21. へっ?
「はいはい、時男くんはいつものとおり何も知らないのね〜。同じ秘密組織なのに」
「秘密組織だから知らないんでしょーがっ!」
ため息混じりに話す雛に、時男が言い返す。
「時ちゃん、RAINなら俺だって知ってるぜ。東のMIST、西のRAINっつったら、裏社会じゃ有名だからよお」
「雪之丞、多分こいつ、山奥で電気がない生活とかしてたのよ。テレビとか見て、魔法の箱だーとか言ってた派じゃない?」
「あー、そういう派か〜。どうりで……」
雪之丞は雛の言葉に大きく頷き、哀れみの目を時男に向けた。
「どんな派だよっ、そりゃっ。そもそも秘密組織はテレビに映らないよねえっ! アホなこと言ってないで早く教えてくれ!」
「ち〜っ、もうちょっとイジメたかったのになあ。ねえ、雪之丞?」
「そうそう。RAIN知らないなんて、モグリ扱いされてもいいぐれえのことだからな〜」
「分かった、分かったからっ。もうそれ以上イジメないでくれ。このとーりっ」
時男が、ベンチに腰掛けたまま深々と頭を下げる。
雛は「しょうがないわねえ」と言って、説明を始めた。
「まずMISTはね、もともと“霧雨”っていう大きい霊能者組織だったのよ。その霧雨が思想の違いとかなんとかで分裂して、MISTとRAINができたってわけ」
「へ〜、知らんかった。何でそういうことを誰も教えてくれねーんだ……」
「アニマや創世会と違って、どっちも国の組織であることに変わりないから、敵同士ではないんだけどね。それでも、東と西でしっかり住み分けがなされるまでは、小競り合いもあったみたいよ。今は少ないんじゃないかな」
「ってことは、今は仲いいんじゃんっ」
「そうね。でも、さすがに向こうの管轄に行って悪霊退治をするのはどうかなあ」
雛が腕を組んで考え込む。
すると、雪之丞がすぐに声をかけた。
「ああ、その心配なら必要ないぜ、雛ちゃん」
「なんでよ?」
「それは、二つある貴重情報のもう一つを聞けば分かるって」
「そうなの? なら最初からそっちも話しなさいよっ」
「いやあ、もったいぶったほうが、有難みが大きくなるだろ? なんせ良い情報を提供したら、この足枷を外してくれるって約束だからよ。こっちも必死だよ」
「えっ、そうなのっ!? 聞いてないわよ、そんな話っ」
――クルッ――
(まずいっ)
雛が時男に目を向けると、時男はすぐにそっぽを向いた。
雛が目を細めて睨みつけた後、「まあ、いいわ」と言いながら視線を雪之丞に戻す。
「雪之丞が悪い奴じゃないって分かったから、それぐらい許してやるわ。小物を逃がしても、大物がゲットできればいいしね」
「よっしゃ、そうこなくっちゃよ」
雛の言葉に、時男は両眉を上げて笑みを見せた。
「ひでえなあ〜。俺は小物かよ〜」
「まあまあ、元アニマを見逃そうっていうんだから、それぐらい言わせなさいよ」
へそを曲げそうになった雪之丞を、雛が宥める。
「ったく。まあ見逃してくれんならいいけどよお」
雪之丞は、後頭部を掻きながら二つ目の情報について話し始めた。
「これ、つい一週間前の話なんだけどよ。ちょい霊能者の知り合いが、深夜に幽霊をぞろぞろと連れて歩いてる女の子を見たんだと」
「マジかよっ、それドンピシャじゃねっ?」
話を聞いて、時男と雛が目を合わせる。
「そいつ、売れない心霊雑誌の編集長なんだけどな。これはすげーネタになると思って、そっからチャリで追いかけたらしいんだよ。結局、三時間近く尾行したっつってたか」
「んで、どこに着いたんだよっ?」
時男は身を乗り出して訊いた。
「それがまたトンネルだったんだと。しかも廃トンネル。そん中に、みんなで入ってったらしいぜ。さすがにそいつは怖くて、中までは入れなかったらしいけどよ。んで、ちょっと待ってたら、女の子だけが出てきて、そのまま一人でどっか行っちまったんだとさ」
