11. 霊体はこの何倍も強いっつ~の
『余裕の四連チャンっ!』
「そこはよっちゃんにしとけっ!」
――シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!――
茂左衛門と二位一体の動きをしながら、時男が次々と動物の霊たちの攻撃を躱していく。
秘密の特訓を始めてから約二カ月、二人の成長ぶりは著しかった。
この間、道満に繋がる手がかりもなく、雛や響斗からも連絡がなかったため、ただただ特訓に集中できたことが大きかったのだろう。
――シュッ、ドガッ!――
向かってきたサイを二人同時に跳躍して避け、その後方から飛んできたムササビに茂左衛門が空中回し蹴りを放つ。
――スタッ――
『ガルルッ!!』
『なんのっ!』
着地したところを飛びかかってきた虎に狙われたが、二人とも瞬時に伏せてやり過ごした。
「よしっ、そろそろ幽霊たちが全員揃ったかっ? 今日は総仕上げだっ。動物の幽霊たちをみんな成仏させるぞっ」
『了解!』
時男の言葉を受け、茂左衛門が咒文の詠唱に入る。
『パオォーッ!』
『ウキィーッ!』
すぐに象と猿が同時に向かってきたが、大きく飛び退って避けた。
「今だ! 放てっ、基礎の初歩の入門咒文!」
『ほっとけ! 走れ言霊、幽葬昇天!』
時男の指示に合わせて、茂左衛門が咒文の結びを叫ぶ。同時に動物たちに向かって両手を突き出した。
――シュウゥゥ……パァァッ! パァァッ!――
手のひらを向けられた動物たちが次々と浮遊し、すぐに弾けるように霧散していく。
「いいぞっ、茂左衛門! そのまま全ての霊を成仏させてやれ!」
『オッケー、親方!』
「そこはせめてボスに!」
茂左衛門は全ての動物に効果が行き渡るよう、手を伸ばしながら、ゆっくり回転した。
――パァァッ、パァァッ、パァァッ――
瞬く間に動物たちの数が減少していく。
――パァァッ……パァァァッ……――
ついに最後の動物が昇天し、成仏していった。
「よっしゃあぁぁ!」
時男が両拳を掲げてガッツポーズをとる。
『ふうっ。これで、ここからも卒業だなあ』
「おうっ!」
――スッ!!――
人間と霊体であるためハイタッチを交わすことは叶わないが、二人はその仕草だけをし、その場に座りこんだ。
「いや~。俺たち、けっこう強くなったんじゃないのおっ。これでもう動物の悪霊とか、動物の守護霊持ってる奴とかがいても、なんか余裕そうだなあっ」
『バ~カ。確かに強くなったんだろうが、俺たちが相手にしてきたのは動物の幽体だぞ、幽体。霊体はこの何倍も強いっつ~の。魂が不安定な状態の幽霊とは、魂力が全然違うんだよ』
茂左衛門が呆れ顔を見せながら首を横に振る。
「え~っ、そうなのかよぉ。このままいけば勢いあまって隊長にまでなっちゃうかも、なんて思ってたのによお」
時男は、すねた子供のように両頬を膨らませた。
『まあ、んでも、これだけ動物たちと戦ったんだ。動物の霊体が出てきても、けっこう対応できんじゃねーか』
「だべーっ。ってか、そもそもお前は霊体なのに、なんでこんなに弱……んっ?」
――ザッ、ザッ、ザッ――
話している途中で、咥えタバコをした中年の男が時男の前を横切る。
男は時男に気づいていないようで、独り言を言いながらガニ股で歩いていた。
「へえ~、隠れるにはもってこいの場所じゃねえの。クソ汚ねえけどよお」
言葉と派手な服装から、男のガラの悪さが窺える。
「あと二週間も隠れてりゃあ、ほとぼりも……うわあぁぁっ!!」
時男の存在に気づくと、男は大声を出して驚いた。
大げさな身ぶりから、男が小心者であることも窺える。
「なっ、なんだてめえはっ!? こんなとこで何してやがる!?」
「いや、あの~、それってお互いに言えることだと思うんだけど……」
男のあまりの動揺に、時男は引き気味に答えた。
「ああっ!? 俺はただの散歩にだなあ……んっ? 黒服……と守護霊?」
「えっ? おっさん、茂左衛門が見えんの?」
「てめえっ、MISTかっ!」
「ほえーっ。おっさん、俺たちのことまで知ってんの? 珍しいなあ。一応、秘密組織なのに」
「くそっ、さては俺を追いかけてきやがったな! 俺は絶対に捕まらねえぞ! 俺はアニマの兵隊の中で、幹部に最も近かった男だ! かかってこい!」
「へっ?」
状況を理解できずに、時男が唖然とする。
(おい、時男。こいつ霊能者だぞ。多分、守護霊持ちだ。アニマって何なんだよ? 聞いたことあるよーな、ねえよーな)
怪しく思った茂左衛門は、念話で時男に話しかけた。
(確かアニマって、イズミさんたちが戦った違法の霊能者集団だったような……。こいつ、もしかしてその一味だった奴かな? 逃亡者みたいな感じか?)
