15. お前もその一人かーっ?
暑くもなく寒くもない、完璧ともいえる陽気の昼下がり、MISTの隊外構成員たちはテニスコートの周りに集まっていた。
この日は、隊外構成員の中でも腕利きの者たちが集まり、トーナメント形式の模擬戦を行なっていたからである。
「いけっー! 宿主に直接攻撃っ!」
「咒文よっ、そこで咒文を使って!」
最優秀構成員を決めるという趣旨から、観戦している者たちも応援に熱が入る。
出場者の中には、当然のように雛や響斗がいるが、時男の姿はなかった。
よく見ると、少し離れたところにある木陰であぐらをかき、茂左衛門と話しながらぶうたれている。
「けっこ~強くなったつもりなんだけどなあ。なんで俺には声がかからないかねえ」
『まあ、どんだけ強くなっても、俺が百姓であることに変わりはねえからなあ。そりゃ、みそっかす扱いされちまうだろ』
「ちぇっ、今なら神霊とだって戦えそうなのによお」
時男は頭の後ろで手を組み、口を尖らせた。
『アホ。神霊となんて戦ったら、鼻くそ飛ばされただけで消滅しちまうわ』
茂左衛門が呆れ顔を見せる。
「そんなにすげーのかよ?」
『そんなにすげーんだよ。もちろん神霊もピンキリだけどなあ。そのキリにだって、睨まれただけでチビっちまうよ』
「へ~っ、ちょっと見てみてえ~っ。怖いもの見たさ全開で見てみてえ~っ」
時男は話を聞きながら、恐れるどころか目を輝かせた。
その時、ひときわ大きい歓声が聞こえてくる。
「わあああっ!!」
「決勝はやっぱりあの二人だあーっ!」
目を向けると、テニスコートの中で雛と響斗が対峙していた。
「なんだよ、結局こうなんじゃん。下馬評どおりで全く面白くねえっつーの。もともと優秀トップツーじゃねえか」
時男がつまらなそうな顔を見せ、そのまま芝生の上に寝転んでしまう。
『なんだ、見ねえのか?』
「なんか悔しいから昼寝します」
茂左衛門に答えると、時男は目を閉じて本当に寝始めた。
『……神霊ねぇ』
呟きながら、茂左衛門が頬杖をつく。
模擬戦のほうは一進一退の攻防が続き、決勝戦に相応しい戦いとなった。
「うおぉぉぉ!」
「雛ちゃん、すごーいっ!!」
あまりの大声援に時男が目を覚まし、テニスコートに目を向ける。
すると、雛と蘭丸が疾風怒濤の勢いで駆けめぐり、響斗と巴をかく乱していた。
「うおっ、なんだあの速さっ」
『風の咒文だよ。自身に一点集中する超局所的な追い風で、スピードを上げてんだ』
驚く時男に、茂左衛門が冷静に説明する。
「あいつ……いつのまに……」
『どうやら秘密特訓をしてたのは、俺たちだけじゃなかったみてーだな』
「……確かに。こうなると、響斗がどう出るかだな。あいつだってただ遊んでたわけじゃねえだろうが、あんな速さで動かれたら捉えられねーだろ」
『だから、さっきから仕掛けてねーだろっ。動いて隙ができたら、そこでやられんのが分かってんだよっ。さすがだなあ』
茂左衛門の言うとおり、響斗は虎視眈々と機をうかがっていた。
その証拠に、巴が密かに咒文の詠唱を始めている。
(それにしても、すごいな。二位一体の動きをしたまま、あの速さで動けるのか。まともに戦ったら勝ち目はないだろうな)
雛たちの動きに感心しながらも、響斗の目は雛たちを捉えようと動き続けた。
(攻撃に転じる瞬間さえ掴めれば、俺たちなら仕留められるはずだっ)
獲物を狙う獣のように、その時を待つ。
――フッ――
その瞬間は、響斗の視線が一瞬だけ雛に置き去りにされた時に、出し抜けにやってきた。
「やあぁぁぁっっ!!」
雛と槍を構えた蘭丸が、その一瞬を見逃すことなく飛びかかってくる。
(来たっ!)
