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12. アンパン買ってこいっ

――パアァァーーンッ!――


 廃虚となった動物園の跡地に、四発目の銃声が響きわたる。


『ぬううっ!』


 辻の拳銃から撃ち出された弾丸は、茂左衛門の左肩を貫通した。


「痛ってぇぇぇぇっ!」


 茂左衛門と痛みを共有する時男も、茂左衛門と共に蹲(うずくま)る。


「おら、ガキ。どんなに意気(いき)がっても、弾丸には勝てねえんだよ。いいかげん分かれや」


 雪之丞は、時男を見下ろしながら言った。


「くっ。てめえだって、さっきから逃げてばっかじゃねえか。遠くからバンバン守護霊に銃を撃たせやがってよおっ」


「大人の戦い方と言ってほしいねえ。銃持ってんのにガチンコ勝負するバカがどこにいんだよ。ちったあ考えろ」


――シュボッ――


 雪之丞がタバコに火をつけ、大きく吸いこんでから言葉を続ける。


「まっ、思考力ゼロの最近のガキにゃ無理かあ。なぁにが成り上がるだ。昔はお前みてえなのを“言うだけ番長”っつったんだぜ」


「うっせえ。昭和くせえんだよ、オッサンっ」


「昭和だと? 俺はこれでも平成生まれだ、小僧」


「平成!? ホントかよっ?」


「ん、何? 俺の人生をもっとよく知りたいだと?」


「言ってねえわ!」


「俺は広島の片田舎で生まれてよお。貧乏だったから、それはそれは苦労してなあ……」


 雪之丞は遠い目をして、人生を語りだした。


「俺は……こんなのに負けるかもしんねーのか。絶対に嫌だ……」


 雪之丞が行ったり来たりしながら話していると、茂左衛門が念話で再び時男に話しかける。


(逃げるなら今だぞ、時男。どうすんだ?)


(だからぁっ、俺はもう逃げねえってっ。考えがあるんだ、耳貸せ)


(念話に耳はいらねーだろっ!)


 二人は、雪之丞が語っているあいだに、ゆっくり作戦について話し合った。


「んじゃ、やってみるか」


『おうっ』


 話がまとまると、二人して立ち上がる。

 雪之丞のほうは、その頃になってもまだ話し続けていた。


「……そん時に保育園の先生が俺に言ったんだよ。太郎くん、どんな状況でも……」


「まだ幼少期の話も終わってなかったのかよ! あと本名、確実に“太郎”だよなっ!?」


 時男がツッコミをいれると、やっと話を止める。


「ちゃんと話を聞けよ、小僧。やっぱこういう話は酒でもなきゃダメか? 一杯やっか?」


「飲めねえわっ! 今度こそぶっとばす!」


「懲(こ)りないねえ、若いってバカだわ~」


――チャッ――


 雪之丞の隣で、辻がまた拳銃を構えた。


――ダッ――


 そんなことはお構いなしで、時男が雪之丞たちに向かって走りだす。


(ひ~、俺に霊の弾丸が当たらないのは分かってるけど、やっぱり怖い~っ)


 顔を引きつらせながら、時男は大きく腕を広げた。


「なんだ? 自爆でもする気……ん?」


「おらあっ!」


 雪之丞が首を傾(かし)げていると、時男が辻に狙いを定め、視界を遮(さえぎ)るように跳びはねる。


『なっ!』


――パアァァーーンッ!――


 当たらないと分かっていながらも、辻はつい時男に向かって撃ってしまった。


――スッ――


 弾丸が時男の顔をすり抜けていく。


「これでいいだろっ?」


 辻の目の前に着地しながら、時男は声をかけた。


『充分だっ』


――フォォォッ!――


 茂左衛門が、時男の背中から飛び出すように出現し、鍬(くわ)を大きく構える。


「体内に隠れていやがったかっ?」


 雪之丞は時男たちの作戦に気づいたが、時すでに遅しであった。


――ドガアァッッッッ!!――


 茂左衛門の渾身(こんしん)の一撃が辻の頭を打つ。


『がはあっ!!』


「ぐへえっ!!」


 辻はぶっ飛び、雪之丞は頭を押さえて倒れ込んだ。


「はあっはあっ、ざまあみやがれっ。茂左衛門、トドメだ! 魂帯をたたっ斬る!」


『おうよっ!』


 時男と茂左衛門が二位一体の動きをしながら、右腕を振り上げる。

 その時、雪之丞が頭を押さえながら叫んだ。


「痛ててててっ! ちょっ、ちょっと待ってくれ、兄ちゃん! 俺にはっ、面倒みなきゃならねえ母親がいるんだ!」


――ピタッ――


「……ぜってえ嘘だろっ」


 疑いながらも、時男が振り下ろそうとした右腕を止める。


「本当だってっ。そのためにアニマから抜けたんだよっ。今、おふくろ一人で住んでてよお」


「………………きたねえぞ、お前~。いきなり母親の話とかなしだろ~っ」


「ほらっ、守護霊がいると普通より強くなんだろっ? その力でこれからは真面目に働こうと思ってよお。おふくろに楽させてやりてえからさあ」


「…………マジかよ。う~~~~ん……」


 時男は迷ったあげく、腕を下ろした。


『おいおい、こんな奴の話を信じたわけじゃねえよなあっ?』


「だって、しょうがねえだろ。母ちゃんの話とかされたら、やる気なくすって」


 訊(き)いてくる茂左衛門に、時男がしかめ面で答える。


『まあ……なあ。俺にとっても、母ちゃんは神様みてーなもんだったけどよお……』


「だよなぁ……。どうしたもんか……」


『……そうだっ。こういう時のための咒(じゅ)文(もん)があんだったっ』


「えぇっ?」


 そこから時男と茂左衛門のひそひそ話が始まった。

 雪之丞が子犬のような目で見つめる中、話し終わると雪之丞に目を向ける。


――ニヤッ――


 そのいやらしい笑みは、雪之丞に嫌な予感しか与えなかった。


『走れ言霊、枷鉄拘制!』


――ギャキィン、ギャキィン――


 茂左衛門が咒文を発すると、青白く光る鉄の足(あし)枷(かせ)が雪之丞の両足首にはまる。


『これでお前は、俺が咒文を解くまで重い足を引きづりながら生きることになる。なぁに、信頼を得るまでの辛抱(しんぼう)だ』


「そっ、そんなぁ~~~」


 口角を上げて話す茂左衛門とは対照的に、雪之丞の口角はこの上なく下がった。


「心配すんな、お前が俺の舎(しゃ)弟(てい)としてがんばったら、すーぐ外してやるよ。明日から俺が“アンパン買ってこいっ”て言ったら、三十分以内に買ってこいよ」


 雪之丞を見下ろしながら、時男が嫌な笑みを見せる。


「しゃ……舎弟って……そっちこそ昭和生まれですかぁ~~? いったい何者~~?」


 雪之丞が情けない顔で見上げると、時男は胸を張って言った。


「俺? 俺はただの、言うだけ番長です!!」


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