「……どゆこと? また幽霊をトンネルに集めてるってことか?」
黙って聞いている雛と異なり、時男がいちいち質問していく。
「さあな。そいつ、やっぱり気になっちまってよ。夜が完全に明けてから、入ってみたらしいんだ。だけど、もう幽霊の姿は全くなかったんだと」
「それだけの幽霊がいきなり消えるなんてっ、幽霊の集団失踪事件かっ!?」
「いや、幽霊ってもともと出たり消えたりするものだから……。魂力がなくなりゃ、顕現が続かねえよ」
「あっ……そっか」
「おかしいのは、気配もなくなったってことだ。見えなくなっても、幽霊がその場にいりゃ、霊能者じゃなにかしら感じるはずだからな。寒気も何も感じないのは、幽霊どもが存在ごと全員いなくなったってことだ。いくらなんでもそりゃおかしいだろ? みんなで一斉に成仏なんてありえねえし」
「なるほどなあ。その謎は、名探偵ワトソンといわれた俺でもはっきりしないぜ……」
「……いや、まずは名探偵なのか助手なのかはっきりしろよ。俺の考えじゃ、悪霊の野郎はそこから……」
「送ったのねっ!!」
雪之丞が話そうとすると、いきなり雛が声を上げた。
今まで黙っていた雛が、そのまま訊く。
「つまり、幽霊たちをそこから底水村に……いや、正確には底水村に唯一繋がるっていう廃トンネルに送ったのねっ?」
「そういうことだ。雛ちゃんは察しがいいねえ。そこの名探偵と違って……」
雪之丞は、冷たい視線を時男に向けた。
「いやいやいや、そんなワープみたいなこと、いくら咒文使ったってできねーだろっ」
「それが人間ならね。肉体がある人間を物理的にワープさせるなんて、いくら咒文を使っても不可能だと思う。でも幽体なら別よ。例えば……」
否定する時男を納得させようと、雛が説明を始める。
「英霊以上の霊体って、守護霊になってても好きなときに霊界へ戻れるんだけど、知ってる? いや知らないわね」
「もはや訊く気ねーじゃん。だけど、お察しのとおり知らねーよ」
「茂左衛門はどうか分からないけど、蘭丸は英霊だから、たまに霊界に戻ったりするのよ。そういうときは、一瞬で戻ってるわよ」
「へえ〜。なんか、物理法則を完全に無視してんな」
雛が時男の無知に慣れてきたように、時男も雛からの突飛な情報に慣れてきており、そのため大きく驚くことはなかった。
「霊体がそうなんだから、幽体だってきっとそんな感じなんでしょ。だったら、咒文で遠くまでワープさせられるかもって思わない? 英霊みたいに自分でできないまでも、咒文の力でビュッて」
「なるほど、確かにそうかも。ってことは、道満は幽霊を見つけて、その村にため込んでるってわけか。何だかを探させるために……」
「そうね。だって兵隊をぞろぞろと連れて歩くわけにいかないでしょ。守護霊持ちじゃなくても、ある程度の霊能者なら見えちゃうんだから」
「ああ、そうだな。う〜ん、考えれば考えるほど、この推測が正しく思えてきたぞ。とにかく、その廃トンネルに近々行ってみるかっ。雪之丞っ、とりあえず場所教えてくれっ」
時男が立ち上がって、敢然と雪之丞に訊く。
しかし、返ってきた答えはその気持ちを萎えさせるものだった。
「それは知らん」
「ああっ? なんでだよ?」
「聞き忘れたんだってば」
「じゃあ、今電話して聞けよ」
「そりゃ、無理だ」
「なんでだよ✕2」
「そいつ、二日前に死んだから」
「へっ?」
会話の勢いとテンポが、ここにきて急に遅くなる。
「死んだんだよ。部屋で真っ黒焦げ。かわいそうになあ」
「へっ?」
「ありゃ多分、道満ってのに気づかれて、それで口封じにやられたんだな。かなり危なそうな奴だから、時ちゃんたちも気をつけろよ」
時男は、予想外の悲惨な結末に言葉が一言しか出なくなった。
「…………へっ?」