(あーっ、思い出したぞっ。そういえば雛が言ってたなあっ。動物の守護霊ばかりを持った集団とかなんとかっ。だとしたら、腕試しにちょうどいいじゃねえかっ)
(確かにそうだな。しっかし幹部に一番近かったって……。幹部じゃなかったってことだろ? 強いのか弱いのか分からん!)
二人が念話で話していると、男が苛立ちを見せ始める。
「おう、小僧! やんのかやらねーのか、はっきりしやがれ! 男、雪之丞っ、逃げも隠れもしねえ!」
「いや、今の今まで逃げてたんでしょっ! あと絶対にそれ偽名だよねっっっ!」
「うるせえっ、来ねえならこっちから行くぞ!」
「もう~っ、分かったよっ。来やがれっ! こっちはもう動物の霊とは戦い慣れてんだ!」
「よっしゃ、行けえっ、辻!」
雪之丞が呼ぶと、拳銃を持った旧日本兵の霊体が現れた。
「いやっ、人間の霊体じゃねえか!!」
『いやっ、銃持ってんじゃねえか!!』
戦いに入ったというのに、時男たちのツッコミが止まらない。
――パアァァーーンッ!――
そんな中、辻と呼ばれた守護霊がいきなり発砲した。
『んぎっ!』
弾丸が茂左衛門の頬を掠める。
「茂左衛門! ぐっ、痛ぇっ! いきなり卑怯だぞっ、てめえ!」
感覚を共有する時男にも、その痛みは伝わった。
「へへっ、見ろ。俺はやっぱ強いよなあ。MISTの隊員でもこのザマだ。おめえ、何番隊だ? 一番隊か? それとも二番隊か?」
「っ!」
「やっぱり俺は、幹部クラスの実力を持ってたんだなあ。なあんだ、こんなことなら逃げる必要なんてなかっ……」
「何番隊でもねーよっ」
時男の怒気を含んだ言葉が、雪之丞の話を遮る。
「ああっ?」
「銃ごときにビビってる俺が、隊員なわけねーだろっ。隊員の人たちをナメんなっ」
時男は言いながら雪之丞を睨みつけた。
時男の脳裏に、イズミをはじめとした隊員たちの顔が浮かぶ。
「ちっ、下っ端かよ」
「そりゃ、てめーも一緒だろっ。幹部になれなかったお前と、隊員になれてない俺、戦うにはちょうどいいじゃねーかっ」
「一緒にすんな、小僧! 俺はマジで幹部になれそうだったんだっ。逃げてなかったら今頃は……」
「確かに一緒じゃねえなあ!」
時男はまたも雪之丞の言葉を遮り、そのまま言い切った。
「俺は逃げてねえし、絶対に逃げねえ。もう中途半端はしないって決めたんだ! 必ず成り上がる!!」




