17. やっぱり俺たちは悪役だ……
――キィンッ! ガキィン! ガキィィン!――
テニスコートに鍬と槍のぶつかり合う音が響く。
時男と二位一体で動く茂左衛門、響斗と二位一体で動く巴、二人の守護霊が互いの武器を激しく交えていたのである。
『ぬっ、ぐっ、ふぬうっ!』
戦いは茂左衛門の防戦一方となっていたが、それでも焦っていたのは巴のほうだった。
『お前っ、本当にただの百姓かっ!? ここまでアタシの槍が防がれるとはっ』
『はっ、俺は昔からめちゃくちゃ運動神経がよかったからなっ。斬り方は知らねえが、飛んでくるものを弾くぐらい何のことはねえっ。ふがあっ!』
話しながら、またも茂左衛門が巴の槍を弾く。
(アタシの槍は、運動神経がいいだけで避けられるもんじゃないっ。響斗が感じていた脅威とは、これのことなのか?)
巴は素早い突きを繰り出しながら、冷静に茂左衛門を見据えた。
――ガキィーーーーンッ!――
その時、とうとう弾かれた槍が巴の手から落ちる。
『なっ!?』
『そもそもよおっ、野良仕事で鍛えられた体をナメんじゃねえよっ。うらあっ!』
ここぞとばかりに茂左衛門の鍬が振り下ろされた。
――ダッ!――
鍬が当たる寸前で、巴が響斗と共に飛び退る。
『ふっ! 避けることは上手くても、攻撃はまだま……なっ!?』
なんと茂左衛門は、躱されて地面に衝突した鍬を即座に手放し、巴たちを追って跳躍していた。
時男と共に拳を振り上げ、今にも強打を打ちだそうとしている。
『猿の幽体に何度も鍬を躱されたからなあっ!』
『なにぃっ!?』
『バカな俺でも学んだんだよ!』
――ドガァァァンッッ!!――
振り下ろされた拳は、見事に巴の顔面を打った。
同時に、時男の拳が響斗の顔を打つ。
「がはあっ!」
『ぐふっ!』
響斗たちは、殴られた勢いそのままに地面に打ちつけられた。
「すごいっ」
観戦していた雛が、思わず声を上げる。
――ザザァァッ――
時男と茂左衛門は、地面を滑るようにしてしっかり着地した。
「はあはあっ」
時男が肩で息をしながら、倒れ込んだ響斗たちを見据える。
「……や……やった。やったぜっ、うおおおおおおっ!!」
すぐに空を見上げ、雄叫びを上げた。
「すげえっ、あいつ響斗をぶっ飛ばしたっ。KO勝ちじゃねえか!?」
「弱小霊能者なんかじゃ全然ないわ!」
観戦していた者たちから、驚きの声が上がる。
ここで茂左衛門が、響斗たちを見据えながら口を開いた。
『時男よお、いくら霊体とはいえ、女の顔を殴っちまったなあ……』
「うっ。ま……まあ……な」
『しかし俺はな……』
「……何だよ?」
『そんなん全然気にならん!! がはははははっ! ばーかばーかっ! 俺たちの勝ちだぜえっ!』
茂左衛門が響斗たちに尻を向けて、ペシペシと自身の尻を叩く。
「……悪役だ……やっぱり俺たちは悪役だ……」
時男は額に手を当て、首を横に振った。
「ふっ、変わらないわねえ〜。強くなった茂左衛門を見て一瞬驚いたけど、あいかわらず最低で安心したわ」
コートの外では、雛が腕を組んで口角を上げている。
『ふんっ』
その時、巴の口が開いた。
『おい百姓霊っ、なぜ勝った気でいるっ?』
話しながら、響斗と共に立ち上がる。
「あのクリーンヒット食らって、まだ意識あんのかよっ!?」
驚きで、時男は一歩後ずさった。
「魂力をしっかり体に纏わせていれば、あの程度で意識が飛んだりしないさ。前にも同じようなことを言ったが、強力な魂力を皮膚表面に流せば、強靭な鎧にもなる。そして俺は、それが得意だ」
響斗のしたり顔が、焦る時男に向けられる。
――ギロッ――
巴のほうは、敵意を剥き出しにして茂左衛門たちを睨みつけた。
『いやっ、今いろいろ言ってたのは、全部こいつです!』
茂左衛門が時男の背後に隠れ、右手だけ前に出して時男を指差す。
「宿主を売るとか、どこまで落ちてくんだ、おめえ……」
時男は呆れ顔で振り返り、蔑みの目を茂左衛門に向けた。
『だってアイツ、怒ると怖いんだもん!!』
「お前が怒らせてんだろうがっ!」
『もう起き上がってこないと思ったんだもん!』
「だもんだもんって、子供かお前は!」
『おっさんだもん!』
「だろうな! 知ってるわ!」
二人が言い合いをしていると、響斗と巴は後方に歩き始め、距離をとった。
『響斗……あいつらバカなのか? まだ戦いの途中……だよな? もう攻撃していいのか?』
「……まあ、いいんじゃないか。キツイのを食らわせてやればいいさ。戦ってみてはっきり分かったが、あいつらはちょっとやそっとで倒れるようなタマじゃない」
『ふっ。じゃあ、遠慮なくいくぞ』
響斗の言葉を受け、巴が咒文の詠唱に入る。
そのあいだも、時男たちの言い合いは続いていた。
茂左衛門も時男も、もはや意地になっている。
『だもんだもんだもんだもん!』
「うっせえ! 何かの咒文かっ!? それならああいう風に……んっ? ああ……いう……風に?」
時男が気づいた時、巴はちょうど咒文を結ぶところだった。
『走れ言霊、破虹烈弾!』
――フシュウゥッ!――
咒文の結びとともに、巴の足元にカラフルな蹴鞠の鞠が現れる。
『おらあっ!』
巴は右足を大きく後方に振り上げ、少し宙に浮いている鞠を一気に蹴り込んだ。
――ブオォォォォッッッッ!――
砲弾のように撃ち出された鞠が、動きを止めた時男たちのもとに飛んでいく。
「やべっ!」
『くそっ、間に合わねっ! ふがあっ!!』
避けられないと判断した茂左衛門は、両腕をクロスさせて鞠を受け止めた。
しかし巴の攻撃は、これだけで終わるものではない。
――ググッ……ドパァァァァーーンッッ!!――
鞠が破裂し、轟音とともに爆風のような衝撃波が辺りに広がった。
『ぐふぁっ!!』
「がはあっ!」
茂左衛門も時男もふっ飛び、テニスコートの上を転がる。
「ここだぁーーっ!!」
それを狙ったかのように、響斗と巴が突っ込んできた。
「なっ……なんのっ」
『くそったれ……耳鳴りがっ!』
時男たちが何とか起きあがるが、そこが限界。
――ドゴオォォッ! ドゴオォォンッ!――
響斗と巴の拳が、それぞれの腹にめり込んだ。




