20. もっとダメじゃんっ!!
模擬戦から数日後、時男と雛は朝から公園にいた。
「ねえ、本当にそいつ信じられるわけ? 咒文で逆らえなくしたっていっても、元アニマでしょ〜。アタシ、アニマって嫌〜いっ」
時男と公園のベンチを分け合いながら、雛が訊く。
「雪之丞はまっーたく信用できん男だけど、ここまで探しても道満の行方が分からねえんだ。あいつが良い情報持ってるっつったら、会わないわけにいかねえだろ」
時男は、両手を頭の裏で組みながら答えた。
「まあねえ……。あの悪霊、もうだいぶ遠くまで行っちゃってるかもしれないしね〜。あっ、アニマで思い出したけど、隊員の人たちがいよいよ創世会とやるかもって話よ」
「創世会?」
「あんた本当に何も知らないわねえ。違法霊能者の組織の中じゃあ、アニマと肩を並べるほど大きい組織よ」
「マジっ? アニマみたいに、一般人が降霊とか召喚をしてるってこと?」
「そうね。ただアニマみたいに卑劣な犯罪は犯してないし、かなり巨大な組織だから、ここまでMISTも手を出さなかったみたい」
「それが何で突然?」
「なんか隊外構成員に被害が出たとか出てないとか……。ほらっ、何人か突然入院したでしょ? あれが創世会の仕業かもしれないらしくて……」
「よーするに、お前も下っ端だから、詳しくは知らないわけね」
時男がニヤニヤと嫌味な笑みを向ける。
「はいはい、そーよ」
「まっ、今はそれでいいんじゃね? 俺たは今俺たちができることをすればいいのさっ。成り上がるまでの辛抱だ」
時男は、未来を見据えるように空を見上げた。
「おー、トーナメント優勝者は言うことが違いますなあ。さすが響斗を医務室送りにしただけのことはある」
「そーさっ。もう誰にも弱小霊能者だなんて言わせねえぜっ」
「あれ、知らないの? あんたの二つ名、弱小霊能者から最低霊能者に変わったのよ」
「えっ……」
「よかったわねえ。少なくとも弱い奴評価はなくなったじゃん」
「全然良くねえ!! なんかっ、もっとダメじゃんっ!! 人としてダメな感じがするじゃん!!」
時男が拳を握りながら、涙目で唇を噛む。
「切れ痔霊能者よりマシでしょ〜。あんたのせいでそんな二つ名つけられて、響斗もかわいそうに」
「え……そうなの?」
「昨日あいつに会ったんだけどさあ。なんか魂が抜けたような顔で、ブツブツ言いながら窓の外を見つめてたわよ。ありゃ、精神的に病んでるわね」
雛は難しい顔をしながら、胸元で腕を組んだ。
「ま……まあ……これで本当に仲間になれたということで……ははっ。こうなったら、雛も二つ名どう?」
「はあっ?」
「絶妙に微妙な霊能者、とか?」
「絶対にいらんわっ!! なんだその哀れさをオブラートで包んだような二つ名!!」
時男のこめかみに、雛が拳をグリグリと押し当てる。
「痛たたたたっ。やめてよ母ちゃんっ、暴力は犯罪だよ!」
そんな他愛もない会話をしていると、雪之丞が遅れてやってきた。
「おーっ、待たせたなあ、時ちゃん。いろいろ立て込んでてよお」
「ちいーっす。遅れたのは別にいいんだけどさあ、また何か悪さしてんじゃないだろうなー?」
「バカなこと言ってんじゃねえよお。こんな足枷を付けられてどうやって悪さすんだよ〜。こんなひでえことする時ちゃんのほうが、ずっと悪人だぜ〜」
「ははっ。確かにな〜っ」
時男と雪之丞が軽口を叩き合う。
(……時ちゃん? 何この和気あいあいとした雰囲気? 相手は元アニマだってのに、なんかムカつくわ)
雛が仏頂面で雪之丞を見据える。
「ん?」
雪之丞は、すぐに雛の存在に気づいた。
「おわあっ〜、すげえカワイイ女子連れてんじゃんっ。もしかして時ちゃんの彼女かよ!?」
「えっ」
雪之丞の発言に、険しかった雛の表情が一瞬で緩む。
「あっ、こいつはただの同僚だ。アニマのことは良く思ってねえからお前も……んっ?」
「なんだあ〜っ。結構いい奴じゃないの、雪之丞〜。雛よ、よーろしくぅっ」
時男が紹介をしていると、途中で雛が立ち上がり、話に割り込んだ。
「おー、よろしくうっ。姉ちゃん、ぱっつん前髪似合ってんねー」
「でっしょ〜っ」
時男の予想に反して、すぐに二人が打ち解ける。
(……分からない。女って……分からない)
キョトンとする時男の前で、雪之丞が雛を褒めまくり、雛はあっという間に上機嫌となった。
緊張感のない会話が三人の中で続いていく。
しばらくして道満の話になると、それでも緊迫感が増した。
「まずは、二つある貴重な情報のうちの一つな。時ちゃんか、雛ちゃん、底水村って廃村のこと知ってる?」
「いんや、知らん」
「えっ、アタシは知ってるわよっ。確か九州にある有名な心霊スポットよね?」
「そう。あまりに有名になりすぎて、何年か前に立ち入り禁止になった場所さ。唯一その村に続いていたトンネルまで、今じゃバリケードで通れなくなってる」
「心霊スポットねぇ。そんなん俺たちみたいな霊能者からしたら、またかよって感じだけどなあ。中には面倒くせえ霊もいるし」
「だな。だけど一般人の感覚は、そうじゃねえ。いつの時代も、肝試しに行きたがる奴ってのはいるからな。このあいだも、それをわざわざネットでライブ配信したバカがいたんだよ」
「あ〜、見えない連中はその本当の怖さが分からないのよね〜」
雛が、首を左右に振りながら呆れ顔を見せる。
「そのとおり。そいつ自身は見えない奴だから平気で配信してたんだけどな。画面越しに見たら、もう霊がいるわいるわで。普通じゃありえないほどいたらしいんだ。それで閲覧者たちの中で大騒ぎになったのさ。ほら、映像だと霊能者じゃなくてもけっこう見えたりするからよお」
「う〜ん、そいつも、とんでもねえところに行ったもんだなあ。幽霊だけならまだしも、悪霊でもいたら最悪じゃん。んで、そいつどうなったんだ?」
「途中で配信が途絶えたから分からねえけど、無事だとは思えねえなあ。すぐに自作自演とか疑われて、事件にゃならなかったけどよお」
「一旦フェイクだって情報が流れると、あっという間に忘れ去られるからねえ。冷たい世の中だわ」
「俺も、その配信映像を後になって見てみたんだけどな、間違いなく本物だったぜ。ある程度の霊能者が見たら、本物だってことも、異常事態だってこともすぐに分かるような映像だったぞ」
そう言って雪之丞が険しい顔を見せると、時男と雛は視線を合わせた。
「ありゃあ、絶対に故意に集められた霊だ。時ちゃんが言ってた道満とかいう野郎、そいつに集められてんだよ」
雪之丞の表情が、二人にその信憑性の高さを物語る。
「……確かに、その可能性は否定できないわねえ。でも、九州か〜。それじゃ難しいなあ」
「なんでだよ? ちゃんと椿木さんに話せば、旅費ぐらい出してくれんじゃねえの?」
眉をひそめる雛に、時男は能天気に訊いた。
「そうじゃなくて、西日本はね、RAINの管轄なのよっ」
「RAIN? へっ?」
意味が分からずに、時男が片眉を上げる。