響斗の視線が追いついた時、すでに二人は槍を突く動作に入っていた。
「ここだぁーーっ! 巴ぇぇっ!!」
ギリギリのところで、響斗が巴の名を呼ぶ。
『任せろぉっ! 走れ言霊、輪廻火柱!』
――ボオォォォッッ!!――
その瞬間、響斗たちを中心として、螺旋状に火柱が上がった。
『まずいっ!』
蘭丸が叫びながら両手を前に突き出す。
――フバァッ!!――
途端に雛たちに吹いていた追い風が逆風に変わり、二人を響斗たちから引き離した。
「ぐうっ!」
それでも雛の右腕だけは炎に接触し、火傷を負ってしまう。
――ドサッ……――
雛と蘭丸は、そのまま背中から地面に落ちた。
「痛った~っ! 熱っつ~っ!」
重度の火傷ではなかったようで、すぐに上半身を起こす。
「ふっ。あそこから逃げに転じられるとは、すごいな。だが、さすがにその火傷はほうっておいたらヤバイだろう」
「あちゃ~、こんなんなってる。死ぬことはないけど、続行は無理かなあ~」
話しかけてくる響斗に、雛は苦い顔で答えた。
「医務室に行っておけよ。こんな模擬戦で右腕をダメにしたら馬鹿らしい」
「……そうねえ。しゃあない。今回は勝利を譲ってあげるわ」
そう言いながら、雛が左手だけを地面について立ち上がろうとする。
――スッ――
すぐさま響斗が、自身の左手を差し出した。
「さっすがジェントルマン」
雛が響斗に引っ張られて起き上がる。
この二人の姿を見て、勝敗が決したことを皆が悟った。
――パチ……パチ……パチパチパチパチッ!――
観戦していた隊外構成員たちの拍手が、あっという間に二人を包む。
二人は軽く手を挙げて、皆の拍手に応えた。
『冷静に状況判断ができてエラいよ、雛。次は勝とうね』
――フオォォォン……――
戦いの終わりとともに、右腕を押さえた蘭丸が雛の体に戻っていく。
『ふっ、次も勝たせないけどな』
強気な捨てゼリフを吐くと、巴も響斗の体に戻っていった。
「さて、隊外構成員の最強も決まったことだし、医務室に行きますかね~」
「おいおい、雛にたまたま勝ったからって、俺は自分が最強だなんて思ってないぜ」
去り際の雛の言葉に、響斗が真顔で答える。
「何言ってんのよ。今の模擬戦を見たみんなが、あんたの最強を認めてるわよ」
「……ふむ」
「……?」
「みんなねえ……」
「何よ? なぜそこで複雑な表情?」
「いや、ちょっと、おーい時男っ」
響斗は、突然声を張り上げて時男を呼んだ。
「ああっー? 何だよっー?」
時男も声を張り上げ、木陰から答える。
「ここにいる連中は、みんな俺の最強を認めてくれるそうだーっ」
「だから何だよーっ。羨ましくなんてねーぞーっ」
「いや、お前もその一人かーっ?」
「ああっー?」
「お前も俺が最強だと認めるのかって聞いてんだーっ」
「……っ!」
響斗の言葉に、時男は目を見開いた。
その時男の顔を見据えて、響斗が口角を上げる。
この時、テニスコートの周囲にいた者は、皆が同じ答えを想像していた。
弱小霊能者から発せられるであろう「認める」という言葉を、耳を澄まして待っている。
「…………へっ」
少しのあいだ固まった後、時男も響斗と同じように口角を上げた。
そして、響斗を見据えながらすくっと立ち上がり、大声で叫ぶ。
「認めねえっ!!」
この弱小と思われていた男の自信に満ち溢れた返事は、当然のごとく皆を驚かせた。




