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【21】




敵を認識し範囲を絞ったデュークハルトは、白く光る玉を強く握り、そして手を離す。

空に浮かんだ小さな白く光る玉は、デュークハルトの頭上でさらに回転数を増し、大きな音を立てる。

数秒バチバチと大きな音を立て、デュークハルトを避けるように光を放つと――無数の白い雷を地上へと落とした。


地上では騎士や冒険者達が突然の強い光に、反射的に目を瞑った。

暫く轟音と雷が落ち続けたが徐々にその数を減らし、やがて辺りを静寂が支配する。




光と音が止み目を開けた者達は、目の前に広がる光景に呆然とし、立ち尽くした。

先程まで自分達がいた場所が、自分達がが手古摺っていたトロールの群れが、その大半が焼け焦げ既に命を落としているという現状に強い衝撃を受ける。

人間の近くにいて白い雷の範囲から逃れたトロール達も、突然の事態と背後の群れの壊滅に動きを止めていた。

冒険者達もハインリッヒ騎士団も思考が追い付いておらず、この場で動いているのは紅騎士とゼノンのみだった。

紅騎士の所属する炎翼騎士団はデュークハルトの直轄の騎士団であり、彼の常識はずれな行動にも慣れていた。

創立者――彼の母セレンティーナが突飛な行動が多かったせいもある。

そんな紅騎士は動きを止めているトロールの首を容赦なく刎ねていく。



「何をボサッとしている!今のうちにオークを狩れ!」



上空からデュークハルトの怒声が響いた。

ビクッと体を揺らし、一人また一人と現状を思い出したように戦いを再開していく。

戦いと言ってもトロール達はまだ棒立ち状態のため、一方的に攻撃を加えるだけなのだが。


一部の者はぎこちなく、不自然なまでにデュークハルトの姿を視界から追い出そうとしていた。

彼等の怯えるような視線は、自分達と違う者に対する畏怖を何より雄弁に語る。

そこには再生能力が高いはずのトロール達を一瞬で焼き焦がしたデュークハルトへの恐れのようなものが見て取れた。




突如、デュークハルトの姿が今まで浮いていた空中から掻き消えた。

ザンッっと音が聞こえ背後を振り返ったゼノンの目には、頭の上半分を切り飛ばされ倒れ行く少し大柄のトロールと、白い炎を纏った剣を携えたデュークハルトの姿が映る。

いつの間に背後に移動してきたのかとゼノンはため息を吐く。



「ゼノン、待たせたね」


「あー、助かった。って言うか、いきなり押し付けんな!」


「君ならこれくらい大丈夫だと思ったからね。さて残りを片付けるか」



軽く言葉を発しながら、白い炎を纏わせた剣で辺り一面のトロールを次々切っていくデュークハルト。

次の瞬間、デュークハルトの剣に切られたトロール達は白い炎に包まれ、燃え上がった。

瞬く間に火力を増し、数十秒後には跡形もなく――文字通り灰すら残さず次々と燃え尽き、消えて行く。



「さっきのもだが、なんだそれ…」


「先程のは白雷。そしてこれは白炎だ。見ての通り、切ったものは燃え全てが灰燼に帰す」


「おいおいおい…随分と物騒だな…」


「魔力の消費が激しすぎて普段はあまり使わないんだけどね」



会話の間にサクッと周辺のトロールを狩り尽くし無に帰したデュークハルトは、右手の剣を消し、軽く肩を竦めた。



「さて、この辺りは片付いたが…問題は森の奥か」



トロールがいなくなり森までの見通しが良くなった周囲を一瞥し、呟く。



「全部が溢れてきたとは考えられねぇからなぁ。どうすんだ?」


「私が行って殲滅してくるよ」


「は?大公様が自分で森の中まで行くのかよ?」



心底理解できないというような驚いたゼノンを見て、デュークハルトは再び肩を竦める。



「上から見ていたが、今の森に安心して投入できる者は少ない。私が行くのが一番問題がなくていいからね」



何でもない事のようにデュークハルトは言うが、実は問題だらけである。

大公が部下を置いて森に入ろうとしている時点で問題しかない。

貴族ならば護衛を付けないなど普通はあり得ないし、一人で状況の分からない森に入ろうなど正気の沙汰ではないと言うだろう。

それを平然とやると言えるのは、デュークハルトがそれだけの力を有しているからだ。



「じゃあ俺は?」


「ん?」


「俺は投入できる側か?」



ゼノンの強い視線がデュークハルトを真っ直ぐ捉えた。



「君は――」


「閣下!」



遠くからラインフォルトの声が響いた。

見ればラインフォルトと共にライオスや紅騎士数人が走って来ると、デュークハルトの目の前で綺麗に止まった。

どうやら彼等はデュークハルトが上空から姿を消したのを見て、現場のトロールを片付けて走ってきたらしい。



「ご苦労様。ラインフォルトは引き続き全体に指示を。野営地付近にも人を配置しろ。紅騎士を中心に森を包囲、もしトロールがまた溢れるようなら徹底的に殲滅しろ。最悪、森を焼く払う」


