第十三話 雪の進軍
毎日19時更新、第13話をお届けします。
今回は「不可能を可能にする戦術」をテーマに、物語の構造を大きく動かしました。
追い詰められた安東家。
ついに「弱小大名の意地?」を見せるターンがやってきました。
いざ、雪の進軍へ。
雪は止んでいた。
だが、降り積もった白は、城下の音をすべて吸い込んでいる。
昨夜までの宴の喧騒が嘘のように、城内は刺すような静寂に満ちていた。
「蘆名の軍勢、およそ三千。旧伊達領を越えて進軍中とのこと」
報告の声に、玲夢は静かに目を閉じる。
「……早い」
安東は地図を見つめたまま動かない。
「誤解だと伝える使者は?」
「追い返されたそうです。
『今さら言葉など不要』と」
昨夜まで『コンギョ』に沸き、宴会で盛り上がっていた城とは思えない。空気が、物理的な冷気とは別の何かで凍りついていた。
その時、控えていた一人の男が静かに進み出た。
用人である。
「恐れながら」
低く、落ち着いた声。
「蘆名は怒りに任せております。まともに正面から受ければ、我らが不利になりましょう」
安東が、すがるような視線を彼に向けた。
「……策があるのか」
用人は一瞬だけ目を伏せた。
「ございます。ただし……時間が必要です」
「時間だと?」
「一夜。いえ、半日あれば十分」
玲夢の眉がぴくりと動く。
「この豪雪よ。街道は塞がっているわ。兵も資材も、動かせるはずがない」
用人はわずかに、口角を上げた。
「動かせないのは、大軍だけにございます。少ないものであれば、兵も資材も運べる。
……あるいは、元々そこにある物を使えばよろしい」
その意味を、安東はすぐには理解できなかった。
同刻――蘆名陣。
「昨日までの豪雪だ。安東に備える余裕などあるはずがない」
そう言い切ったのは、蘆名家の重臣であった。
陣幕の奥で、当主・蘆名は黙したまま動かない。
「最上の無礼、許せるものではありませぬ。安東が背後で糸を引いていることは明白です!」
重臣の怒気は収まらない。だが、蘆名は地図を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「……妙だな」
「は?」
「最上義守とは、ああいう物言いをする男か? 挑発にしてはあまりに露骨すぎる。まるで、こちらを怒らせたいかのようだ」
「では、あれは最上殿の策謀だと?」
重臣が驚いた顔で蘆名を見た。
「わからん……。わからんが――」
蘆名は自らの思考を振り払うように、立ち上がった。
「――今さら、退くわけにはいかんのだ!」
「全軍、進軍開始!」
その一言で、雪を蹴立てて軍が動き出す。
だが、蘆名の胸の奥には、小さく不吉な違和感が澱み続けていた。
ほぼ同時刻―――安東の陣
玲夢はなおも用人を問い詰めていた。
「安東城……ですって?」
「一夜で何をするつもり? ……城を建てるというの?」
「城と呼べるほどのものではございません。守るための『場所』を、少々」
安東が口を開く。
「成功する保証はあるのか」
用人はわずかに言葉を選んだ。
「計算上は可能です。……ですが、戦に絶対はございません」
その一瞬だけ、彼の声に微かな緊張が混じった。
その夜。
暗闇に沈む雪原に、無数の灯が揺れた。
誰が、何をしているのか。
城内の者たちですら、その全貌を知る者はいない。
安東は、冷たい風に吹かれながら、遠い闇を睨んでいた。
「……おい」
「は」
「お前は……何を見ている」
用人は答えない。ただ、静かに告げた。
「明日になれば、分かります」
翌朝。
蘆名軍は進軍を再開した。
雪を跳ね除け、勝利を確信して進む彼らの前に、それは現れた。
「……な、なんだ。あれは」
白銀の平原。昨日までただの雪原だった場所に、忽然と影が立っていた。
柵。土塁。そして高くそびえる櫓。
簡素だが、確かに『拠点』と呼べる構えが、そこにはあった。
蘆名は目を細め、戦慄した。
「豪雪の中で、資材を運べるはずがない……。しかし、目の前のこれは一体……!」
誰かが、自分たちの先を読んでいた。
その可能性が、脳裏をよぎる。
「……何者だ、安東」
側近の重臣が、焦りを隠せずに叫んだ。
「殿! 今さら軍は引けませぬ! 幸い、拠点は小規模なもの。
このまま一気に、踏み潰しましょうぞ!」
すでに軍は止まれない。
戦は、始まる。
だが、その場にいた誰一人として。
この戦の、本当の『全貌』を理解してはいなかった。
最後まで読んでいただき感謝です!
豪雪の中で忽然と現れた謎の拠点。これぞ戦国、これぞ「一夜城」……!
用人の不敵な笑みの裏にある「計算」とは一体何なのか。
蘆名が感じている「全貌」の正体は?それは次回今後明らかになります。
この緩急の激しさが癖になった方は、
ぜひカクヨムでの応援やなろうの評価でリアクションをください!




