↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

3. 才能あんじゃねーの?

『ぬぉぉぉぉっっ!』


 咆哮(ほうこう)を上げながら、茂左衛門の全身が二倍三倍と巨大化していく。


「茂左衛門、お前こんな力があったのかよっ!」


『ふぅぅぅぅっ!』


 最終的に、身の丈10メートルほどの巨人と化した。深く息を吐きながら、悪霊を睨(にら)みつける。


『こっ、これはっ……』


 この巨大化には、悪霊も度(ど)肝(ぎも)を抜かれた。


『こうなったら力加減なんてできねえぞ』


 体と共に巨大化した鍬(くわ)を、茂左衛門が振り上げる。


『ま、待て待て待て待て! そんなのズル……っ』


『うるせぇ!! うらぁぁぁっっっ!!』


 悪霊が言い終わる前に、鍬を一気に振り下ろした。


『やめろぉーーっ!!』


「やっちまえぇぇぇぇっっ!!」


 時男が、悪霊の言葉を否定するように叫ぶ。


――ゴゴォォォォォォォンッッ!!――


 時男の言葉に呼(こ)応(おう)するように、鉄槌(てっつい)と化した鍬が地上に打ち込まれた。

 夜中の公園に、勢いよく砂(すな)煙(けむり)が舞う。


(くっ、すごい。こんな力があったのね、時男たち!)


 雛は目を細めながら、砂煙の中心を見(み)据(す)えた。


(今の一撃が当たっていれば、いくらあの悪霊が強くても……)


 視界が良くなってくると、時男たちが目に入る。


『なん……でだよっ……』


「ちくしょおっ!」


 茂左衛門は元のサイズに戻っており、放心状態となっていた。

 時男のほうは、地面を叩いて悔しがっている。


(まさか……)


 雛の顔が嫌な予感で青ざめる。


『はあっはあっ、残念だったなあ! 当たらなければ、どうってことないわ!』


 その予感どおり、悪霊はギリギリで茂左衛門の鍬を避けていた。


『木偶(でく)の坊(ぼう)がウドの大木になったところで、何も変わらんということだっ』


『くっ、くそおっ。すまねえ、時男っ』


 茂左衛門が悔しそうに俯(うつむ)き、時男に詫(わ)びを入れる。


「バカ野郎っ、謝んなっ。さっきのお前はマジですごかった! もしかしたらこんな俺たちでもって、一瞬だけ希望が持てたっ! だからっ、謝んな!」


『時男……』


 思わぬ言葉に、茂左衛門は顔を上げて時男を見つめた。


『そのとおりだぞ、百姓ぉ。俺を驚かせたんだから、誇りに思え。そうだ、褒(ほう)美(び)をやろう。ただ魂帯を斬(き)るんじゃなく、消滅させてやるぞ』


『っ!!』


 会話に割り込んできた悪霊の言葉に、二人が声を失う。

 悪霊は、そのまま軍(ぐん)刀(とう)を抜いた。


『はっはっは! 弱者は最後まで弱者だったなあっ。お前らのような奴は、日本にいらんわぁぁぁぁっっ!』


 嘲笑(あざわら)いながら、軍刀を振り下ろす。


「くそおーっ、結局俺たちはダメなのかよーーーーっ!」


 時男は、天を見上げて悔しそうに叫んだ。


「ダメじゃねえぞ、小僧っ!」


 その時、どこからか声が聞こえてくる。


――シュルルルルッ、ガガガッ!!――


 その瞬間、軍刀を持つ悪霊の腕に、青白い手(しゅ)裏(り)剣(けん)が立て続けに刺さった。


『ぐぁぁぁぁっっっっ!』


 悪霊が痛みで軍刀を離し、思わず蹲(うずくま)る。


『ぐっ、何だっ? 誰だっ?』


 左右を見渡してから上空を見上げると、赤髪の男が守護霊と共に滑空(かっくう)してきていた。


「あっ、あれは二番隊の!!」


 時男はその男を知っているらしく、声を上げる。


「赤(あか)星(ぼし)さんっ!!」


 時男の言葉どおり、この男は二番隊の赤星翔(しょう)馬(ま)だった。

 問題を起こすことも多々あるが、実力は折り紙付きの霊能者である。


――ドゴォォォォォォンッッ!!――


 赤星の守護霊は、着地と同時に悪霊を殴りつけた。


「このままやっちまえ、半(はん)蔵(ぞう)」


 赤星の一言で、半蔵と呼ばれた忍者の守護霊が、すぐさま背中の忍(にん)者(じゃ)刀(とう)に手をかける。

 赤星も半蔵と二(に)位(い)一(いっ)体(たい)の動きをして、同じ構えをとった。

 手(て)練(だ)れの宿(やど)主(ぬし)と守護霊は、弱点である魂帯が敵に晒(さら)されぬよう、重なるほどの至(し)近(きん)距(きょ)離(り)で同じ動きをしながら戦う。これを二位一体の動きといった。


