16. ぷぷっ!
時男が響斗の優勝を認めなかったことで、自然と二人の模擬戦が決定する。
成り行きといえば成り行きだったのだが、これは響斗が望んでいたことでもあった。
響斗は、時男と戦ってみたかったのである。正直なところ、弱小霊能者であるはずの時男に対し、不気味な底力を感じ始めていた。
「一時間後、お前の魂力が回復してからやろうぜ」
テニスコートに入ってきた時男がそう言うと、あまりの“らしさ”に響斗の口元が緩む。
「俺は、このまま連戦でもいいんだかな」
「はっ、言ってろよ」
そのまま二人は、一旦テニスコートから出ていった。
それぞれが部屋に戻り、思い思いの時間を過ごす。
「なあ、あの響斗と戦う霊能者って、確か百姓の守護霊を持つ奴だよなあ?」
二人の姿が見えなくなると、残った隊外構成員たちは時男の話題でもちきりとなった。
「そうね。確か悪霊を倒したとか倒してないとか……。それで自分の力を過信しすぎちゃったのかしら」
「だよなあ。だって守護霊が百姓って……ぷぷっ。笑っちゃ可哀想だけど、やっぱり笑っちゃうよなあ〜」
あちらこちらから、時男に対する否定的な意見が聞こえてくる。
「う〜ん、そういう会話って、何気に時男の勝利フラグになっちゃったりするのよねえ……。あんた勝てるかもよお、時男」
雛のほうは、そんなことを呟きながら、医務室に歩みを進めた。
果たして雛の言うとおり、時男は前評判を覆せるのか。
――ボゴォーーン!!――
そんな期待を裏切るかのように、二人の模擬戦は響斗のクリーンヒットから始まった。
「痛ったっ! おまっ、響斗っ、痛った!!」
時男が頬を擦りながら、不満を大声でこぼす。
(……お〜い、勝利フラグはどこいった〜)
医務室から戻っていた雛は、テニスコートの外から白け顔を向けた。
雛の口から大きな溜め息がもれる中、時男は響斗に喋り続ける。
「ちっ。まあいいやっ。今のは、お前の力を見るためにわざと受けたわけだがっ」
「その割に、かなり痛がってたじゃないか……」
「うっさいっ。痛がるだけで済んでんだから、俺はめちゃくちゃ強くなってる! それが今証明された!」
「分かった、分かった。じゃあ強い者同士、守護霊を出して戦おうか」
「おうっ、茂左衛門!」
「巴!」
――フオォォォン、フオォォォン!――
二人が呼びかけると、それぞれの守護霊が背後に登場した。
――ダッ!――
守護霊を出すのと同時に、宿主二人が同方向に向かって平行に走りだす。
「おーっ。あの時男ってのと百姓の守護霊も、見事に二位一体の動きしてんじゃんっ」
「簡単そうに見えて、あれ結構難しいのよねーっ。息が合ってないとできないし……」
時男と茂左衛門の動きを見て、二人を過小評価していた者たちが驚きの声を上げた。
「守護霊持ちとしてのファーストステップは、完全にマスターしてるなっ」
走りながら響斗が時男に話しかける。
「あったり前だっ。二人で何十匹もの動物と追いかけっこしてきたからなっ」
「ふっ。じゃあっ、これはどうだっ!」
『やあっ!』
――ビュオォッ!――
響斗の言葉に合わせるかのように、巴が茂左衛門に向けて槍を水平に振った。
『おっとぉっ!』
――ガキィィィィンッ!!――
茂左衛門も打者のように鍬を振り、槍を受け止める。
――ザザァァァッ!!――
そのまま、時男と響斗が地面を滑りながら足を止めた。
『はあっ! ほやっ! ほいあっ!』
間髪入れずに巴が槍で突いてくる。
――ガキィンッ、ガキィンッ、ガキィンッ!――
茂左衛門は、これを何とか弾き続けた。
しかし、すぐに切羽詰まった表情で時男に声をかける。
『ぐっ。まずいぞっ、時男っ』
「分かってるっ、鬼のような突きだなっ。このままじゃっ……」
『違うんだっ』
「なんだよっ」
『巴の掛け声が面白すぎるっ! ぷぷ〜っ!』
「てめえ余裕あんな!!」
茂左衛門が笑いを堪えて顔を赤くしていると、話を聞いた巴がまさに鬼のように怒りだした。
『貴様〜っ! 戦いの中で相手を愚弄するとは〜っ!』
『いやっ、だってよおっ。ぷぷっ!』
『許さん! ふいやっ! しぇいや!』
『ぎゃははははっ! お願い〜っ! その掛け声やめて〜っ! 戦えない〜っ!』
茂左衛門がギリギリで槍を躱しながら、鍬を持っていない左手で腹を抱える。
「バカ野郎! いいかげんにしろっ! やられちまうぞ!」
時男が堪らず茂左衛門を一喝するが、ここで気をつけるべきは自分のほうだった。
「そのとおりっ」
――ドゴォォッ!!――
知らぬ間に距離を詰めていた響斗が、時男の腹に拳を打ち込む。
「がはっ!」
『んぎいっ!』
時男と一緒に、感覚を共有する茂左衛門も苦痛の表情を見せ、二人して地面に膝をついてしまった。
「俺の恋人を笑った罰だ、お前ら」
そんな二人を見下ろしながら、響斗が吐き捨てるように言う。
『です……よねえ……』
「俺、関係ないけどおっ!」
茂左衛門と時男は、腹を押さえながら青い顔を響斗に向けた。
しかし、響斗の視線はすでに巴に向いている。
「お前をバカにするような奴は、誰であろうと俺が許さないからな」
『だからぁ、アタシはお前の恋人じゃねえって言ってんだろっ。すぐ彼氏面すんなっ』
言葉とは裏腹に、巴の顔は響斗の言葉によって赤みを帯びた。
「テレるお前もまた魅力的だ」
『なっ……ったく、お前は。でも……まあ……ありがとな。アタシのために殴ってくれて……』
巴はそっぽを向いて、恥ずかしそうに礼を言った。
「俺は、いつだってお前の味方だ。宿主でなく、男としてな」
『響斗……』
巴が振り向き、二人の熱い視線が交わる。
二人のあいだで、甘い空気がゆるやかに流れた。
『けっ、な〜にが男としてだっ。俺たちを引き立て役に使いやがって。今のうちに後ろからぶん殴ってやろうかっ』
二人を見て、痛みから復活していた茂左衛門が、あぐらをかきながら鼻をほじる。
――……チラッ……チラッ――
同じく痛みから復活していた時男は、茂左衛門と響斗たちを交互に見据えた。
対照的なものを見て、あることに気づいてしまう。
「………………引き立て役っていうかさあ……俺たち……悪役じゃねっ!?」
自分たちの立ち位置に気づき、時男は少しだけ落ち込んだ。




