13. ……出た必殺技
「いいからやってみようぜっ」
『するわけねーだろ! 現実的に考えろっ。そんなん熱くて持ってられねえだろうが!』
快晴の空の下、帝霧館のテニスコートには、時男と茂左衛門の言い合う声が響き渡っていた。
「久々にテニスコートにいるかと思ったら、またケンカしてんの~。今度はいったい何なのよ~?」
たまたま立ち寄った雛が、呆れ顔で時男に訊く。
「いや、なんか俺たち、ひと皮むけた感じがすんだよなあ。だから今度は、必殺技を考えてみようかと思ってさー」
「……出た必殺技。バトルとか必殺技とか、あんたの思考ってほんとクソガキよね」
「そこガキだけでよくね? クソつける必要ある?」
「で、どんなことを試そうとしてんのよ?」
「ずはり、炎の鍬!」
時男は右腕を掲げて、誇らしげに言った。
「はあ?」
「ほらっ、ゲームのRPGとかでよくあんだろ、炎の剣とかっ。あれの鍬バージョンだっ」
「……炎の鍬って。そんなん発見したら、勇者も腰抜かすわね」
雛がため息をつきながら話す。
「だろ、だろ! すげーよな? でも茂左衛門が嫌だって言うんだよ~」
「いや、褒めてないし。茂左衛門がむしろ正しいでしょ」
雛の言葉を聞いて、茂左衛門は「うんうん」と時男の後ろで頷いた。
「なんだよ、お前まで~。やっぱり女にゃ、男のロマンは分かんねーな。炎の武器は男のロマンだ」
「はいはい。そんなに炎の鍬が欲しかったら、泉にでも鍬を投げ込んでみたら? そしたら女神が現れてプレゼントしてくれるかもよー。正直者だったらね~」
言いながら、雛がテニスコートから出てってしまう。
「そりゃ金の鍬が欲しいときの話だろーっ!」
時男は「ったく」と口を尖らせながら、茂左衛門のほうに振り向いた。
「茂左衛門、いいのか? ロマンの分からない女にバカにされたぞっ。このままでいいのかっ? 男としてこのままでいいのかっ?」
『いや別に俺はなんとも……』
「お前は、男のロマンをバカにされて黙っているのかーーっ! お前はその程度の男なのかーーっ!」
拳を握りしめ、時男が熱く問う。
『うっせーなっ! 分かったよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!』
「よーしっ、それでこそ俺の守護霊だっ!」
『ったく、なーにがそれでこそだ。アホな宿主を持つと苦労するぜ……』
茂左衛門はぶつぶつ言いながらも、咒文を唱え始めた。
そのまま片手を鍬の刃の部分に当て、咒文の結びを口にする。
『走れ言霊、鬼火球投!』
――ブワアッ!――
咒文を結ぶと、手から勢いよく炎が発せられた。
「うおっ、咒文の威力が上がってるっ。やっぱ俺たち強くなってんのかもっ。これならイケるぞ!」
鍬を凝視する時男の前で、炎が鍬の刃を包む。
「できたっ、できたじゃねーか、茂左衛門!」
『お、おお。なんかできちまったな。これなら……ん?』
――ブオォォォッ!!――
二人が驚いていると、炎はあっという間に勢いを増した。
『ぎゃあああっ、炎が鍬の木柄に燃え移ったあ~っ!』
「熱っ! でも手を離すなよ、茂左衛門! 炎の鍬はこれぐらいの威力がないと……っ?」
――ポロッ――
刃と柄の結合部が燃え朽ちたせいで、刃が柄から離れ落ちていく。
『あああぁぁぁ、俺の鍬がぁ~~~っ!』
「熱ちちちちっ、もう無理、手を離せーっ!」
その後、鍬は刃の部分を残して燃えカスとなった。
――プス~ッ――
『ぐすっ、俺の大事な鍬がぁ~』
茂左衛門が四つん這いになり、泣きながら残った鍬の刃を見つめる。
「まっ、まあっ、必殺技の開発に犠牲は付き物だからさ。はっ、ははっ。たかが鍬の一本ぐらいで、そんなに落ち込むなよ~」
時男は苦笑いしながら、バツの悪さをごまかした。
『……ぐすっ』
茂左衛門は下を向いたまま何も喋らない。
「そっ、そうだっ、きっと武器に頼るからいけねえんだっ。今度は拳にしようぜ。燃える拳とかカッコいいじゃん。ははっ、なあ茂左衛門っ」
