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【23】





ゼノンは慣れた様子で集落へと侵入し、デュークハルトもその後を追う。

進むにつれ、噎せ返る様なトロールと鉄の臭いが強くなり、二人の鼻を突く。

最大限の警戒をしながら進んで行たゼノンがふいに立ち止まり、素早く物陰に身を潜めた。

後を追うようにデュークハルトも隣へ身を潜めると、ゼノンが微かな声で促す。



「見ろよ、あれ」



示された視線の先、高く積み上げられた、何か。

集落中の赤黒い引き摺った跡の終着点――そこには手足が捥げたものや頭が拉げたトロールが物言わぬ死体となり、いくつもの山として大量に積み上げられていた。

そしてその惨状を作り出したのは今もそれを貪っている一匹の魔物のようだ。

獅子の身体に蝙蝠のような翼を持ち、食事中でご機嫌なのか蠍のような尾が左右に動いていた。

さらに獅子と人間を合わせたような顔がトロールの山の間から時折見える。

今は食事に夢中なそれは、まだ二人に気づいた様子はない。



「何故こんなところにアレが…」



視線を固定したままのデュークハルトがポツリと呟いた。

ゼノンは魔物を見つめたまま、その食事風景に顔を顰める。

魔物はトロールの肉を食べるのではなく腹を、その内臓を引きずりだして貪っていた。

グチャグチャと音を立てて。



「俺は初めて見るんだが、あれがマンティコアってやつか?」


「みたいだね。尾に猛毒の針を有する魔物だ。絶対に森の外へは出せない」



トロールを相手にしていた先程までとは明らかに表情の違うデュークハルトにゼノンも気を引き締める。

そんな彼に「あれは人肉を好む魔物だよ」との一言がデュークハルトから放たれた。



「ならさっさと片付けようぜ」



微かな声でのやり取りの中で早々の決着をゼノンが提案した瞬間、空気が変わった。

先程までグチャグチャ聞こえていた不快な食事音が消え、二人の視線の先で揺れていた尾がピタリと止まる。

マンティコアは血に濡れた顔を持ち上げると――二人を捉えた。

瞬間、弾かれたようにゼノンとデュークハルトは左右へ分かれ、トロールの山を迂回するようにマンティコアへと走り出した。


マンティコアの視線がデュークハルトを追い、狙いを定めた猛毒の尾が振り下ろされる。

迫りくる尾を飛び退き避けると、デュークハルトは剣に冷気を纏わせて一閃――中程から尾を切り落すと、尾の切断面は瞬時に凍り付いた。

さらに魔法で作った氷の槍をマンティコアの顔面に向けて放ったが、獅子の脚力で跳躍すると翼を羽ばたかせ、マンティコアは空中へと逃げ延びてしまう。

さり気なく背後へと回り込んでいたゼノンの剣が見事に空を切った。

デュークハルトとゼノンの攻撃を躱し空中へと逃げたマンティコアは、ここで始めて声を上げた。



「グオオオォォ!」



自分の尾を切られたのが不満なのだろうか。

鋭い歯を剥き出し血塗れの顔で威嚇する様はまさに手負いの獣だ。

しかも相変わらず視線はデュークハルトを追い、ゼノンには一瞥もくれない。



「あまり森では使いたくなかったけれど、仕方ないね」



空中で自分を警戒し威嚇する姿にデュークハルトは溜め息を吐くと、魔法を発動した。

ゼノンの引き攣った表情が見えたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

万が一にも空を飛んで逃げられては一大事だ。



「ゼノン、合わせてくれ」



一方的に告げるとデュークハルトは上空からマンティコアに白雷を落とす。

白雷は空中で直撃するとマンティコアの背を焼き焦がし、くぐもった絶叫を響かせた。



「ヴヴヴォォォーー!!」



痛みか衝撃か、それとも他の何かが原因なのか、白雷の直撃で落下し始めたマンティコアはピクリとも動かない。

そのまま撃ち落とされた先の地上では、剣を片手にゼノンが待ち構えていた。



「ゼノン!頭を落とせ!」


「眠りな!!」



デュークハルトの指示に剣を振るえば、鈍い音と共にマンティコアの頭が落ちた。

切断した首から血が噴き出し、マンティコアの身体が地に落ちると、辺りには鉄と焦げた臭いが漂い始める。

さらに近くには積み上げられたトロールの山もあり、辺り一帯にトロールの酷い臭いと濃い血の臭いが充満していた。

そんな中、デュークハルトがサッと手を払い周囲を凍らせる。



「うぉっ!驚くだろうが!」



突如凍り始めた足元にゼノンが声を上げるがデュークハルトは至って平然としている。



「血生臭いままにしておくよりはいいだろう?」



そう告げると周囲の血や死体を地面ごと凍らせ新たに風魔法を発動する。

風を起こすと集落に籠った臭いを強制的に押し流した。

デュークハルトのおかげでだいぶマシな状態にはなったが、血と死体が凍り付いた現場というのもなかなかに異様なものだ。



「こいつがここのトロール全部やったのか?」


「たぶんね。一応、周囲を確認してから戻ろう」



凍り付いた周囲を見てデュークハルトはとても微かな声で呟いた。

「見つかるといいけれど」と。

それはすぐ近くにいたはずのゼノンにさえ届かなかった。



「周囲に特に問題がなければ後は騎士達に任せるよ」


「おう。で、これはどうすんだ?」



視線で地面に転がる凍り付いマンティコアの頭を示せば、デュークハルトは即答した。



「持って帰るよ。トロールが森から溢れ出した原因の一端だろうからね」


「んじゃ、さっさと行くか」



なんでもない事のように凍り付いているマンティコアの頭部を鷲掴むとゼノンは歩き出す。

時刻は既に昼を回っていた。







時系列に。


≪≫…学園見学からの経過日数




 ≪当日≫シェリスとデューク、学園見学

     ↓

≪1日後≫侯爵が協力要請を出す

     ↓

≪2日後≫↓早馬

     ↓

≪3日後≫明け方、早馬がカルダナ到着

     朝、炎翼騎士団派遣・炎翼騎士団移動中

     ↓ (副団長、二番隊、六番隊)

     ↓

≪4日後≫↓【現場】(マルフォイが冒険者を偵察に出す)

     ↓

≪6日後≫【現場】朝、炎翼騎士団到着

     ↓【現場】ダフネの森へ偵察隊を出す(ハンス率いる)

     ↓【現場】夜、報告書を携えライトニングホーク飛ぶ

     ↓

≪7日後≫ 朝、領都カルダナにライトニングホーク到着

     ↓炎翼騎士団本部とデュークに報告が届く

     ↓昼、デュークが追加部隊を派遣

     ↓【現場】会議・再度の偵察案は却下

     ↓

≪8日後≫デューク、早朝に馬を駆りダフネの森を目指す

     ↓【現場】朝、副団長、追加部隊を知る

     ↓【現場】夕方、応援の冒険者達が到着

     ↓

≪9日後≫【現場】夜中、偵察隊(紅騎士)が帰還・報告

     ↓【現場】ラインフォルトの予想外の事態発覚

     ↓【現場】早朝、会議で事態の報告

     ↓【現場】デューク、到着&会議乱入

     ↓【現場】会議中にトロール氾濫発生

     ↓【現場】トロール討伐・デューク参戦

     ↓【現場】デュークとゼノン、ダフネの森へ

     ↓【現場】デュークとゼノン、トロールの集落発見

     ↓【現場】マンティコア発見&討伐

     ↓

     ↓

≪13日後≫夕方前、デューク帰邸

     ↓

     シェリス、デューク、ゼノン、応接室でお茶


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