【12】
評価くださった皆様、誠にありがとうございます。
ブックマークしてくださった方もありがとうございます。
とても嬉しいです!
(いつの間にか増えててドキドキしてます…)
更新も遅ければストーリーの進行も遅いという…申し訳ないです。
スローペースなのでまだだま先は長いですが、よろしければ気長にお付き合いください。
「王宮から早馬で知らせが届いた。…父が死んだそうだ」
お兄様から簡単に話を聞いた感想は「なくなりましたの…ね」だった。
薄情すぎる反応だとは思うが、前世も今世も殺されかけていて前々世の記憶もガッツリ持っている私。
そんな私が父の死を悲しむことが出来るかと問われれば、答えはノーだ。
殺人未遂、幼児虐待、育児放棄などなど…上げ出したら限がない。
葬儀の手配はお兄様が中心となってセバス達使用人と取り仕切ってくれたので、三歳児の私はおとなしくしているだけだった。
邸の誰も悲しむことなく事務的に手配された葬儀だったが、私は特に思うこともなく、当日も課されたことを粛々と熟し、そこにあるだけだった。
そんなわけで悲しむことも号泣することもなく、私とお兄様は父の葬儀をサクッと終えた。
ただ、予想外の事態がなかったわけではない。
例え形だけだろうと大公家当主の葬儀、多くの貴族や関係者が参列した。
もちろん、そんな大勢と接する機会は今世ではなかったため、緊張を状態を強いられていた。
初めて会う方々も多い中、あまり嬉しくないことに前世で馴染みのある方々もちらほら。
父の弟であるヴァジリスタ国王陛下はもちろんのこと、王族の方々も。
出来るだけ関わりたくなかった第一王子カイン・セブンリード様。
まだ幼い彼は参加しないだろうと思っていたが、彼は王妃ヘレナフィアン様に手を引かれながら、まだ小さな手で父に花を供えていた。
その後、王妃ヘレナフィアン様とカイン第一王子に声を掛けられ少し話もしたが、良くも悪くもまだ幼く普通の三歳児だった。
前世では父が亡くなってすぐ、王家からカイン第一王子との婚約話が持ち込まれたので警戒していたのだが、さすがに葬儀の席では憚られたのだろう。
彼との婚約は話題にも上らず、私は人知れず胸を撫で下ろした。
意外なところでは、側妃のキャロライン様もお見えになった。
葬儀に出席した側妃とは思えない場違いな装飾品と、とても高圧的な姿だったが。
今世では初めて見る王族の方々だが、苦い思いがないとは言えない。
前世が前世だったのだ、それもしかたないだろう。
その上、葬儀後に側妃様がやらかした。
私はお兄様と共に側妃キャロライン様に呼ばれ、お話を伺いに側妃様の控室を訪れていた。
側妃付きの侍女達を従え堂々と、とてもいい笑顔で迎えられた。
ご自慢の金髪に重そうな宝石の付いた金の髪飾りを揺らし、黄緑の瞳に蔑むような色を浮かべて。
そこに上品さをお世辞にも全く感じないのだが、大丈夫なのかと場違いにも心配になった。
ちなみに心配したのはキャロライン様のことではなく、この国。
側妃がこれで本当に大丈夫?
今、葬儀が終わったばかりだけど…遺族を前にその笑顔ってどうなの?
いや、まったく悲しくないからいいんだけどね。
常識的にどうなの、って思っただけで。
カイン第一王子と話したことで落ち着かない私の心は、自分で思う以上に荒れていたのだろう。
挨拶も何もかもを無視してペラペラと話し出したキャロライン様につい、冷めた視線を向けてしまった。
「あたくしがあなた達に力を貸してあげるわ。喜んでちょうだい」
「本日は参列頂き、誠にありがとうございます。キャロライン様、お力添えとは?」
仮にも葬儀後だ、形式だけでも何か述べるべきだろうに…。
それを省略できる程、キャロライン様と私達は親しい間柄ではない。
それでもちゃんと対応するお兄様は大人だ。
いや、年齢的には未成年で子供なんだけどね。
どうやら家に対するお話のようなので、私は求められない限りお兄様の横で無言を貫くことにした。
私が話すと面倒事になりかねないし、何よりこの人が面倒くさい。
ぶっちゃけて言えば、苦手である。
「うふふ、喜ぶといいわ。あたくしが大公家の後ろ盾になってあげる」
何を言い出すかと思えば、まさかの大公家の後ろ盾。
前世でもそうだったが、小国から嫁いできた側妃のキャロライン様はこの国の人脈や権力などを殆ど持っていない。
小国の元王女なのだが、彼女は社交があまり上手ではない。
本人は得意のつもりかもしれないが彼女の性格もあり、前世では周囲から距離を置かれていた。
そんなキャロライン様が後ろ盾など、ありえない。
「両親共に既に亡く、頼る身寄りもないでしょう?あたくしが庇護してあげるわ」
言葉の裏に“可哀想なあなた達を”という感情が見え隠れしている。
伯父様もいるし、何より国王陛下が叔父なのだが…忘れてるのだろうか?