『…………うぅっ。確かに……そうだな』
時男の言葉に小声で頷くと、茂左衛門は優しく時男の手を握った。
「おっ、おお同意してくれるかっ、我が守護霊よ。じゃあ今度は……んっ?」
『走れ言霊、鬼火球投』
――ブワアッッッ!――
茂左衛門の手から発せられた炎が時男の手を包む。
「ぎゃあああ、俺の手が~~~っ!」
『よかったなあ、燃える拳ができて。けっ、ざまあみろだっ』
転げ回る時男を見下ろしながら、茂左衛門は吐き捨てるように嫌味を垂らした。
――バシャアッ――
その時、何者かがバケツに汲んだ水を時男に勢いよくかける。
「うわっ、冷た! でも助かった~っ。サンキュ~響斗」
時男の言葉どおり、水をかけたのは響斗だった。
「まったく……。いったい何をしてるんだ、お前たちは……。常人なら大ヤケドを負ってるぞ」
「いや……炎の武器を開発中でして……。ははっ。お前なら分かるよなあ、そのロマンが?」
「いや、全然分からんが……」
響斗が、顔の前で片手を左右に振る。
『だっろ~っ。こいつ、最後には燃える拳がどーだこーだ言いだしやがってよ~。バカにもほどがあるぜ。何か言ってやれよ、響斗~』
茂左衛門が話に加わり、響斗に同意を求めた。
「うむ、まあ、バカといえばバカだが、物理的に不可能ではないからな……」
響斗が顎に手を当てて答える。
「えっ、そうなのかっ!?」
『なに驚いてんだ、時男! てんめーっ、もしやできると思ってなかったなっ!』
――スカッ!――
茂左衛門が驚く時男の頭を叩こうとするが、当然のごとく手がすり抜けた。
響斗が無視して話を続ける。
「俺たちの体は、常人よりずっと高い魂力に包まれてるからな。それが、ある程度バリアの役割を果たしてくれるんだ。実際、お前の手も軽いヤケドで済んでるだろ?」
「ああ、確かにな。まあ、そうでもなきゃ、さすがの茂左衛門でも宿主の手は燃やさねえか」
「その理屈でいけば、短時間なら肉体が炎に包まれても大丈夫ってことだ。死ぬほど熱いだろうけど……」
「なるほどねー」
時男は納得の表情を見せ、そのまま茂左衛門にしたり顔を見せた。
『おい響斗、あんまり無謀なことをこいつに言っちゃダメだぜえ。そんな技、下手すりゃ死んじまうじゃねえか』
「ふっ、そうですね」
茂左衛門に答えてから、響斗が時男に視線を移す。
「そもそも体が守られていても、炎の熱は普通に感じるからな。そんなのに耐えられるのは、よっぽどのバカか、異常な根性の持ち主だけだ。そういうことだから、男のロマンとやらは諦めろ」
「えぇ~~~」
「まっ、要するにもっと健全な技を考えろってことだな。さて、俺も悪霊探しに忙しいからそろそろ行くぜ」
残念がる時男を尻目に、響斗は歩きだした。
「そうだ、軽症といっても火傷は怖いからな。医務室にはちゃんと行っておけよ」
そう言って、テニスコートを出ていってしまう。
「また医務室か~。俺、あのハゲじいさん苦手なんだよな~」
時男が言うハゲじいさんとは、MISTにおいて怪我の治療などを一手に引き受ける霊能者、狭間紋次郎であった。
未熟であるが故に、時男は怪我を負うことが多く、知らぬ間に狭間の顔馴染みになっていた。
あまりにも医務室に行く機会が多いため、最近では行くたびに説教を受けるようになっている。
「たくっ、誰かさんのせいでよお~~~~っ」
『元はといえば、全部てめえのせいだろーが!』
言い合いをしながらも、二人は医務室に向かった。
――ガチャ――
「うい~っす。すんませ~ん、また怪我しました~」
時男がダルそうに医務室のドアを開ける。
「次は気をつけますんで、今日は説教は勘弁してくだ……さ……えっ……?」
「ああ、今日は狭間先生が出張だから、私が代わりに診るよー」
時男の予想に反し、そこにいたのは丸メガネをかけた女性だった。
おっとりした声と不思議な雰囲気に、時男の動きが止まる。
「んん? なんか固まっちゃったねー」
これが時男と、三番隊の水元蛍との出会いであった。




