐらいで泣くなよ……』
「なっ、泣いてねえーーっ。俺は泣いてねぇーぞーっ!」
『……もう……俺たちも帰ろうぜ』
気がつくと、子供のように泣き叫ぶ宿主のおかげで、茂左衛門の酔いはすっかり醒めていた。
時男が泣いている理由が、鼻が痛いからなのか、はたまた勘違いした自分が情けないからなのか、それは時男にしか分からない。
「俺は絶対に泣いてなんかいねぇーっ! うおーーーんっ!!」
お読みいただきありがとうございます。
二番隊の問題児、赤星翔馬が活躍する「守護霊の王」も、ぜひご一読ください。