――シュパァァァァンッッ!!――


 赤星が腕を振り下ろすのと同時に、半蔵も忍者刀を振り下ろし、悪霊とホームレスを繋ぐ魂帯を斬り裂(さ)く。


『ぐあぁぁぁぁっっっっ!!』


「がはあぁぁっっ!!」


 悪霊とホームレスが同時に苦痛の叫びを上げた。


「げふっ……」


『くっ、くそおーーっ!』


――シュフォォォォ……――


 ホームレスは倒れ伏(ふ)し、悪霊は黒い霧となって散(さん)失(しつ)していく。


「あっ、あの強い悪霊を一瞬で……」


 時男は、ただその光景を見つめることしかできなかった。


(これが……隊員の力……)


 呆然としている時男に、赤星が話しかけてくる。


「お前、隊外構成員だろ? けっこう頑張ったじゃねえか。守護霊のほうも、何かすげーことしてたしよ」


「あっ……いえ。俺たちなんて、結局何もできなかった……っす」


 答えながら、時男の顔が自然に俯いた。

 赤星が時男の顔を覗(のぞ)き込(こ)む。


「ふ~ん。俺は、さっきのお前たち、よかったと思うぜ。才能あんじゃねーの?」


「えっっ?」


「まっ、頑張れ青少年。後始末は頼んだぜ」


 時男が驚いて顔を上げると、赤星は振り返って歩きだした。


「あ、あの!」


 考えるより先に、時男の口から言葉が飛び出る。


「ん?」


「どうすれば、赤星さんみたいに強くなれるんすかっ!?」


 肩(かた)越(ご)しに振り返った赤星に、時男は真剣な表情で訊(き)いた。


「……強く……ねえ。そんなん決まってんじゃねーか」


「え……?」


「誰かを、何かを強く想うことだよ。人間を強くすることなんて、それ以外ねえだろ」


「想う……こと」


「想いだけが、魂力を上げるんだよ。覚えとくんだな」


 それだけ言うと、赤星は再び振り返って歩きだした。


「あ……あざっすっっ!!」


 時男が思い出したように頭を下げ、大きな声で礼を言う。

 赤星は振り向かずに手を振り、そのまま歩いていってしまった。


『お前が助言を与える立場になるとはな。成長したじゃないか、赤星』


 赤星の隣を歩く半蔵が赤星をからかう。


「うるせいっ。あーあ、雅(みやび)さんに会いてえなあ~~」


 赤星は、ぼやきながら夜の闇に消えていった。

 赤星の背中が見えなくなった後も、時男はぽかんとしたまま動けない。我に返ったのは、それからしばらく後だった。


「そうだっ、雛!」


 雛のことを思い出し、ダッシュで雛のもとに駆け寄る。

 雛は、まだ倒れたままの状態であった。


「大丈夫か、雛っ?」


 時男が声をかけると、雛の目にじわっと涙が滲(にじ)む。

 そのまま雛は、うるうるした瞳で時男を見つめた。


(こっ、この雛の瞳は!)


――ドキンッ!!――


 雛の瞳を見て、時男のハートが飛び跳ねる。


(これはまさか伝説の、命を助けてくれた男に惚れちゃったシチュエーションじゃなかろうか!?)


「……時男」


(なんか呼び方が色っぽくなってる! これは絶対にそうだ! 実際助けたのは赤星さんだけど、この際そこは忘れてもいいだろっ! 才能あるって言ってもらえたしっ!)


 その時、時男の頭の中に下(げ)衆(す)な想像が浮かんだ。


――ニッ、ニコッ――


 そのまま自分が思い描く最高の笑顔を、雛に見せてみる。


「こんのっっっっ、ばっか野郎ぉぉぉぉっ!!」


――ドゴォォォォンッ!――


 そんな時男の顔面に、雛はいきなり頭(ず)突(つ)きをくらわした。


「ぐあぁぁぁっ~~~~っ!」


 時男が鼻血を飛び散らしながら、後ろにひっくり返る。


「まったく来るのが遅いのよっ。もう少しで蘭丸とお別れになるとこだったじゃないっ」


「ぬお~~~~っ! はっ、鼻がぁぁぁぁ!」


「まっ、来ても意味なかったけど。結局、赤星さんが助けてくれたわけだし」


「鼻が向いちゃいけない方向に向いている~っ! 血が~~っ! 血が~~っ!」


 時男がのたうち回っているが、雛の視線は冷たい。


「まあ、いいわ。それで許したげる。じゃね」


 雛は、そのまま蘭丸と帰ってしまった


――ポツン…………ジーッ……――


 時男と一緒に取り残された茂左衛門が、転げまわる時男に哀れみの視線を向ける。


『……お前……可哀想な奴だな……』


「うるせぇーーっ!! うおーーっ、鼻血がーーっ!」


『女の子にちょっとやられたぐらいで泣くなよ……』


「なっ、泣いてねえーーっ。俺は泣いてねぇーぞーっ!」


『……もう……俺たちも帰ろうぜ』


 気がつくと、子供のように泣き叫ぶ宿主のおかげで、茂左衛門の酔いはすっかり醒(さ)めていた。

 時男が泣いている理由が、鼻が痛いからなのか、はたまた勘違いした自分が情けないからなのか、それは時男にしか分からない。


「俺は絶対に泣いてなんかいねぇーっ! うおーーーんっ!!」


お読みいただきありがとうございます。

二番隊の問題児、赤星翔馬が活躍する「守護霊の王」も、ぜひご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。