「了解しました。誰かリュノンに連絡を」



デュークハルトからの命令にラインフォルトが指示を出すと一人の騎士が走り出した。

それを見つつ、ラインフォルト問いかける。



「閣下、他には何か?」


「いや、こちらはお前達に任せる。私は今から森の中を殲滅してくる」


「では部隊の編成を…まさか」



信じられないという顔のラインフォルトにデュークハルトの苦笑いが零れる。

その様子に紅騎士達がまたか、というような表情をした。

デュークハルトもそれを肯定するように頷く。



「いや、私一人でいい。さっさと片付けたいからな」


「閣下、盛大に暴れるつもりですか?」


「ライオス、人聞きの悪い。早く殲滅したいから人がいない方がいいというだけさ」



盛大に暴れると言ったライオスの言葉を否定せず話を進めるデュークハルトに、ゼノンが再び強い意志を持った視線を向けた。

ゼノンを視界に捉えながら、それでもデュークハルトは話を進める。



「この場の守りをお前達に任せる。守り通せ」



行けと促し彼等が行動に移ったのを確認すると、デュークハルトは改めてゼノンへと向いた。

視線が交わった瞬間、待っていたようにゼノンが口を開く。



「大公様、俺も連れて行けよ」



やけに前のめりの、ダメなら勝手に付いて行くとでも言いそうな勢いで。

その様子に思わずまたデュークハルトから苦笑いが漏れる。



「構わないよ。一緒に来るといい。君ならたぶん大丈夫だろう」


「大丈夫って何がだ?」


「私が魔法を放ってもある程度なら死にそうにないから」



デュークハルトは悪戯っぽい目であっけらかんと言い放った。



「いや、死ぬだろ!って言うか今、魔法って…」


「私は“魔導士”だよ。さっきの白雷も魔法だし、もちろんこの剣もね」



デュークハルトが右手に掲げると魔力が集中し、剣が生まれた。

それに白い炎を纏わせれば、先程までトロールを切り跡形もなく消滅させていた剣の出来上がりだ。



「…あー、やっぱりか…あんたとんでもねぇなぁ…」



剣とデュークハルトをゼノンは半笑いで見つめた。

「さすが“証”持ちの大公様…」と零しながら。



ここ最近、セブンフォード王国は世界で唯一となる“魔導士”の存在を公表した。

ただ詳細は伏せられたままで、公表されたのは“魔導士”が国内にいるという一点のみ。

この内容に他国の上層部や関係各所は懐疑的な目を向けていた。

虚偽だと言う者もいたが、こんなことを理由もなく公表するほどセブンフォード王国は愚かではないと皆が静観している状況だ。


その“魔導士”が、まさか目の前にいるとは誰も思うまい。

しかもそれが大公位を持つ十三歳の少年だなど誰が思うだろうか。



空中で魔法陣もなく魔力行使したデュークハルトの姿をゼノンはしっかりと認識していた。

またデュークハルトも上空にて、地上のゼノンの様子を視界に捉えていた。

顔を引き攣らせ、度々デュークハルトに視線向け来ていたのを。



「ふふふ、やっと硬い話し方が崩れてきたね」


「これでも大公様に気を遣ってんだよ。一応な」


「ふふふ、そうかい」



左手で口元を手で隠し、それでも笑うデュークハルト。

それに対してゼノンが「笑うな!」と声を上げるが、どこ吹く風。

楽しそうに暫く笑うとデュークハルトはスタスタと森へ向かって歩き始めた。



「おい、大公様?」



突如歩き出したデュークハルトに取り残されたゼノンが声を上げると、また楽しそうな笑いが漏れた。

それでもデュークハルトは止まらずに声だけを返す。



「ほら、行くよ」


「あ?」


「さっさとトロールを殲滅するよ、ゼノン」



遠くなったデュークハルトから、遠くなった分だけ小さくなった声が届く。

「早くしないと置いていくよ」と。

背中を向けたまま歩いて行くデュークハルトに、ゼノンは弾かれたように走り出した。



太陽は昇り、時刻は既に八時を回っていた。







分かりやすく時系列に。


≪≫…学園見学からの経過日数




 ≪当日≫シェリスとデューク、学園見学

     ↓

≪1日後≫侯爵が協力要請を出す

     ↓

≪2日後≫↓早馬

     ↓

≪3日後≫明け方、早馬がカルダナ到着

     朝、炎翼騎士団派遣・炎翼騎士団移動中

     ↓ (副団長、二番隊、六番隊)

     ↓

≪4日後≫↓【現場】(マルフォイが冒険者を偵察に出す)

     ↓

≪6日後≫【現場】朝、炎翼騎士団到着

     ↓【現場】ダフネの森へ偵察隊を出す(ハンス率いる)

     ↓【現場】夜、報告書を携えライトニングホーク飛ぶ

     ↓

≪7日後≫ 朝、領都カルダナにライトニングホーク到着

     ↓炎翼騎士団本部とデュークに報告が届く

     ↓昼、デュークが追加部隊を派遣

     ↓【現場】会議・再度の偵察案は却下

     ↓

≪8日後≫デューク、早朝に馬を駆りダフネの森を目指す

     ↓【現場】朝、副団長、追加部隊を知る

     ↓【現場】夕方、応援の冒険者達が到着

     ↓

≪9日後≫【現場】夜中、偵察隊(紅騎士)が帰還・報告

     ↓【現場】ラインフォルトの予想外の事態発覚

     ↓【現場】早朝、会議で事態の報告

     ↓【現場】デューク、到着&会議乱入

     ↓【現場】会議中にトロール氾濫発生

     ↓【現場】トロール討伐・デューク参戦

     ↓【現場】ゼノンと二人、ダフネの森へ

     ↓

     ↓

≪13日後≫夕方前、デューク帰邸

     ↓

     シェリス、デューク、ゼノン、応接室でお茶


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