そもそも庇護って、この人が?
いったいどういう風の吹き回しなのか。
そしてかなり上からの物言いだが、お兄様…あらら?
優雅な微笑みで感情を隠してる。
なんだか空気がとても不穏ですよ。
「庇護、ですか?それはつまり?」
「代わりにあたくしの息子の第三王子リトアスの婚約者としてその子を寄越しなさい」
キャロライン様から飛び出した発言に私は固まった。
いろいろな意味で、固まった。
そして視界に映るお兄様は――聞いた瞬間のお兄様の笑顔はとても怖かった。
顔には優雅な微笑みを湛えているのに、まるで笑っている感じがしない。
キャロライン様が横暴なほどに一方的に突き付けた条件。
それがまた、お兄様の怒りに触れたのだ。
私も自覚はあるが、お兄様は私に対して過保護であり、超重度のシスコンだ。
私最優先の妹至上主義者だ。
もし私が「国外で暮らしたい」なんて言えば、大公家やその他諸々を放り出して国外で一緒に暮らしてくれるだろうと思う程度には。
そんなお兄様になんてことを…。
今も変わらず、お顔は優雅な笑みを湛えているが、目が笑っていない。
全身から溢れ出した凍るようなお兄様の空気を物ともせず――まったく感じていないのかもしれないが――好き勝手に話し続けるキャロライン様に側妃付きの侍女達がハラハラし、一人がそっと部屋を出て行った。
たぶん報告か応援を呼びに行ったのだろう。
暫くして報告を受けたのか、事態に気づいた国王陛下は大慌てでやって来くると側付きに命じてキャロライン様を回収。
やっと室内が静かになり、私はようやく苦手な人から解放された。
例え悲しんでいなくとも葬儀直後、仮にも側妃が欲望丸出しの高圧的な態度で大公家に圧力をかけようとしたなど、不謹慎であり醜聞でしかない。
キャロライン様を回収した国王陛下にお兄様は一言。
「国王陛下、ご対応はお任せいたしますよ」と、それはそれはいい笑顔だった。
にこやかに言ってはいるが、要は大公家が納得できる対応をしろということだ。
乱暴な言い方をしてしまえば、自分の嫁くらいちゃんと躾けろと。
お兄様、まだ十三歳よね?
今、さりげなく国王陛下に圧力かけたよね。
これくらいでないと未成年で大公は務まらないのかもしれないが、凄い度胸だと思う。
相手にしなければいけない国王陛下にはちょっと申し訳ないけれど。
溜息を吐き帰って行く国王陛下の背中に哀愁が漂っていたように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。
葬儀後、異例ではあったが特例扱いで時間を置かず、お兄様は大公家の当主となった。
前世も成人前の十五歳と異例だったが今世では十三歳での当主継承、王国始まって以来の前代未聞の事態だろう。
反対する者もいたようだが、国王陛下やリーンフォード公爵の伯父様に睨まれ慌てて逃げ帰ったんだとか。
セバスから聞いた話では、側妃のキャロライン様もお兄様の大公位継承に異を唱えたらしい。
「若すぎるわ。まだ成人もしてないじゃない」と。
しかし国王陛下にあっさりと却下されたそうだ。
その後も懲りもせず訴えていたらしいが、取り合ってさえもらえなかったんだとか。
国王陛下も可哀想に…たぶん葬儀の日のあれが効いていたのだろうなぁ。
悲しみはまったくないが、お兄様は父の死でまた忙しくなってしまった。
それでも時間を作って約束通りに私を街に連れて行ってくれた。
久しぶりに街に降りた私はお兄様を引っ張りまわし、いつも邸から見下ろしていた領都カルダナを満喫したのだった。
もちろん、甘く蕩けるように微笑むお兄様と一緒に。
【蛇足】
お兄様、キャロライン様との挨拶の冒頭で「お忙しいところ」を抜いているのはわざと。
キャロライン様、まったく気にしてないけれど。
というか、気づいてすらいない(笑)
お兄様、シェリスがキャロライン様に冷めた視線を送ったのに気づいちゃってる。
そのせいもあって、お兄様は丁寧な対応をする気なし。
もし既に大公位を継いでいたら、きっとこんな優しい対応じゃなかったはず。
国王様が早めに回収に来てよかったね。
そして回収がもう少し遅ければリーンフォード公爵の伯父様が来ちゃう。
前公爵のおじい様と苦労人のウォルフガング様も来ちゃう。
国王様の胃痛悪化待ったなし(笑)




